デーモンの襲撃〈挿絵〉
おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
何かが吼える大きな声―――それは雄叫びか!
体全身に悪寒が走る。あまりの恐怖で頭が真っ白になり思考が停止する。
体が小刻みに震えだしたその時。
それがうっすらと、視線の先から姿を現した。
熊以上に巨大なその体、全体が長い毛に覆われ、赤く光る眼がこちらを捉える。
足がやっと一歩後退したが、今更逃がしてはくれないだろう。
その魔獣はむき出した牙を見せながら、鋭利な爪を光らせた。
息を飲むわたしに、荒神の剣は戦闘態勢に入りながら告げる。
「デーモンじゃ」
「デーモン……⁉」
荒神の剣が呟いた言葉をただ繰り返す。
そもそも、その名前は映画とか漫画でしか聞いた事がない………、
どーやら目の前にいる獣がデーモンのようだ。
「聞け、娘。
お主はどうやら剣術や武術のたしなみが無いように見受ける。
リードするから、合わせて動け。大丈夫ワシを信じろ」
そんな事言われても。確かな不安を感じるがもう信じるしかない。
頑張れわたし! 動け体!!
「わかった!」
力強い大声を腹の底から放つ、緊張が緩み体が動かし易くなった。
こちらの様子を伺っているのだろうか、デーモンが立ち止る。
荒野の剣を中断に構え、対峙した。
デーモンとの距離は十メートルほど、最初に動いたのはデーモンだった。
口を大きくあけ、牙をむき出してこちらに猛襲する。
「行くぞ!」
こちらも荒神の剣の掛け声で動き出す。
どうしても、刀先行の動きになってしまうが、うまく彼の動きについていくしかない。
わたしとデーモンの距離は一気に縮まり、デーモンが右腕を振り上げた。
鋭い爪が月明かりに照らされ、朧に光る。
がぎいぃぃぃん!
振り下ろされた右腕、爪を荒神の剣はわたしの頭上で受け止める。
力比べは不利。このままだと爪が剣を折り、わたしを捉えるだろう。
右足を一歩後退して体を反らすと、デーモンの力を利用して剣の切っ先を右下に移動させる。
するとデーモンの力は下に移動し体制が崩れた。
「いまじゃ」
荒神の剣は勢いよくデーモンの左わき腹を薙ぎ切った。
悶絶し悲鳴を上げる、だか傷は浅い。
デーモンの後方にいる今がチャンス、二次、三次攻撃でダメージを与えて――
荒神の剣リードではなく、わたしは自分の意志で地面を蹴ったその刹那。
「まて!」
剣が叫び、デーモンが振り返る。
赤い眼がわたしを捉えた、瞬間。大きく口を開けて雄叫びを上げた。
ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん‼
口から炎が飛び出し一直線に向かってくる。
肌寒かった外気が、一気に灼熱に変わる。
足が竦んで、体が硬直し――――死を覚悟した。
ぎゆゅゅゅゅんん………
耳障りな音が響き、しかしわたしの身が焼きただれることはなかった。
ただ肌がじりじりと熱に焼かれるような、夏の日差しに焼かれているような暑さを感じる。
目をゆっくりと開けると、身構え、突き出した荒神の剣が炎を吸収し燃えていた。
「これくらいの炎なら、ワシの身に封じ込めることは容易い。
さぁ、奴にこの炎を返してやろう」
歯を噛みしめて刀を振り上げた。
地を蹴ったデーモンは再びわたしに向かって勢いよく突っ込んでくる。
距離はグングンと縮み。
「振り下ろせ」
合図に全力で刀を振り下ろした。
炎の斬撃がデーモンの体を袈裟懸けに切り裂き、鼓膜をつんざく断末魔が響く。
デーモンの傷口から、獣が焼かれる嫌な臭いに耐え切れず。
一歩、また一歩とゆっくりと後退した。踵を小石にとられて、お尻から地面に倒れ落ちる。だが、決して視線をデーモンからそらさない。
やがてデーモンは淡い光と共に消え、無数の宝石が地面に落ちた。
荒神の剣から炎が姿を消し、わたしは刀を地面に置いた。