半魔族アゴン襲来!!
「魔族⁉」
荒神の剣の忠告にわたしは驚き言葉を漏らす。
魔族ってなに?
説明してもらった登場人物に、魔族の『ま』の字もありはしなかった。
抗議の目で荒神の剣を一瞥するが、刀は緊張を解かない、ただ一言「後で説明する」のみ。
わたしが漏らした一言に男は笑みを崩さず。
「ブッブー不正解。俺は魔族じゃない。かといって人間でもない。
魔族と人間のハーフ、半魔族だ」
と言われても、んな事は知ったことじゃない。
ってか、そもそもあんた!
「何でわたしの部屋にいるの!?」
「お前、デーモン倒しただろ。
デーモンをぶった切るなんざぁ、たいしたもんだ」
!?
デーモンとの戦いを見ていたのか!
「お前に興味が沸いた、俺と戦わねぇーか」
冗談じゃない!
あたま狂ってるなこの男。
「戦わないわよ、部屋から出て行って」
「やだね」
男は一歩、また一歩と間合いを詰めて歩み寄る。
わたしは刀を中断の構え――――――に反し、
刀が自分の意志で、刀身をわたしの腹部の前にガードするように移動した、まさにその瞬間。男はわたしの腹部に蹴りを入れてきた。
刀身が蹴りを受け止めてくれたが、重い‼
右手に柄を左手に刀身に手を添えているが、受け止めきれず体が吹っ飛ばされる。
幸いベッドが後ろにあったため、仰向けに倒れるだけで済んだ。
腰の痛みを気にする暇がないほど、瞬時に荒神の剣が左から右に空を薙いだ。
距離を詰めようとする男は一撃を後方に飛んで回避する。
「へぇ~やるじゃん」
笑みを崩さぬまま、男は楽しそうに笑う。
はたしてこちらに勝機はあるのか……
荒神の剣はすごいが、扱うわたしがヘボすぎて話にならない。
ここは逃げるのが得策だろうが、逃げ切る自信は全くない。
荒神の剣に策があるのか無いのか、わたしは口を開く。
「あんたノックも無しに部屋に入るなんて、礼儀がなってないんじゃないの。
だいたい、いきなり『戦おうぜ』じゃないわよ、名前ぐらい名のったらどうなの‼」
言葉に男は少し驚いたように目を丸くした。
おそらくこの状況で、そんな事を言われるとは思ってもみなかったのだろう、男は声に出して低く笑ってから、
「これは失礼、俺の名はアゴン。
失礼ついでに君の名前を教えてもらえるか?」
名乗りたくもないが仕方ない。
「須藤美咲よ」
突然、荒神の剣が叫ぶ。
「美咲『ベルドーラ』と大声で叫べ」
不意を衝く荒神の剣の叫びに一瞬戸惑ったが、この絶体絶命の状況を脱する策があるのだろう。言われた通り力強く叫ぶ。
「ベルドーラ‼」
叫びと同時に荒神の剣が強烈な光を発しだす。
突如、刀にズシリと重さを感じ、力を吸われているような感覚がわたしを襲う。
「お互いこの状況は長くはもたん。一撃で決めるぞ!」
刀がわたしに覚悟を求め、油断しているアゴンに向かって駆け出す。
この重みを振り上げるほど力がない、だけど力の限り横に振ることはできる!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
気合と共に、右から左へ全力で横に薙いだ。
ぎぎいぃぃぃぃぃぃぃぃぃん‼
一撃はアーマーの胸部分を大きく切り裂き、アゴンの苦痛の叫びが響く。
荒神の剣に纏われた光は一撃と共に消え去り、わたしは部屋の壁にもたれかかった。
が―――――
「今のうちに走れ、逃げるのだ」
刀が叫ぶ、知っているのだ。
アゴンがこの程度では倒れないことを。
極度の疲労を体に感じる。だが深呼吸をして、苦しむアゴンの横を抜け部屋を飛び出した。
「待てえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
アゴンの叫びが後方に聞こえる。
何気ない木造の床に躓きそうになりながらも、必死に走り、階段を駆け下りる、アゴンが後方から追ってくるのが微かに分かる。
振り向く事もせず、宿屋を飛び出した。
外は早朝。
人けが無い村を煌々と日がさしていたが、雨も降っていた。
まるで雨がキラキラ光っていて、光の雨のような綺麗の光景だ。
そんな事を思いながらも、体が濡れている感覚が無いほど、わたしは必死に地を蹴って全速力で逃げた。
荒神の剣が示す方向に向かって村を駆ける。
先に何が待っているかは分からないが、もう目指すしかない。
そこはもう村ではなく再び鬱蒼とした森の中。
だいぶ長い距離を必死で走り、体力の限界に達して木にもたれかかる。
こんなに息を切らせて全力で走ったのはいつ振りだろうか……。
もう色々な出来事が一気に起きて疲れた。
体が動かない……。
わたしは木にもたれ掛りその場に倒れた。
意識を切らしたらダメだとわかっていたが、極度の疲労に打ち勝つことはできず、わたしの意識は途切れた。
アゴンは美咲を追い、宿屋の一階に下りて、しかし玄関で足を止めた。
光が射す雨の中。美咲が走る後ろ姿を見ていた。
さすがにこれほどのダメージを受けるとは思ってもみなかったが、そんな事は既にどうでもいい。
アゴンは喜悦の笑みを浮かべていた。
―――――― 見つけた!
デーモンを難なく倒し、半魔族の自分にこれほどの一撃を与える人物。
そして―――――。
アゴンは声に出して笑わずにはいられなかった―――抑えきれない感情が彼の中で爆発した。