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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
2章 無理が通れば道理引っ込む

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第11話 ファンタジーな人々

 幽霊ぽいものや妖怪みたいなものは、少々怯んでも無視できるようになってきたのだけど、ゲームやアニメに出てきそうなファンタジー世界の住人は、珍しくてついつい目で追ってしまう。

 ずんぐりとした筋肉隆々のドワーフや緑や灰色をした皮膚の人間ぽいもの。一つ目の巨人やユニコーンなんかはちょっと怖い。耳の長いエルフやドラゴンはまだ見かけていないけれど、スライムは今、目の前を横切っている。


 彼らはだいたい本から本へと移動するのだが、無駄に迷わないようになのか、出入りのある本同士は直線上に配置されているようだ。中には行き先が複数あるものもいるようだが、そういうのは人型に近い形をしていることが多い。

 今回のスライムは一番下の棚の本から出てきて、向かいの一番下の棚の本に向かっているというわけだ。進行の邪魔をしないように棚の整理をしている振りで少し待つ。

 不定形な彼らが床を移動すると、ごみを巻き込んだりしがちなので、拭き掃除までしておいて良かったなと思う。そういうことをあちらが気にするかどうかは定かではないけれど。


 体の一部がにゅるんと伸びて、本を引き出した。パタンと倒れた本はひとりでに開いて、その上にスライムが覆いかぶさる。そのまま本に吸い込まれるように消えて、移動は完了なのだが。

 ……消えないね?

 目の端で見ていたのを首を回して確認する。

 スライムはぷるぷると小刻みに震えたかと思うと、ぽこぽこと泡立ってきた。

 あ。これはまずいやつ。


 反射的に数歩下がったところでスライムの体が四方八方に弾け飛んだ。天井や床、並んでいる本にもべとべとが張り付いていて、これが固いものだったり、鋭く尖ってたりしたら命にも関わるところだとぞっとする。

 そっとスライムを窺えば、本体の大きさが半分くらいになってしまっていた。結構な量が飛び散ったようだ。


 とっさに腕で庇ったので顔に張り付かれて窒息するのは避けられたけど、肩やひざにはねっとりしたものが付着していた。

 スライムはぽこぽこと泡立ちながらぴょこぴょこ跳ねているので、ご立腹なんだなとなんとなくわかる。もちろん言葉など通じないので、何か語り掛けられる気配があれば、店主を呼ぶことになるわけだが。

 近づいて足蹴にされている本に手を伸ばせば、スライムは本の上から退いてくれた。

 べたべたになった本は洋書だったけれど、普通の小説だった。


「あれ……」


 棚を確認すれば、隣にお目当ての非売品の本がある。


「すみません。手違いのようで……」


 開いて床に置いてやると、ぽこぽこしながらもスライムは本の中へと消えていった。文句は言っていたかもしれないが、お咎めはなさそうでホッとする。

 飛び散ったべとべとは、半分くらいは本へと吸い込まれて消えたけど、残りは乾くのを待って地道に剥がしていくしかない。肩を落として息を吐き出せば、テディがティッシュを差し出してくれた。


「ありがとな。本の配置は気をつけてるんだけど……慣れてきてうっかりしたかな」


 ほんの一冊分でも本の配置を間違うと、だいたい酷いことになる。

 一つ目巨人は大暴れして店の中だけ大地震があったような有様になって、棚という棚から本が落ちてしまうし、人魚やケルピーなんかは店中を水浸しにするらしい。

 スライムはまだかわいい方なのかもしれないけれど、後片付けは憂鬱だ。

 バイトが続かないというのも、そりゃそうだよなと納得してしまう。

 ただ――娯楽の少ない田舎で、そうそう体験できないことをしているという実感はあって、それがそんなに嫌いじゃないんだなと、一生懸命べとべとを拭き取ろうとしているテディを見て思う。


 都会ではそんなことに目を向ける余裕もなかった。

 オカルトや物語はどこか遠くのものだったし、自分に適性がありそうだということにびっくりだ。


 ちょっと感慨に浸っていたら、目の端を何かが横切った。

 なんだ? と辺りをよく見れば、蝶やトンボのような翅をもつ妖精が楽しそうに棚の向こうへと飛んでいくところだった。

 嫌な予感がして、慌てて棚を回り込む。

 棚の裏側では、本を引き抜いた一匹がもう一匹の持っている本と交換して、差し入れ直している。


「お……」


 一瞬声が出なかった。一度咳払いをして喉を開く。


「お前らーーー! 本を入れ替えるな! 元に戻せ!!」


 きゃー! と楽しそうな笑い声をあげて、妖精たちは三々五々逃げていく。

 ちょっと待て、どの本に入った?

 今度見つけたら、出てこれないように紐でぐるぐるに縛ってやる!


 憤ったものの、結局一から確認と並び替えをする羽目になったのは、言うまでもない。


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