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受付嬢のオススメする準備

 私のクソみたいな身の上話を聞いたカローラは、いたく同情してくれた。

 すぐに冒険者として活動できるように手配してくれるらしい。

 あまりの手際の良さに顔が引き攣った。


 受付嬢カローラは、オレンジ色のツインテールを揺らしながら鼻歌を口ずさむ。

 カウンターテーブルに並べられていく武器や防具を眺めながら、私は感情が顔に出ないよう冷静を装っていた。


「あの……レンタルできる装備品なのですが、これはちょっと質が高過ぎませんか?」


 恐る恐る問いかけた私に、カローラは首を傾げる。

 その顔は理解できないと物語っていた。


「そうでしょうか。一流の職人が仕立てた武器や防具に比べれば、ステータスに対する補正値が少ないので、あまり高額な値段にならないのです。いずれも名を売りたい職人たちから献上された品物ですので、ご自由にお選びください」

「は、はあ……」


 剣の柄や鞘にあしらわれた宝石を横目に、私は生返事をした。

 ダンジョンが現れてから、あらゆる物的価値が崩壊したとは聞いていたが、まさかここまで崩壊しているとは思わなかった。

 宝石に詳しいわけではないが、無色透明に光り輝くブリリアントカットの宝石が眩いのだけは分かる。


「補正値が期待できない代物ばかりなので、可能であれば魔法の効果を持つ魔剣などがオススメなのですが……私のスキル『鑑定』で見ても、あまり良いものがありませんね」


 橙色の瞳に金色の魔法陣が展開されている。

 その目を見て、私はすぐに気がついた。

 カローラもまた冒険者だったのだろう。


 ダンジョンを攻略した者は、魔法やスキルの才能が芽生える。

 肉体は完成され、あらゆる病魔に侵されなくなる。

 その憧れに焦がれて、数多くの芸能人がダンジョンに突撃したというニュースを見た事がある。


 カローラがふと視線を止めた。


「あら、これは……」


 小さな手を伸ばし、一振りの短剣を握る。

 何度も角度を変えて眺め、不思議そうに首を傾げた。

 その短剣の鞘には灰色の毛皮が巻かれ、柄に空けられた穴から紐で結ばれたサイコロが揺れている。


「こんなもの、あったかしら? 魔法が封じられているようだけど……効果が秘匿されているわね……」


 カローラの目に展開した魔法陣が輝きを増す。

 どうやらスキルの効果を強めたらしい。

 数秒ほど眺めた後、ふうと息を吐いた。


「申し訳ありません、見覚えのない武器を見つけたもので、つい念入りに調べてしまいました。どうやらこれは魔剣で、所有者にスキルを一つ覚えさせる効果があるようです。どんなスキルなのかまでは、使ってみるまで分かりません」

「それって、めちゃくちゃ高いのでは……?」

「スキルによりますね。ただ、使われている素材がジャイアントラットという魔物で、そこまで高額な代物ではないので即戦力になるとは思えません。差し支えなければ、これを選ぶと良いでしょう」


 カローラによれば、武器に使う装飾で効果も変わるらしい。

 ダンジョンの浅い層にいる魔物の素材は低ランクなので、効果への影響も少ないという。

 なので、この短剣を選んでもいいらしい。


「なんというか、太っ腹ではありませんか?」

「冒険者のランクを上げるには、職人やギルド職員から推薦を必要とします。レンタルする装備品はいずれも非売品であり、無許可で売買を行えば犯罪になります」


 カローラはカウンターの裏にある書類キャビネットから一枚の紙を取り出す。

 装備品の借用書と契約約款だった。

 事前に聞いていた内容とあまり変わらない。


「装備品を買い取る事もできるんですね」

「ええ。思い出の品として手元に置く冒険者も多いです。この髪飾りも、私が過去にダンジョンで得た魔道具の一つです」


 カローラがツインテールの髪留めを指差す。

 『イフリートの髪飾り』と呼ばれるそれは、魔力を流せば低ランクの魔法を一時的に使う事が出来るようになると話題になった魔道具だ。


「この短剣はサブウェポンとして運用すると良いでしょう。メインウェポンは盾と剣をオススメします。剣術の講師がギルドにいますので、ダンジョンに向かう前に受講できますよ」


 戦闘があるのか、と気後れを覚える私の背中をカローラが押す。

 あれよあれよという間に、ギルドの奥にある訓練場へと連れて行かれた。

 右も左も分からないうちに、講師が決められる。


「やはり、実際に訓練を受けなければ防具選びを間違えますからね」

「カローラから話を聞いた。マナテリアのグレニア王国で騎士団長を務めていたグロリッサという。グレニア流剣術を広める事を夢にしている」


 カローラが連れてきたのは、まさしく筋肉の塊と呼ぶに相応しい赤髪の女騎士だった。

 異世界では、鎧の形がかなり違う。

 ネットではビキニアーマーと呼ばれている。


 断るタイミングを逃した私は、握りしめた短剣を眺める。

 学生時代のシャトルランから今まで、碌に体を動かしていない。

 訓練以前の話かもしれないと言い出す勇気がなかった。


「安心しろ。私は現役時代に何人もの新兵を鍛えてきた。すぐにお前も一人前に育て上げてやる」


 ニヤリと笑うグラリッサの唇の端から覗いた鋭い歯は、まるで悪魔のようであった。

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