一話 オカ研のヒロ
「皆は思い出して欲しいんだ。幼い頃に幽霊だとか、都市伝説に身を踊らせなかったかい? ヴォイニッチ手稿とかきさらぎ駅だとかね。猿夢に、僕は二日眠れなかったよ、興奮してたんだ。そして僕は自身の式神がどんなものかよく想像したものさ」
「俺はその時、帝王学仕込まれてたけどな」
「ちなみに僕の式神は、僕より一歳年上の猫耳の女性だ。雪女の家系に生まれたんだよ」
「俺はその時に弟の中二病に悩まされてたな。幼稚園児で中二病ってどうなんだろうな」
「全く君ったら、ロマンがありやしない!!」
あーもう!と怒った僕は、ロマンがない男を見る。彼は「はいはい」と、てきとーすぎる相槌を打ちながら週刊漫画を読んでいる。
「誰がこんな男をオカルト研究部に入れたんだ!僕だな! 」
OMG!と僕は後悔をする。まぁ今更追い出したりはしないのだけど。
「俺が入らなきゃ廃部だったしな」
そうなのである。今年新設(僕が立ち上げた)したオカルト研究部、略してオカ研は部員二人の部活である。
活動内容としては、不思議ちゃんねるという古来からある都市伝説に関してまとめられたサイトやSNSでのオカルト収集、またオカルトに興味を持って貰う為に、怪談の朗読。そして、月一で学校近くの神社の清掃を行っているのである。
さて、諸君は僕の名前が気になったところだろう。自己紹介をしようか。
僕の名前は中瀬古 ヒロ、一般的な家庭の元に生まれたオカルトマニアである。
そして、ロマンがない男は 海印 緑 である。
僕らの名前を知らない? オカ研のヒーローとヒロインって言えば伝わるかな。勿論ヒーローと呼ばれてるのは僕だよ。まっててね愛しい怪異達。
僕は画面の向こう側だとか鏡の向こう側だとかを信じてる。だからこうして定期的に自己紹介をしたり、回想をしてるんだ。
おい、と僕の回想を緑が邪魔する。
「140回目の自己紹介終わったか」
「正しくは14回目だよ、普段は回想してるからね」
100回程人生の回想するとかやべーヤツだな、と緑は冷ややかな目で僕を見た。
「確かにキミは14通目のラブレターを貰っているようなプレイボーイだけど、生憎僕は貰った事がないからね」
ゴミ箱に捨てられた紙を見る。
「ラブレターじゃなくて勧誘のチラシな」
おっと15通目だったか。彼が手に持ってるのは新たなチラシである。
そして、その熱烈な送り主は、異世界転生を愛する女、ライトノベル部の女王『安藤 ルミ子』である。
「緑くんって本当に異世界転生した先にいる主人公を捨てたくせに、やっぱり主人公の事が好きになっちゃう系の男よね」と緑に一目惚れしたルミ子は自作の小説のモデルにならないかと勧誘してるのである。
勝手に登場させればいいのに、打診するあたり好ましいよね。というのが僕の感想。緑は「24時間監視されるとか、俺の家でも無かったわ」という辺り、彼女の熱意は素晴らしい。
「それだけに、オカルト研究部に来てくれなかったのか悔やむ! 今じゃ異世界といえば、ジャパニーズ和風どころか西洋になっている!嘆かわしい! 」
「書店の売り場広いよな」
「僕はそんな低俗なモノは見ない! 」
「どっちもどっちだろ」
今日は部活動中止だ、と活動方針を変えた僕は家路につく。そしてベッドに入り願う。
(どうか僕を異世界へ行かせて下さい。捧げるものは……)
「それが異世界転生ってヤツだな、ドンマイ、ヒロ」
『ドーントマインド次の一本取り返せー!』とオカ研の部室によく聴こえてくる応援歌で緑は僕を励ます。
白畳の素敵なレンガ道、行き交うエルフや獣の人達。
どうやら僕は異世界転生というものをしたらしい。
幸いな事に緑も巻き込まれたらしい。さっそく、携帯をパシャパシャさせながら、ルミ子に異世界の写真送ったら勧誘止まねぇかなとぼやいている。
神様!こんな低俗な文化に染まってしまったのですか!? 異世界と言うならジャパニーズでしょうよ!
「僕を異世界に行かせてくれよぉー」
竜が舞う青空に僕の声が響いた。