戦いたくないって言ったやつが、いちばん強かった
いよいよ、戦争がはじまる――
そんなときだった。
あるじゅなが、ぽつりと言ったんだ。
「戦いたくない」って。
……正直、おれはちょっと驚いた。
あいつ、弓の名手で、冷静で、いつも一歩引いたところから物事を見てるやつだったから。
でも、その言葉には、迷いがにじんでた。
相手は、親戚だった。
先生だった。
昔の友達だった。
そんな人たちに、矢を向けるなんて、できない――
そう言ったあるじゅなの目は、どこか遠くを見てた。
その気持ち、わかるよ。
おれたちだって、心のどこかで同じことを思ってた。
でも、くりしゅなが、静かに言ったんだ。
「これは、おまえの義務だ。逃げるな」って。
「戦うことは、ただの破壊じゃない。
それは、秩序を守るための行いなんだ」って。
その言葉が、あるじゅなの心を動かした。
迷いの中にいたあいつの目に、光が戻った。
まるで、夜明け前の星みたいに。
そして、おれたちは、戦場に立った。
それぞれの想いを胸に、
それぞれの正義を背負って――
もう、引き返すことはできなかった。
……でも、あのとき「戦いたくない」って言ったあるじゅなが、
いちばん遠くを見てた気がするんだよな。
おれたちが見ないふりしてたものを、ちゃんと見てた。
だからこそ、あいつの矢は、誰よりもまっすぐだった。