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綺麗なセリフ

作者: P4rn0s

君の言葉はいつも柔らかくて、甘くて、きれいに整っていた。

でもそれはまるで飾り立てられた包装紙みたいで、中身を見せてはくれなかった。

何度も頷いて、何度も「大丈夫だよ」と言ってくれるのに、その瞳はどこか遠くを見ていて、私を映してはくれなかった。


人は言葉に慰められることもあるけれど、それ以上に、ただ同じ高さから見返してくれるまなざしに救われることがある。

けれど君はそこに立たず、私を包むように微笑みながらも、どこか別の場所へ心を置いていた。

それがわかってしまうからこそ、私は一層孤独を深めてしまうのだ。


机を挟んで向き合っていても、まるで壁があるようだった。

差し出した手は空気を切り裂くだけで、触れることのないまま沈んでいった。

私はただ、同じ高さで呼吸をしてほしかった。

逃げるでもなく、背伸びをするでもなく、俯くでもなく、ただ目と目を合わせていてほしかった。


その願いはきっとわがままなのだろう。

人には人の事情があって、苦しみがあって、守らなければならないものがある。

それを理解しているつもりでいても、心の奥底ではやっぱり望んでしまう。

誰かに強がりをやめてほしいと。

誰かに、自分の孤独を正直に受け止めてほしいと。


私は長い夜の中で、自分の声の行き先を探していた。

静まり返った部屋の中で灯りを落とし、窓の外に沈む影を追いながら、ふと気づく。

結局、私が欲しかったのは言葉じゃなかった。

ましてや綺麗に磨かれた慰めの文句でもなかった。

ただ、同じ高さで呼吸してくれる誰か。

私を見逃さない目。

それだけが、どうしようもなく欲しかったのだ。


だけど、そのささやかな望みすら、世界の仕組みの中では大きな願いになってしまう。

人はみなそれぞれの流れに呑まれ、歩む速さも方向も違ってしまう。

だから、たった一瞬でいい。

ほんの短い瞬間でいい。

すれ違うようにして、君が私の方を見てくれたら。

きっとその時、私は寂しさを少しだけ忘れることができるのだろう。


それでも、今夜も君の瞳は遠くを見たままだ。

私はその横顔を見つめながら、まだ消えない灯りの下でひとり呼吸を整える。

届かない願いを胸に抱えたまま、次の朝を待ちながら。

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