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第23話 黒羽村の金色③

 昼を過ぎたころ、ようやく県警の車が数台、黒羽村に到着した。

 青い光が山の中を揺らし、湖畔に張られた黄色いテープが風にはためく。


 楠木は県警の刑事たちと合流し、昨夜の状況を細かく説明していた。

 「銭湯の高台から河原を見下ろしたときには、被害者と“仮面の人物”が確かに見えた。

  だが、我々が現場に到着した時点では、どちらの姿も消えていたんです」


 刑事たちは首をかしげながらメモを取り、鑑識班が湖畔や河原を念入りに調べ始めた。

 警察犬まで出動し、山側の道を嗅ぎ回る。

 しかし、血の跡も、足跡も、何ひとつはっきりしたものは残っていなかった。


 ――そのころ。


 ねむと悠真は、旅館のロビーで温いお茶を飲みながら休んでいた。

 県警の調査は長引きそうだ。楠木からは「先に戻っていろ」と言われている。


 ねむは湯呑みを置き、ぼそっとつぶやいた。

 「……昨日のこと、整理したい」

 「整理?」

 「うん。もう一回、現場をちゃんと見ておきたい」


 悠真は少し戸惑ったが、結局彼女のあとを追った。


 昼下がりの陽射しの中、二人は再び川沿いの道を歩く。

 夜とは違い、あの河原も静かで穏やかに見えた。

 しかし、ねむの目はじっと流れを追っている。


 「ねぇ、悠真。この川……思ったより流れ、ゆっくりだよね」

 「そうだな。水深はあるけど、あんな短時間で死体が流れるほど速くはない」

 「やっぱり……おかしい」


 ねむは川べりにしゃがみ込み、水面を覗き込んだ。

 底の小石がゆらめき、どこか濁っている。

 そのとき――。


 「うわっ、血!?」

 悠真が声を上げた。

 ねむが振り向くと、彼が指さす小石の隙間に、赤いものが光っていた。


 ねむは慎重に手を伸ばし、それを拾い上げる。

 ねっとりとした感触。ぬめりのある赤。


 「……血の塊?」

 光にかざすと、まるでスライムのようにゆらめいた。

 「でも、血ってこんなに弾力ないよね……」


 ねむは眉をひそめた。

 水気を拭うと、それは微かに光沢を帯びている。

 「……人工的な何か、かも。樹脂っぽい」


 悠真が心配そうに覗き込む。

 「新藤さんの血……じゃないのか?」

 「分かんない。でも、もしこれが血じゃないものなら――」

 ねむは袋からハンカチを出して、それを包み込んだ。

 「……これ、何か事件に関係あるかも」


 二人は川沿いを歩きながら、昨日の記憶をたどる。

 新藤と久我に面識があったのが気になった。


 「……やっぱり、久我さんに話を聞こう」

 ねむは立ち上がった。

 「もしかしたら何か知っているかもしれない」


 悠真は小さくうなずく。

 「でも、久我さん……ほとんど部屋にこもってるみたいだぞ」

 「余計、気になるじゃん」


 ねむは旅館の方角に向き直り、目を細めた。

 ――昼の光の中でも、墨蓮湖の方角には、かすかな黒い影が漂っているように見えた。


 (夜のうちに死体を運ぶ時間はなかったはずだし、車でも使わないと血の跡が道のりに残るはず……じゃあ、誰が? どうやって?)


 風が山を渡り、遠くでまた一羽、カラスが鳴いた。

 ねむの背筋を、ひやりとした感覚が走った。


 「行こう。久賀さんの部屋へ」

 そう言って歩き出すねむの目は、もう完全に“探偵”のそれになっていた。


 ねむが部屋の前でノックをすると、少し間をおいて――

 「どうぞ」

 と落ち着いた声が返ってきた。


 襖を開けると、部屋の中は整然としていた。

 低いテーブルの上には分厚い地質学の専門書とノート、そして村の地図。

 久賀は眼鏡越しに顔を上げ、穏やかに微笑んだ。


 「失礼します。少しお話、いいですか?」

 ねむが丁寧に頭を下げる。


 「構わないよ。どうぞ座って」

 久賀は本を閉じ、ページの角を指先で揃えた。


 ねむと悠真が向かいに座ると、部屋には紙と古いインクのような匂いが漂っていた。

 テーブルのノートには「鉛層」「堆積傾斜」「水脈方向」など専門的な文字が並んでいる。


 「……地質の研究をされてるんですか?」

 「まあね。半分は趣味で、半分は仕事。昔は大学で地学を教えてたんだ」

 久賀は柔らかく笑いながら、地図を指でなぞる。

 「この辺りはね、地層が複雑で面白いんだ。

  墨蓮湖が黒く見えるのも、鉛や硫化鉄が地下水に溶け出してるせいだよ。

  まるで地面が“墨を吐いてる”ようだ」


 「……地面が、墨を」

 ねむはその言葉を反芻しながらも、本題に入る。

 「――久賀さんは、新藤さんと面識があったんですか?」


 久賀は少しだけ目を細め、懐かしむように微笑んだ。

 「ああ、以前地質調査に来た時にね。

  随分長く滞在したから顔見知りの村人も数人いてね。

  村を出てからは会ってなかったけど、昨日ここで偶然再会してね。

  懐かしい話を少ししただけさ」


 「夕食後は何されてたんですか?」

 ねむが問うと、久賀は静かに息を吐いた。

 「外に出て、風に当たってた。昨日は月がきれいだったからね。

 宿の裏のほうまで歩いて、川の音を聞いてたんだ。

 そのあと悲鳴が聞こえた。すぐに、声のした方へ行ったら、そうしたら君たちがいた。」


 悠真が小声でねむの耳に寄る。

 「ねむ、久賀さん――たしかに俺たちが河原に到着したあと、すぐ合流してたよ」

 「うん。タイミング的には合ってる」

 ねむは頷きつつ、久賀の表情を観察する。


 「君たちは捜査でもしてるのかい?」

 久賀が穏やかな口調で言う。

 その笑みの奥に、かすかな探るような光が宿っていた。


 「ずいぶん可愛らしい探偵さんだね」

 冗談めかした声。だが、ほんの少しの棘が混じっている。


 ねむは柔らかく笑って立ち上がった。

 「いえ、ただ気になってるだけです。お話、ありがとうございました」


 軽く会釈して部屋を出ると、廊下には夕方の光が差し込んでいた。


 階段を下りてロビーに向かうと、そこには朝比奈美奈がひとり腰かけていた。

 足を組み、マグカップをくるくると回している。


 ねむたちに気づくと、唇の端をわずかに上げた。

 「――探偵ごっこ?」


 ねむはその挑発に乗らず、静かに返した。

 「“ごっこ”じゃないですよ」


 朝比奈の笑みが、わずかに深まった。

 その目の奥には、何かを知っているような――影の光が潜んでいた。


 ねむは朝比奈の向かいの席に腰を下ろした。

 「ひとつ、聞いてもいいですか?」


 朝比奈はマグカップをくるりと回したまま、目だけを上げる。

 「なにかしら?」


 「……この村に、何をしに来たんですか? ほら、この村何もないですし」


 「取材よ」

 短く答えて、朝比奈は微笑んだ。

 「一応、記者なの。フリーだけどね」


 「取材って……この村の?」

 「そう。この黒羽村には、数年前にも“事件”があったのよ」


 ねむがわずかに眉をひそめる。

 「事件?」


 「ええ。失踪事件。行方不明になったのは――久賀さんの助手だった青年よ」

 朝比奈は淡々と語るが、その声音の奥には確かな棘があった。

 「久賀さんがまだ地質学者として駆け出しの頃、この村の鉱脈を調査していた時期があってね。

  彼の助手だった青年が、調査中に姿を消した。遺体も見つからなかった」


 「……初耳ですね」

 ねむはゆっくりとつぶやく。


 「でも不思議なのよ」

 朝比奈はマグをテーブルに置き、身を少し乗り出した。

 「その事件のあと、久賀さんは“黒羽村の地質構造に関する研究”で論文を出して、大成功したの。

  一躍有名になったのよ。――ね、ちょっと怪しくない?」


 ねむは沈黙したまま、テーブルの木目を指でなぞった。

 確かに、何かが引っかかる。

 (失踪事件のあとに論文の成功……偶然にしては出来すぎてる)


 朝比奈は肩をすくめ、軽く笑った。

 「まあ、噂レベルだけどね。私は“その真相”を取材しに来たの」


 その瞬間――。

 廊下の向こうから、ぱたぱたと足音が近づいてきた。


 「お昼できましたよー」

 木島とよ子さんが顔をのぞかせる。

 割烹着姿のまま、いつもと変わらない柔らかな笑顔だった。


 「ありがとうございます」

 ねむが立ち上がろうとした瞬間――。


 ぐぅぅぅぅ……。

 静かなロビーに、ねむの腹の音が響いた。


 朝比奈が思わず吹き出す。

 ねむは頬を少し赤くしながら言った。

 「頭を使うとお腹が空くんです」


 「探偵の燃料ね」

 朝比奈はくすりと笑った。


 ねむは軽く会釈して、食堂へと向かう。

 香ばしい出汁の香りが廊下を満たしていた。

 (久賀さんの過去、朝比奈さんの取材、失踪した助手……)

 頭の中で、ひとつの糸がゆっくりと結びついていくような気がした。


 けれど今は――。

 「とりあえず、ごはん」

 ねむはそう呟き、湯気の立つ昼食へと歩いていった。


 昼食の時間。

 湯気の立つ味噌汁と焼き魚の香ばしい匂いが、広間いっぱいに漂っていた。


 ねむが箸を進めながら「この煮物、地味にうまい」と呟いたちょうどそのとき――

 「おー、腹減ったー!」

 元気な声とともに、楠木が食堂に入ってきた。


 「おかえりなさい」

 悠真が顔を上げる。

 「お疲れ様です」と丁寧に言う悠真に対して、

 ねむは片手をひらひらと振って、

 「おつかれー」


 「軽いな!」

 楠木が苦笑しながら席に着く。


 「どうだった?現場」


 ねむが聞くと、楠木は湯気の立つご飯をかき込みながら言った。

 「色々分かったよ。……飯食ったら話す」


 それだけ言って、ものすごい勢いで箸を動かし始めた。

 ねむと悠真は思わず顔を見合わせる。


 「刑事って、やっぱ体力勝負なんだね」

 ねむが感心したように言うと、

 悠真が苦笑しながら返した。

 「……大変な仕事だよな、ほんと」


 食後。

 テーブルの上にはコーヒーの湯気がゆらめいていた。

 楠木はカップを片手に、ようやく落ち着いた様子で口を開く。


 「検死結果、速報が入った。――やっぱり、あの胸の切り傷が致命傷だな」


 ねむと悠真の表情が引き締まる。


 「死亡推定時刻は?」

 ねむが尋ねると、楠木は苦い顔をした。

 「……それが、正直あいまいなんだ」


 「曖昧? そんなことある?」

 ねむが眉を寄せる。


 「あの湖のせいだ。あの“特殊な水質”が、死後の体の変化を狂わせてる。

  検視官も首をかしげてたよ。

  ただ――ある程度、長い時間水に浸かってたのは確かだ」


 「溺死ってわけじゃないんですよね?」

 悠真が聞く。


 「いや、肺に水が入ってた。つまり、生きてるうちに水を吸い込んでる可能性がある」

 楠木の声が低くなる。

 「傷を受けて倒れて……そのあと水の中に沈んだ。そんな感じだ」


 ねむは顎に手を当てた。

 「他には?」


 「調べてるけど、何も出ない。

  足跡も、血痕も、争った形跡もなし。

  まるで……現場が“綺麗すぎる”んだ」

 楠木はコーヒーを一口すすり、眉間に皺を寄せる。

 「逆におかしいくらいだ」


 ねむは黙ってその言葉を噛みしめた。

 指先でカップの縁をなぞりながら、静かに呟く。


 「……逆に“鮮やかすぎる”」


 悠真が首を傾げる。

 「どういう意味?」


 ねむの目が少しだけ鋭くなる。

 「まるで――“見せるために作られた現場”みたいでさ」


 風が、窓の外の木を揺らした。

 ねむの言葉が、ゆっくりと重たく部屋の空気に沈んでいった。


 楠木は最後にコーヒーを飲み干すと、椅子から立ち上がった。

 「じゃ、俺はもう一度現場戻る。県警のやつら、まだ調べ残しがあるらしい」


 「おつかれさまです」

 悠真が頭を下げる。

 「無理しないでね」

 ねむも手を振った。


 「おう。……謎解きの方は任せたぞ、ねむ」

 そう言い残して、楠木は旅館の玄関を出ていった。

 ドアの閉まる音が、やけに静かに響く。


 夕暮れ時。

 台所の方から、包丁の小気味いい音が聞こえてきた。

 廊下には、煮物の甘い匂いと味噌の香りが漂っている。


 「こんばんは、木島さん」

 ねむが顔をのぞかせると、割烹着姿の木島とよ子が鍋をかき混ぜながら振り向いた。

 「まぁ、ねむちゃん。夕飯もう少し待ってて下さいね」


 「さっき食べたばかりだから、流石に、まだ大丈夫ですよ!いつも木島さんが作ってるんですか?」

 ねむが聞くと、木島はにこりと笑う。

 「そうよ。藤田さんは包丁持たせると危なっかしいからね」


 「大変ですね」

 悠真が言うと、木島は手を止めて首を振った。

 「いやいや、人数もそんなに多くないから。ちょうどいいくらいよ」


 ねむは台所の隅に積まれた野菜のかごを見ながら、ふと思いついたように尋ねた。

 「いつからここで働いてるんですか?」


 「そうねぇ……もう数年になるかしら」

 木島は鍋のふたを少し開け、湯気をのぞき込みながら続ける。

 「都会の暮らしにちょっと疲れてしまってね。静かな場所で暮らしたいなぁと思ってたの。

  そんな時に、この旅館の住み込み募集を見つけて。運良く受かったのよ」


 「へぇ、なるほど。空気も綺麗ですもんね」

 ねむが頷くと、木島は照れたように笑った。

 「そうなの。朝になると、山の匂いがしてね。最初の頃は、それだけで泣きそうになったのよ」


 そのとき、背後から低い声がした。

 「ほんとに、とよ子さんには助かってるよ」


 振り返ると、藤田浩平が帳簿を片手に立っていた。

 仕事帰りらしく、袖をまくった作務衣の腕にうっすら汗が光っている。


 「叔父さん」

 悠真が立ち上がると、浩平は笑って手を振った。

 「とよ子さんが来てくれてから、うちはずいぶん救われてるんだ」


 木島は少し恥ずかしそうに手を振った。

 「そんな、大げさですよ」


 「いや、ほんとだよ。料理もうまいし、宿の空気も柔らかくなった。

  俺ひとりじゃ、こんなに長く続けられなかったさ」


 コンロの火がぱちりと弾けた。

 湯気の向こうで、二人の笑顔がほのかに灯っていた。


 夕暮れが山の端に沈み、宿の外はしんと静まり返っていた。

 ねむは縁側に立ち、ふと伸びをする。


 「夕飯まで、少し風に当たってくる」

 そう言って外に出ようとすると、すぐ背後から声がした。


 「俺も行く」

 悠真だった。


 二人は並んで、旅館の前の細い道を歩き出す。

 山から吹き下ろす風が、まだ少し冷たい。

 ねむは顎に手を当て、考え込むような顔で歩いていた。


 「……何か、分かってきた?」

 悠真が尋ねると、ねむはうっすら首を振る。

 「ううん。まだ、点が線にならない」

 風が髪を揺らし、ねむは少し目を細めた。

 その横顔は、いつもの気だるげな表情とは違って、どこか凛として見えた。


 悠真はしばらく黙って歩いていたが、やがて小さく息を吐いた。

 「……ごめん」


 「え?」

 ねむが首を傾げる。


 「こんなことになって。

  俺が誘わなければ、ねむは巻き込まれなかったのに」


 ねむは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに肩をすくめて笑った。

 「あー、そのこと」


 そして、軽く指を立てて言う。

 「むしろ、私がいてよかったじゃん」


 「……え?」

 悠真が目を瞬かせる。


 「だって、私がいなかったらこの事件、誰も解けないでしょ」

 ねむは当たり前のように言った。

 その言葉に、夜風がふっと吹き抜ける。


 「私がササッと解いてあげるから、安心して」

 ねむは少し得意げに笑う。


 その横顔を見た瞬間、悠真の胸の奥がふっと熱くなる。

 夕風が彼女の髪を揺らし、頬に落ちた光が柔らかく反射していた。


 ――どうしてだろう。

 ただ笑っているだけなのに、目が離せなかった。


 ねむの何気ない自信と、どこか子どもみたいな無邪気さ。

 その両方が、胸の奥を静かにくすぐっていく。


 悠真は小さく息を吐いて、視線を逸らした。

 (……ほんと、敵わないな)


 山あいの夕暮れは早い。

 陽が沈みかけた川沿いの小道に、ひとり佇む人影があった。

 黒瀬彰人。

 タバコをくわえたまま、流れの向こうをじっと見つめている。


 「黒瀬さん」

 ねむが声をかけると、彼はゆっくりと振り返った。

 「……おう」

 返事はしたものの、どこか力が抜けたような声だった。


 「少し、お話伺ってもいいですか?」

 「構わねぇよ」


 ねむと悠真は並んで近づき、川の音を背に立った。

 黒瀬の手にあるタバコの火が、風に揺れて細く光る。


 「新藤さんとは、仲が良かったんですか?」

 ねむがたずねると、黒瀬はしばらく黙り込んだまま、煙を吐いた。

 「ガキのころからの付き合いだ。

  ケンカもしたし、酒も飲んだ。……まさか、こんな形で会うとはな」


 その声に滲んだ悔しさに、悠真が小さくうなずく。

 「それは……つらいですね」


 黒瀬は視線を湖の方に戻し、吐き捨てるように言った。

 「犯人は、久賀の野郎だよ」


 「……久賀さん?」

 ねむの眉がわずかに動く。


 「ああ。あいつは昔から何か胡散くせぇ。

  助手が行方不明になったときもそうだった。

  新藤と二人で、あのときも何やらコソコソやってた。

  何か隠してるに違いねぇ」


 (やっぱり久賀さんには何か隠し事があるんだ)


 「事件の夜、黒瀬さんは何をしてたんですか?」

 ねむが静かに尋ねる。


 「新藤のやつと飲もうと思って探してたんだ。

  でもその日はどこにもいねぇ。

  そしたらお前らの騒ぎ声が聞こえて、慌てて向かったんだ」


 (なるほど……)

 ねむは頭の中で時間の線を並べる。

 ――久賀、朝比奈、黒瀬。

 全員がほぼ同じ時間に“現場へ合流”していた。

 偶然にしては、できすぎている。


 ねむはしばらく考えたあと、顔を上げた。

 「最後に一つ、聞いてもいいですか?」


 「なんだ?」


 「……財宝って、ほんとにあるんですか?」


 黒瀬は少しだけ口角を上げた。

 「あるさ。昔からそう言われてる。

  “黒羽の山に千両箱”――じいさんもそう言ってた。

  誰も見つけたことはねぇがな」


 「なるほど」

 ねむは小さく会釈した。

 「ありがとうございます」


 二人が背を向けて歩き出すと、黒瀬は再び川を見つめた。

 タバコの火が小さく赤く光り、風に溶けて消えていった。


 川の流れは、まるで何も知らないふりをして、静かに音を立てていた。

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