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階段

作者: かんま

ある男の日常。

 ある休日の昼頃、彼は歩道橋の階段で足を滑らし転げ落ちてしまった。転げ落ちて薄らいでいた意識の中でボーっとしていて、ハっとして気が付いたら周りに5、6人の人達が心配そうな顔をして立っていた。       

 救急車を呼んだほうがいいのじゃないかなどと口々に言っている。その中の一人の女性がかがんで声をかけ肩を軽く揺らされて大丈夫ですか?と言われて意識が正常に戻った。

 「大丈夫です。ありがとうございます」

とかろうじて返事をした。

 「何処かお怪我をなさっていませんか?」

とさらに訊かれる。

 彼は立ち上がり身体のあちこちを触っては、かすかに痛みがあったが、どこも怪我はしていないようだった。彼を囲んでいた人たちに深々と頭を下げて礼を言い逃げるようにその場を立ち去った。彼はなんとも言えない妙な感じに包まれていた。

 ジーンとした快感が心身に余韻として残っている。その快感が忘れられずにいて、暇があれば周りに人気の無いところの階段を見つけては、衣服は汚れるが階段転がり落ちをして楽しんでいた。幸いというか独身で彼女もいないが、そんな彼でも生活には満足していた。中でも螺旋階段は特別な存在で、垂直方向に螺旋を誇らしく美しく描いている。転げ落ちる角度と回転をイメージしてはひたすら楽しんでいた。時には余韻に浸りすぎていたら、救急車を呼ばれてしまい難儀した事もあった。軽い擦り傷や怪我が後を絶たなかったがそれよりも快感が勝っていて何より面白かった。転げ落ちの良い階段を探すのが楽しみでもあり、お気に入りの階段も見つけて隙と暇があれば転がり落ちていた。そんな生活を日々行うようになり趣味になった。そして同時に周囲に人気のない階段は探すのは探求心を刺激されるのだがどこか面倒とも感じていたが、ある時妙案に至った。

 彼の両親は既に亡くなっていて、県内で農業をしていた平屋のやや大きな家には誰も住んでいなかったので室内に階段を作る事にした。室内なら雨風関係ないし人目を気にする事もなく楽しめるので、ホームセンターに通い道具類と木材などを買い揃えに行ったが、結構必要なものが多い事にも気が付いた。ホームセンターは、彼にとってまるで宝の宝庫なので時間が経つのが早く、目移りしてついつい余分なものまで買い長居してしまう。    

 そして休日を利用して実家の多くある部屋の中の襖を外して直線的に三部屋にわたり階段を作ろうと思った。とりあえずメインの階段の長さは10メートルぐらいで、傾斜角度は堪能できるように緩やかにしようと思っている。あと二つの階段は急角度のを一つとの中間のやや緩やかな角度の階段の三つを作る事にした。試行錯誤を繰り返し徐々に完成に向かっていた。

 結局作り始めてから半年の歳月を費やして遂に完成に至った。これで何の気兼ねもなく階段転げ落ち放題だ。彼は思わず部屋の中で歓喜の声を上げて、嬉し涙が頬を伝った。

 早速、試しにメインの長い階段を転げ落ちてみたが心地の良い快感が全身を走って満足感をもたらした出来栄えであった。次は中間角度の階段を転がってみたが、なかなかの転げ落ち感である。最後は急角度の階段を試しあっという間に転げ落ちたが、流石にちょっと痛みもあったが快感の方が勝っていた。しかし、更に改良の余地があるとも悟った。まだ空いてる部屋があるので趣向を凝らした階段を作ろうと思っている。

 これからも様々な趣向を凝らした階段を作り階段屋敷をさらに向上させようと夢は膨らんだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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