第六夜
第六夜
こんな夢を見た。
真っ暗闇の道にいた。此処が何処だか分からない。近くを見るのがやっとの暗さである。
その中で聞こえてくるのが笛の音色。おそらくはフルートだろう。フルートが奏でる音色を暗闇の中で、立ち止まりながら聞いている。
デタラメなようで精緻されており、拙いようでいて熟練されたような音色。
忌まわしいようでいてどこか懐かしい。掠れるようでいてはっきりしている。
聞きたくないようでいて聞いていたい。そんな印象を聞いていて抱く。
矛盾しているようでいて矛盾していない。耳で聞いている。それだけなのに。
それだけだと言うのに、美しいとすら感じられる。どんな奏者なのかも気になってきている。そんな自分がいることに気づかされる。
嗚呼、誰なのだろうか。この暗闇の何処かにいる。見てみたい。演奏しているところを。誰が吹いているところを。
知りたい。知りたくてたまらない。好奇心が刺激されていく。
私の内なる葛藤を感じ取っているのか、それともいないのかは分からない。
けれども、聞いているだけで、懐かしさで胸が満たされていくのを感じざるを得ないのは何故だろうか。忌まわしさを伴っているというのにだ。
あまりにも不可思議な心境を反映するかの如く、フルートの音色が変化している。音程を変えている。
近くのようでいて遠く。遠くのようでいて近く。
奇妙なまでの音色の距離感。それに私は困惑する。
嗚呼、私は渇望しているのだ。この音色を聞くことに。音色を聞いてさえいれば、すべてのことはどうでも良い。困惑から陶酔へといつの間にか変わっていた。
そこで、私は目が覚めた。あの夢は一体どんな意味が有ったのだろうーー。