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プロローグ —1

 あれは人工の明かりだけが街を照らす、王都では珍しい大嵐が騒いだ夜のこと。玄関の扉が揺れるガタガタという音は、吹き荒れる風のせいだと思っていた。





「突然何なのですか!?」


 来客用の訪問ベルが鳴って屋敷の扉を開けた使用人が、困惑した声をあげた。この嵐のなか外にいたのは、とあるエンブレムがあしらわれた軍服を身に纏った、およそ20名の騎士。

 彼らは少し開けられた扉に手をかけて屋敷内へ入る。先頭にいた騎士団長であろう人物は、羽織の内ポケットから令状を広げて口を開いた。


「——我々は王都騎士団である。王命にて、これよりフェリーチェ家の者を使用人も含めすべて連行する!」


 そう宣言すると、彼らは続々と踏み入っていった。すべての部屋の扉を開け、何事かと困惑する使用人に玄関ホールへ行くように指示をする。少しでも抵抗を見せた者には錠をはめ、もれなく連行していった。

 裏口から外へ出ることを考えた者もいたようだが、すでに騎士団がその経路及び屋敷の周辺までをも抑えており、誰一人として屋敷の外へ出ることはなかった。



 目的の人物の姿はしばらく見つけられなかったが、順に捜索していた一階には、一つだけ鍵が掛けられた扉があった。この書斎室の中から、微かに人の気配がする。団長は長年の経験からそう確信し、扉を勢いよく蹴破った。

 そこにいたのは、この屋敷の主であるフェリーチェ公爵と公爵夫人だった。ひどく焦った様子で、扉を壊して侵入してきた騎士たちを睨みつける。

「なっ、なんだ貴様ら!!」

「国王より直々に、貴殿らは必ず拘束せよとの命令が下っている。大人しくしてもらおう」

 使用人とは違い、彼らは国王が拘束を命じた身——つまり、それ相応の容疑がかけられている。団長が手を挙げて合図をすると、後ろから入ってきた騎士が拘束具を持って二人に近付いていく。

 瞬間、公爵はそれを振り払い逃走を図った。


 しかし、騎士相手にそんなものがまかり通るはずもなく、あっけなく捕まり床へ押さえつけられる。その光景はあまりにも滑稽だった。

「——ッ嫌よ!放しなさい!!」

「…いくら王家直属の騎士団といえど、古くから公爵位を賜っている我々に対して無礼ではないか!?」

 この期に及んでまだそんなことを言うのかと、団長は思わずため息が出そうになるのを抑えて制止する。


「…フェリーチェ公爵殿、発言には気を付けるべきだ」


 確かに、フェリーチェ家がこの国で公爵として座していた歴史は長い。しかしこの状況に陥ってなお、まだ自らを高貴な立場であると疑わない姿は、誰が見ても醜いものだった。

「貴殿をはじめとする一族の行いは、すべて把握している」

「っ…!?」

「身に覚えが無いと言うのであれば、王の御前でしっかりと提示しよう」

 公爵たちの騒ぐ声を無視しながら団長は騎士たちに連れていくよう命じる。これで主犯格は拘束した。あとはこの両親に加担していた、長女にあたる令嬢と二人の子息、そして——……。



「……あの方も、例外ではないか」



 団長はどこか悲しげな表情を浮かべた後、書斎室をあとにした。

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