2章:名前
12/21 AM.12:45... ―Side M
久しぶりに出かける、1人で勝手に出歩く事はあっても、許可をとって外出することなんてほとんど無かった。
冬の冷たく凛とした空気が逆に心地良い。
「ふー、久しぶりのシャバもいいわねー」
入院してからというもの、大切な用事以外は外へ行かせてもらえなかった。
せいぜい中庭か、もしくは近くの土手までだった。
「んん?もう冬休みの時期かぁ・・・」
終業式を迎えた学生達がちらほら見える。
中には手を繋いだ仲良しのカップルもいる。
「青春ね・・・自転車で2ケツとか懐かしいわ・・・」
しみじみ昔の事を思い出して歩く。
今ではすべてが懐かしく感じる。
しばらく歩くと目的地に着いた。
『黒溝』と書かれた表札、彼の家だ。
「ほー、結構大きい家じゃない、もしかしてお金持ちなのかしら」
「ちょっっ、なんでアンタここに居るの?!つかなんで俺の家知ってんの?!」
家を観察していたら本人の登場だった。
あまりにもベタすぎて何か仕掛けてあったのかと思う。
ふと彼のほうを見たら後ろに女の子が立っていた。
「お?その子彼女?可愛いじゃない」
「いやそんな事どうでもよくて!何しにきたんだ?!」
―――――――――Side H
「あの、悠、この人だれ・・・?」
「え、いや・・・この前サボってた時に会った人・・・」
幼馴染の朋絵にコッソリと聞かれしどろもどろになる。
「可愛い子ねー、初めましてー」
「あ、どうも・・・初めまして」
「挨拶はいいから!何しに来たか聞いてるんだ!」
半ばイライラしながら聞く。
ほんとに何しに来たんだこの人・・・
「こーれ、落し物よ、悠君v」
「っ・・・俺はユウじゃない・・・ハルカだ!!」
思い切り生徒手帳を奪うように取る。
自分でも顔が赤くなってるのが分かる。
彼女の驚いた顔が目に映った。
「・・・朋絵、ごめん、帰って、俺はこの人と話があるから」
「う、うん・・・わかった・・・じゃあ、またメールするね」
朋絵が小走りに帰っていく。
火照った顔、嫌な思いがふつふつと湧き出てくる。
「ハルカ、っていうんだ、悠・・・」
「女みたいな名前だって馬鹿にすればいい」
「そんな事ないわよ、良い名前じゃない」
ふと力が抜けた。
―この人なら絶対からかうと思っていた。
そもそもこの名前が褒められるなんて思ってもいなかった。
「で・・・アンタ、用事はそれだけ?」
「ム、アンタじゃないわよ、ちゃんと私にも名前があるんだから」
そう言いながら彼女はパッとカードのようなものを取り出して俺に見せた。
どうやら入院患者の認識カードのようなものだった。
病院の名前を見て、あの土手の近くの病院だという事がわかった。
『七尾 未来 20歳 女性 O型』
そしてその下に病棟が書いてあったが読む前に彼女はカードをしまった。
「ま、私名前のほう好きじゃないから、七尾って呼んで」
「はぁ・・・七尾さん・・・」
「さて、用事も終えたし、病院に戻るわねー・・・っと、ヒマならお見舞いに来てよ、退屈だからさ」
そう言って彼女―七尾は病院に戻っていった。
PM.1:15、遠くのほうで救急車のサイレンが聞こえた気がした。
少しだけ、胸騒ぎを覚えた。
七尾と悠だけフルネームで出ました。
でも近いうちに設定のやつとか書きたい。