旅立ちの日に
翌日
フィールシャワーが止み、日の光が清々しく大地を照らす。
本来なら美味しいだろうご飯や、気持ちいいだろうお風呂も頂いたが、選択肢がない喪失感にわたしの心は空っぽである。
「それでは行ってまいります」
旅立ちを見送る修道院の皆にそう言ったのは、昨日いろいろと教えてくれた赤髪が特徴的なルナだった。
半ば強制的なこの旅に、エリーナは一人だと危険だからとルナをお供役につけてくれたのだ。
できる事なら屈強な傭兵とかもっと戦力になりそうな人をつけてもらいたかったが、修道院に傭兵がいるわけもなく。腕が立ち、なおかつ年が近いルナに決まったらしい。
とはいえ、見知らぬ世界を一人で旅をするのは不安だったから、仲間ができたのはとても心強い。
「それでは美咲、ルナ、荒神の剣、頼みましたよ」
「はい」
エリーナの言葉に返事して、わたし達は魔道馬車に乗り込んだ。
まず、目指すは『港町ルドルフ』
そこまでいけば、目的地の『王都ゼリア』から、わたしに護衛を出してくれているそうだ。
どうせなら、ここまで来てくれればいいのだが、そこは領土問題だとか、色々と難しい事情があるらしい。
荒神の剣を扱えるというのは、それだけ凄い事なのね。
いまいち、ピンとこないけど。
『ルドルフ』からは船に乗り北の大陸に渡る。そこに目的他の『王都ゼリア』があるのだという。
修道院からルドルフまで、山道をひたすら北に向かって歩くらしいが、それでは大変だと魔道馬車で送ってくれることとなった。
エリーナと修道院の人達が見送ってくれる中、わたしは皆に頭を下げる。
「お世話になりました」
するとエリーナは私に歩み寄り、
「危険な旅を無理やりさせてしまってごめんなさい。
どうか頼みましたよ」
と、申し訳なさそうに告げた。
色々と思う所はやっぱりあるが、こうなってしまっては仕方がない。
わたしは小さく頷いた。
「それでは行ってきます」
ルナとわたしが後部座席に座ると。
運転席に黒髪を腰まで伸ばした、細身の美女が座った。
歳はわたし達より一つ下の十七歳、名前はアスナ。
彼女はわたし達をルドルフに送り、買い出しをして修道院に戻ってくる事になるそうだ。
アスナが運転席にある水晶に手を添えると、
地面についていた球体状の魔道馬車が数十センチ浮いて前進を始める。
エリーナや皆がこちらに向かって手を振るのに答え、わたし達も別れを惜しんで手を振った。
やがて見えなくなると、
「ふぅ~~……これで自由になれたわね」
まったく。堅っ苦しーったら、ないわ」
隣に座るルナが股をガバリと開いてリラックスしながら、鞄からポーチを取り出して化粧を始める。アスナが振り返り、
「私にも後で貸して」
「オッケー」
彼女たちの態度の変わりよう、しかしわたしは別に驚かなかった。
そんな物である。修道院のような厳しい環境では、色々と口うるさく言われるだろうが、どこの世界でも同年代はかわらない。
わたしも高校の時は校則が厳しかったが………って今はそんな話どうでもいいか。
「みさ。修道院を出たから、これからは同い年だしため口で話すからよろしくね~」とウインク。
これは楽しい旅になりそうだ。