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シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」-1

 四月になった。桜舞い散るピンクの季節。咲く桜もあれば散る桜もある。オレ、飛鳥俊吾あすかしゅんごは、散ることなく高校生になった。高校デビューって言葉があるけど、オレはデビュらないことを決めている。

 中学校までで自分の限界を知ってしまったのだ。夢を持ってスポーツしてたけど、プロになれるのはごく一部。プロになったからと言って、一生保障されているわけではない。学校では、仲間はずれにされないように、好きでもない人気の曲を聞いたり、流行りの動画を見たり、流行りの言葉を使っていた。結構疲れたわけよ。というわけで、高校では自分らしく、無理をしないことを決めた。だから誰も知り合いがいないこの学校を選んだ。

 でもモテはしたいなぁ。というか彼女がほしい。これは高校デビューとは関係ないし男としての願望だからよしとしよう。彼女ができたら、オシャレなカフェ行って、腕組んで買い物して、綺麗な夜景を見て、大人の階段を昇っちゃたりするのだ。ムフフ。


 そんなことを考えていたら帰りのHRホームルームが終わっていた。さて帰るか。学校に残ってる意味はない。高校生活も二週間が過ぎた。だけど、まだ友達はいない……。「まだ」ね。友達の作り方も忘れちゃったけど、無理することはない。いつかできるだろう。できたら忙しくなるだろうから、今はゆっくり一人の時間を楽しむのだ。そうと決めると、帰ってから何やろうとワクワクが押し寄せてきた。マンガ読みながらアイス食べてゴロゴロしてやるぜ。友達なんかいなくても楽しむ術は知っているのだ。さっさと帰ろう。

 と、勢いよく立ち上がったその時、いつの間にか目の前に女子が立っていた。

「ねぇ。あなた、うちの部に入らない?」

いきなり話かけられ、頭の中はプチパニック。顔はびっくりで、ひょっとのお面みたいな表情になっちゃった。表情を真顔に戻しながらそっと見下ろす。オレの身長が175センチだから、158センチぐらいかな。中肉中背。おっぱいの大きさも中くらい。髪の長さは肩よりもちょっと長いくらい。女子の中では中くらい。全部中くらいだ。瞬きをするよりも早く、心の中で「中くらい」ってあだ名を付けた。

「聞いてる?うちの部に入らない?」

中くらいは笑顔で首をかしげている。

「もうサッカーはしないって決めてるんで」

「えっ?わたしサッカー部って言った?」

あわわ。言ってないな。勝手にそう思い込んじゃった。再びプチパニック発動。

「うちの部はゲーム部。とりあえず見に来ない?」

「ゲーム部???」

ゲーム部って言った?聞いたことないよそんな部。プチパニックが止まらない。

「そう。ゲーム部。PS4とかニンテンドースイッチで遊べるよ」

テレビゲームで遊ぶ部活!?そんなのあるのだろうか?いや、普通ないでしょ。ここ公立高校だよ。部活でテレビゲームしていいの?

「一緒に遊ばない?」

一緒に遊ぶ?ナニコレ?ブカツノカンユウジャナカッタッケ?待てよ。これは何かの罠に違いない。遊ぼうって誘っておきながら、本当は厳しい部活に入れられるんじゃないか?いや、でもそれならもっといい物で釣った方がいいか。女子全員ビキニだよ。とか。わーお。そんな部活あったら入りたい。

「ビキニですか?」

「えっ?」

しまった!心の声が出てしまった。

「スキニーって何のこと?」

わぁ。よかったぁ。聞き間違えてる。とりあえず笑顔でごまかそう。というか、なんでオレをゲーム部にさそうのだろうか。オレ、そんなにゲームやらないんだよな。ゲーム好きに見えたのかな?

「なんでオレなんですか……?」

「あなた帰宅部でしょ。だから」

そうか!そういうことか!誰でもいいんだ!うん。うん。よく分かりました。ではお断りさせていただきます。

「ゲームあんまり詳しくないんで」

「詳しくなくていいよ」

うん。……うん?これで話終わりじゃないの?断ったんだけど。

「部員が足りなくて困ってるの。力貸してくれない?名前だけ貸してくれればいいから。ねっ。お願い」

困り顔で上目使い。タイプの子だったら落ちていただろう。しかし残念だったな。中くらいは、オレのタイプではないのだ。

「えっとぉ……。オレ忙しいので」

てへ。うそついちゃった。友達いないし、家に帰っても特にすることないし、キングオブ暇人なのだ。

「そっか。じゃあ。誰か紹介してくれない?帰宅部の子とか。部員集まらないと部がなくなっちゃうのよ」

すごく残念そうな表情。この表情は中くらいではなく、めちゃくちゃ落ち込んでいる。そんな表情するなら力貸したいけど、友達がいないから誰が帰宅部とか分からないんだよな。困った。あっ!いた。絶対帰宅部な奴が。二週間でまだ三回しか顔を見てない。いわゆる登校拒否。奴なら絶対帰宅部だろう。

「一人心当たりありますよ」

中くらいの顔に笑顔の花が咲いた。

「ほんと!やった。紹介して!」

紹介できるほどの仲じゃないけど、今度登校した時に声かけてみればいっか。

「今日はもう帰ったみたいなので、今度話してみます」

「そっか。じゃあ明日ね。また来る」

そう言うと一段と笑顔が増し、スキップしながら教室を出て行った。明日かぁ。そもそも奴は学校に来るのかな?えっと名前は確か「牧田まきた」だったな。朝、先生がいつも「牧田は今日も休みだ」って言うから覚えちゃったよ。その他のクラスメイトの名前は覚えてないのに。

 来ないのに、いないのに、逆に覚えられるってことがあるんだな。オレは毎日いるのに同じクラスの誰も名前を覚えてくれてはないだろう。オレが誰なのか、まだ誰も知らない。誰の物語にもオレの名前は刻まれていないのだ。

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