プロローグ
春の風が吹き渡り、桜の花が空高く舞い上がる。舞い上がった花は、ひらひらと宙を漂い、ゆっくりと地に落ちる。
たった一時の儚き浮遊、花はそこで何を見る。そして何を思うだろう。一瞬に積み込まれたその思い、一体どこで生きるだろう。
疾風となりて吹き荒れる風――。
「痛い」
夏原は思わず目を擦った。
砂埃が目に入ったのだ。
痛くて目を開けていられない。
夏原は半目になりながら歩いた。
新学年の始まりの日、始業式は特別な時である。
在校生と新入生、その両者が顔合わせする始業式は、その後の学園生活を揺るがす可能性を秘めている。普通に出席するなら何の問題もない。だが、一度注目を浴びれば大変なことになる。在校生いざ知らず、新入生にすれば、その注目は第一印象に他ならない。
つまり、たとえそれが偶然だとしても、常習のレッテルを貼られ、最悪の場合、変人奇人に見られる事もありえる。
夏原は気が沈んだ。近未来予想は否定的だ。
風が吹き抜け、砂埃が舞う。
目をつむった。砂埃が頬にあたる。
風が弱まったとき、肩に衝撃が走った。
夏原はバランスを崩し腰を落とす
顔を上げた。目の前に立ってる人がいる。目をつむったせいで、当たってしまったのだろう。
白のソックス、チェックのスカート――。制服を見る限り同じ学校の女子で間違いないだろう。さらりと伸びた髪に整った顔立ち。
新入生なのだろうか。このような綺麗な人は見覚えが無い。
「大丈夫? 怪我してない」
差し伸ばしてきた手を夏原は握り立ち上がった。
おや。夏原は首をかしげた。
先ほどは気づかなかったが、以外に女は小柄だった。小柄な夏原よりも背が低い。
こちらが倒れた時、てっきり相手の方が体格は上であると思っていたのだ。