不幸な少年の死と転生
「はあ……」
俺は自分の席で次の授業の準備をしながら今日何度目かもしれないため息をつく。
俺の名前は黒崎零。どこにでもいるありふれた高校生である。ただ……一つを除けば。
「おい、『疫病神』。金を寄越せや」
「私のネイル代を寄越しなさいよ、『疫病神』」
休み時間を階段の踊場で空を見上げていると俺の周りに柄の悪い不良グループの男女七人が集まって金をせびってくる。
『疫病神』。それは俺の蔑称だ。
四歳の時、両親とのドライブの帰り、逆走してきた車と正面衝突し、俺の両親は体の骨が折れて目の前で死んだ。
その後、父方の叔父の家に引き取られた。だが七歳の時、俺が小学校に行っていた時に叔父は会社の事故に巻き込まれ、叔母は交通事故で、歳上の姉は通り魔に襲われ、全員死亡した。
次は母方の叔母の家に引き取られた。だが八歳の時、叔母は連続殺人鬼に腹を引き裂かれ腸を取り出されて死亡した。
その後、幾つもの児童養護施設に引き取られ、様々な里親に出されたが、その里親たちに度重なる不幸に襲われた。
高校に上がり静かな生活を送ろうとしていたが児童養護施設時代の俺を知っていた人間が俺のことを広めた。
引き取った人たちを全員不幸にした『疫病神』と。そして、それに目を付けた不良グループが俺をいじめるようになった。
暴力やたかりは当たり前。クラスの笑い者にさせられたり教科書をボロボロにされるのもしょっちゅう。階段から突き落とされたり耳たぶを切られたりしたこともあった。
そう言った事の積み重ねの結果、現在俺は左目の眼球は破裂し片眼は無くなり、左耳の鼓膜も破れて完全に聞こえなくなっている。
先生?あの腰抜けどもは俺らに関わろうとしない。何せ、あいつらは自分達の身だけが大好きなのだから。
「……嫌だ」
「ああ!?んだとぉ!?」
俺が初めて抵抗をした瞬間顔面を殴られ、そのまま足を滑らせ階段を頭から落ちる。
―――あ、死んだな。
そう思った瞬間、俺は―――死んだ。
「……どこだここ」
目が覚めると、そこは壮大な神殿の中だった。
そう言った知識は殆んどないけど……ギリシャの古代遺跡のような作りだな。
「あら、やっとお目覚めかしら」
「……誰だ、あんた」
遺跡の天井をボケーと見ていると背後から話しかけられ、振り替えると裸体の絶世の美女がいた。が、スルーする。
……そう言った姿を見たところで興味ない。そんな事に現を抜かしているのなら現状把握の方が良い。
「それについても、説明するわよ」
「……心を読んでいるのか?」
「ええ、そうよ。だって私は神様だもの」
「それじゃあ、女神様ってことか」
「ええ。さて、取り敢えず……貴方が覚えているのはどこら辺までかしら」
「えっと……確か、不良の一人に殴られた反動で足を滑らして……頭を打ったのまでは覚えている」
「ええ、そうよ。彼らのその後も知りたい?」
「……勿論」
「あの後、彼らは警察に捕まったわ。そして、懲役刑に処された。出所した後はそれぞれ別れて別々の人生を歩んでいる。……まあ、その人生は底辺も底辺。最底辺のものね。ククク、全くもって自業自得だわ。その後も知りたい?」
「いや、いい」
女神がどこからともなく取り出した本のページをパラパラと捲りながらケラケラと嗤うところに少しイラつきを覚えるが何とか抑え込む。
まあ……あいつらの人生が不幸になったのなら俺が死んだ意味はあったかな。
「その通りね。それじゃあ、転生について説明し始めるは」
女神は本のページの中央を開くと空中にホログラムが現れる。
凄い……。てか、その本はなんだ?
「私の端末みたいなもの。さて、説明するわよ。……貴方の魂は転生前のもの。ここから、貴方の知識と経験を持ったまま転生させてあげるわ」
「……それまたどうして」
「そう言う取り決めだもの。そして、そっちの方が……面白いじゃない」
「っ!」
女神は俺の目の前に転移すると俺を押し倒し胸を舐めてくる。
「だってさ、貴方はあまりにも不幸な人生を送ってきた。それなのにその魂に曇りは無かった。私はその貴方を……曇らせたいのよ」
この女……まさか、ヤンデレのような束縛が強いタイプの人なのかな。
「まあ、その判断でいいわね。それじゃあ、そろそろ転生させるわよ」
「へ……?」
そう言った瞬間、俺の意識は落とされる。
説明……まだじゃん……。
「さて、意識は落ちたわね」
私は顔を歪めると意識が落ちた青年の体をベッドに転移させるとその体を撫で回す。
ああ……!やっぱりこの人の体は良い!程よくついた筋肉に精神を表すかのような肌の質。病み付きになりそう。
「ほんとは押し倒されても良かったのだけど」
私はそう言いながら青年の体に手を入れて作り変えていく。
さて、どんな種族にしてどんな世界に転生させようかな。なるべく、長く絶望してくれる種族にしよっと。