【夏祭りの出店で夢を売るおっさん】(^ω^)のようです
これは、俺が中学生の夏に体験した奇妙な話。
その日は街の方で夏祭りが開催されていて、俺は日が沈む前から出店の辺りをぶらぶらと散歩していた。
そして、大通りから少し外れたところで、俺は変な屋台を見つけた。
看板も旗も立っていない、商売っ気ゼロの屋台だ。
中学生の俺は、その屋台の中でタバコをふかしながら暇そうにしている店主に、ちょっとした好奇心を抱き、軽く話しかけた。
('A`)「おっさん」
(^ω^)「……ん?」
('A`)「おっさんの屋台、空っぽだけど。何してんの?」
(^ω^)「見て分かんねぇか?競馬中継聞いてんだよ」
('A`)「分かんねぇよ。何の店だよここ」
(^ω^)「夢だよ」
('A`)「え?」
(^ω^)「夢を売ってんだよ」
※挿絵はこの話と一切関係ありません。
('A`)「いや、そんな抽象的な答えは求めてないんだけど」
(^ω^)「うっせぇな最近のガキは、ロマンってのが分かんねぇのか」
('A`)「おっさんにロマンはねぇよ」
(・∀・)「よぉ、たっちゃん。何してんの?ボロい屋台の前で」
('A`)「よっちんじゃん。このおっさんが意味分かんねぇんだよ」
(^ω^)「意味分かんないとか言うな。おっさんも人間なんだぞ」
(・∀・)「不審者には近づくなって言われなかったか?」
('A`)「屋台で何売ってんのか聞いただけだよ」
(・∀・)「ふぅん。で、何売ってんの?」
(^ω^)「夢だよ」
(・∀・)「警察呼んだほうが良いんじゃない?」
('A`)「えぇ~めんどくさくない?」
(^ω^)「そうだぞ。それに俺は不審者じゃないし。出店料払ってるし」
(・∀・)「でも、机の上にラジオしかないじゃん。食いもん売ってんなら鉄板とかあるだろうし、ゲームなら景品が在るだろ普通」
(^ω^)「だから、どっちでもねぇよ。夢だよ」
('A`)「じゃあ、夢って何円で買えるんだ?」
(・∀・)「買える訳無いじゃん」
(^ω^)「1000円」
(・∀・)「え?」
(^ω^)「夢一つ、1000円」
('A`)「高ッ!だれも買わねぇよ!」
(^ω^)「じゃあ二つで1000円!どうだ?半額だぞ!?」
(・∀・)「いや、半額だって言われても……それで買う奴馬鹿だろ……」
('A`)「お得じゃん!!買うわ!!」
(^ω^)「毎度!」
(・∀・)「馬鹿がいたよここに」
(^ω^)「じゃあ、お前ら、ちょっとこっち来い。屋台の中に入れ」
('A`)「おう!ほら、よっちんも入れよ!」
(・∀・)「俺もかよ……まぁいいや」
俺たちは、おっさんに招かれて屋台の中に入り、そこにあった椅子に座った。
おっさんはラジオの電源を切ると、胸ポケットから新しいタバコを取り出して訊ねた。
(^ω^)「タバコ、良いか?」
(・∀・)「子どもの前で吸うなよ」
(^ω^)「……」カチカチッ……シュボゥ
(・∀・)「無視すんな」
彼は美味しそうに煙を灰に入れると、やがてぽつりと呟いた。
(^ω^)「おっちゃんな。ミュージシャンになりたかったんだよ」
('A`)「は?」
(・∀・)「あ?」
(^ω^)「あれは中坊ん時だったかなぁ……ラジオで聞いたバンドに憧れて、音楽を始めたのは」
('A`)「いや、こっち置いてけぼりで話進めんなよ」
(^ω^)「小遣い貯めてよ、よく知りもしねぇのに中古屋でクラシック・ギターと譜面買って……思えばあの頃が一番行動力があったのかもな」
(・∀・)「ダメだ、おっさん完全に自分の世界入ってるよ」
('A`)「つーか、今はやってねぇのか?音楽」
(^ω^)「やってない。いや、やっていられないってのが正しいかな」
(^ω^)「俺には才能がなかった。だから努力した。努力は才能に勝つと、そう信じていた。惨めな自分を振り切るように」
(^ω^)「だが結局、俺はギターを持たなくなった。理由は簡単だ。結果が出なかった」
('A`)「じゃあ、もっと頑張れよ」
(^ω^)「それがなぁ、そうもいかないんだよ。ガキにゃまだ分からんと思うが、時間と金ってのは有限なんだ」
(^ω^)「その日暮らしのバンドマンはごまんと居るが、売れない音楽を続けても、生きてはいけない」
(^ω^)「大抵はある程度の所で見切りをつけて辞めていく。会社員になったり、実家を継いだり……俺もその中の一人だ」
(・∀・)「まぁ、よくある話だな」
('A`)「そうなん?」
(^ω^)「そうだ。別に俺はなんにも特別じゃない。よくある挫折の一例だ」
(^ω^)「それでも、いつかの俺の見た夢は、他の誰のものでもない、特別なものだった……」
(^ω^)「以上!……どうだった、俺の夢は?」
(・∀・)「何を聞かされていたんだ俺たちは」
('A`)「一曲分の時間無駄にした」
(^ω^)「おかしいな……結構感動モノだと思うんだけど」
('A`)「薄っぺらいんだよ。何もかもが」
(・∀・)「あと最後の方、無理やりいい話にしようとしてグッダグダじゃねぇか」
(^ω^)「やめろ。他のバンドメンバみたいなこと言うな」
('A`)「言われてたのかよ」
(^ω^)「つーかガキにそんな説教じみたこと言われたくないんですけど!!」
(・∀・)「ガキに説教される隙を見せる方が悪い」
(^ω^)「……まぁいいや。1000円もらったし」
('A`)「おっさん今最高に惨めだぞ」
(^ω^)「じゃ、おっさんの夢二つ目いくけど、いいか?」
(・∀・)「……なんかワクワクしている自分がいるわ」
('A`)「俺も。なんでだろうな?」
(^ω^)「お、お前ら趣味良いな」
('A`)「やったな褒められた」
(^ω^)「皮肉だよバーカ」
('A`)「ムカつく」
(^ω^)「あれは、中坊ん時だったかなぁ……」
('A`)「おい、また中坊の頃の記憶だぞ」
(・∀・)「きっと中学時代が一番楽しかったんだな」
(^ω^)「止めろ。お前らも絶対そうなるからな、覚えとけよ」
(・∀・)('A`)「怖ッ!」
(^ω^)「俺はな、隣のクラスの泰葉ちゃんが好きだったんだよ」
('A`)「ふぅん」
(^ω^)「あの時も今日と同じ、夏祭りの日だった。俺は、告白をする決意を胸に、泰葉ちゃんを祭りに誘ったんだ」
('A`)「泰葉ちゃんかわいそう」
(・∀・)「おっさんの恋バナって字面が既にキモイよな」
(^ω^)「お前らおっさんがかわいそうだとは思わんのか?」
('A`)「思わん」
(・∀・)「おっさんはガキにかわいそうって思われたいの?」
(^ω^)「……神社の境内の裏、ついに俺は泰葉ちゃんに告った」
(^ω^)「そして……撃沈した。『無理』の一言だったよ」
('A`)「知ってた」
(・∀・)「予定調和」
(^ω^)「その夜……泣きながら家に帰ったおっちゃんは泰葉ちゃんと結婚する夢を見た」
('A`)「は?」
(・∀・)「キモイキモイ」
(^ω^)「そんな青春の甘酸っぱい一幕でした。以上」
('A`)「え?いや、全然甘酸っぱくないんだけど」
(・∀・)「むしろ吐き気で口が酸っぱいわ」
(^ω^)「どうだ?俺の夢を買った気分は?」
('A`)「どこに夢があったんだよ」
(^ω^)「おっちゃんの胸の内だよ」
(・∀・)「なんで閉まっておかなかったの?」
(^ω^)「俺の生きた証を残したかったんだよ」
('A`)「おっさんと出会ってからの記憶を抹消したい」
(・∀・)「できることならタイムスリップして、おっさんに話しかけるコイツの手を止めたい」
(^ω^)「無理だな。過去は変えられねぇんだよ」
('A`)「おっさんが言うと無駄に重いな」
(・∀・)「話の中身は空っぽだったのにな」
(^ω^)「全く。口の減らねぇガキだ……でも、まぁ、そんな奴は嫌いじゃねぇぜ?」
('A`)「俺はおっさんのこと嫌いだけど」
(・∀・)「#MeToo」
(^ω^)「じゃ、そういうわけでおっちゃんはこれから今日の売上の1000円でナイター競馬行ってくるわ」
('A`)「俺たち以外に客いなかったのかよ」
(・∀・)「カモにされちまったな」
(^ω^)「君たちの想い(1000円)を馬に乗せて、俺が一発当ててやるからな」
('A`)「競馬って何がそんな楽しいの?」
(・∀・)「絶対損する奴でしょギャンブルなんて」
(^ω^)「ガキは分かってねぇな。俺たちは夢を買ってるんだよ」
('A`)「うっさいわ」