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18才のファンタジェンヌ  作者: はねとら
第五話 『港町ルドルフ』からいざ新大陸へ
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王都の騎士グレン


 店内を駆け巡り、注意して多くの人を観察するが、だれも荒神の剣をもっていない。

 もしかしたら、店内にはもう居ないのかもしれない。

 外に出て見渡すが、刀を持っているそれらしい人物は確認できなかった。


 わたしは茫然と立ち尽くし、顔色が失せて、めまいに襲われる。

 その場に膝をついて倒れた。

 

 どうしよう。

 あの刀がないと元の世界に帰れない……。

 魔族と対抗できない、ホルストやエルゼのような悲しい思いを誰にもさせないって誓ったのに……。

 誰の言葉も理解できない……。

 情けない……。

 いつも肝心な所でヘマをやらかす。

 


 街を行き交う人の会話も理解できない。

 強烈な寂しさ、悲しさ、孤独に耐えられずに、その場に膝をついた。

 焦りからか呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が鼓膜に響く。

 わたしはどうすればいいの?

 ―――――と。

「美咲〇△□××××」

 ハッキリと呼ばれた自分の名前が確認できた。

 顔を上げると、そこには心配そうな表情をしたルナが立っていた。

 彼女はこちらに何かを訴えかけるが、やはり言葉が理解できない。

「なに、どうしたの」

 彼女はわたしを立たせて、両肩を掴んで何かを叫んだ。

 何を言っているかは分からないけど、その表情や声量からなんとなく理解できる。

『大丈夫、必ず見つかる』と力強く言ってくれた気がする。

 幾つもの不安から、今のたった一言ですごく元気づき、不安や孤独から解放された。

 絶対に刀は見つかる―――見つける。

 力強く頷くわたし。

 するとルナが、ポケットから何かを取り出す。

 丸く綺麗な水晶のようなもの。



 ルナは水晶をわたしに持たせて、呪文の詠唱と右人差し指で(シスカ)古字(ワーズ)を虚空に描く。完成すると水晶めがけて術を解き放った。

記憶追(メモリアバーレ)

 水晶は強烈な光を発した途端、一筋の光となり正面に伸びていく、ルナはわたしに何かを叫んで光の線を追って走り出した。

『ついて来い』と言っているのだろう、頷いてわたしも後を追う。

 光は路地を曲がった先で、犯人の背中に突き刺さっていたが、この光は攻撃魔法ではないから、犯人は  光が当たっているのにも気づかず、荒神の剣を重たそうに引きずって先を急いでいた。

 ルナが犯人に向かって叫ぶ。

 犯人は背後からの大きな声に、飛び上がって驚き振り返った。

 

 身長は一三〇センチほど、一見子供の様にも見えるが、ボロボロの黒のフード付きローブから垣間見える長い鼻、口には収まらない長い牙、グリーンの瞳。それはとても人間の子供ではない、別の種族だった。

 ルナが荒神の剣を指さして叫びだす。

 おそらく『やっと見つけた。その刀はこの子の物よ、返しなさい』

 対して犯人は『しらねぇよ、この刀は俺の物だ』と言っているのだろう、ここからは想像のアテレコでお送りする。

『しらばっくれんじゃないわよ。

 あそこのマジックショップで盗んだんでしょ』

『しらねぇぇよ拾ったんだ!』

 抗議の叫びをあげる犯人。ルナは睨んで、

『そう……どうしても返さないつもりね』

 話しながら右指で(シスカ)古字(ワーズ)を虚空に描きだす。

 足元から風が舞い上がり、彼女の修道服と赤い髪が激しくなびく。

 呪文が完成して、最後に犯人に問う。

『刀を帰す気になった?』

『はん、ふざけんな。脅しが通じると思ってるのか』

 言葉を聞いて、ルナが心底残念そうに術を放つ。

『そう、残念。吹風斬(ヴィン・クライド)

 ルナが掲げた両手から複数の風刃が飛び出し、風刃は地面の石垣を抉りながら犯人に突き進む。

 犯人は立ちすくみ刃の接近を待つと、荒神の剣を手放し―――左手を正面に突き出した。

 瞬間。



 があぁぁぁぁぁぁぁぁぁん‼



 風の刃が破裂音と共に簡単に塵へと消えた。

「え……」

 信じられず声が漏れるルナ。

 犯人は何か言うと地を蹴ってルナに猛襲する。

 ギラリと光る右手の鋭い爪。

 ルナは危険を察知して、後方に飛ぶが相手との距離はみるみる縮まり。

 鋭利な爪が、ルナの胸を捉えたその瞬間。

 


 ギィー―――ン


 

 金属音が大きな音を立てて響き渡った。

 犯人は爪をはじかれ、大きく後方に吹っ飛ぶ。

 赤いマントが優雅に靡き、刀身がキラリと日の光で反射した。

 ルナと犯人の間に割って入ったのは、短髪の黒髪をした精悍な顔立ちの筋肉質の男性。

 身長は一八〇程でかなり高い印象で、シルバーのアーマを纏い右胸と、羽織った赤いマントには、大樹を守るように絡まるドラゴンの紋章が刻まれている。

 その双眸は、こちらにはいっさいくれず。犯人に向けている。

 犯人は脅えたような蒼白な顔をして、焦りながら頭を下げて謝罪している。

 剣士は剣を腰の鞘にしまうと、犯人に二言三言交わして、その体を二・三歩横によけた。

 犯人はわたしとルナの前に来て、頭を下げて謝罪して去っていった。

 床に落ちている荒神の剣を剣士は拾い。

 その剣の重さに驚いた顔を一瞬すると、わたしの前まで来て、荒神の剣を差し出した。

 頭を下げてお礼を言いながら、わたしは差し出された荒神の剣を手に取ると、剣士は深々と頭を下げて、



「初めまして、私は王都ゼリアから参りました。

 ゼリア第一騎士団長グレンと申します。

 美咲様ですね。あなた様をお連れするように王から命じられました。

 よろしくお願いいたします」

 そういえば、修道院でエリーナ院長が『ルドルフで王都ゼリアから派遣された、護衛が待っている』とか言っていたな。

 この人がそうか。

 まじまじと剣士の顔を見てみれば、後ろ姿では分からなかったが。

 年はわたし達に近そうだ、いっていても二十歳くらいではないか。

 ごつい体の割には、容姿もいい感じである。

 していていうなら、眉毛が少し太いのが気になる程度、それ以外は整っている。年齢も近いし、いい男だし、ちょっとやる気が出てくるし、それに何と言っても。

「良かった~~~話している内容が理解できる」

 荒神の剣を抱きしめながら、わたしはその場に崩れた。

「ちょっとあんた、盗まれたならそう言いなさいよ!」

 荒神の剣に怒鳴るわたしに、

『お主が試着室にワシを置いて行ったんじゃろ!!

 こっちは叫んだけど、手放したらワシの声は聞こえなくなるんじゃ』

「そ、そうなんだね。ごめん」

『もう二度と手放す出でないぞ、ワシの重要性が分かったじゃろ』

「はい……」

 人の話が理解できない恐怖。

 魔族と戦うすべを失った絶望感。

 もう味わいたくない。



「美咲様?」

 心配そうに見てくるグレンに、わたしはハッと我に返り。

「大丈夫です。

 これからよろしくお願いします。

 改めてわたしは須藤美咲」

「私はルナ。

 護衛はグレンさん一人なんすか?」

「はい、大人数だと目立ってしまいますし、他国の領土にも行くので私が選ばれました」

 ルナはグレンを上から下まで眺めて。

「その格好で他国の領土にね」

 ルナが言いたい事も分かる。他国の領土に入るのに、王都ゼリアの紋章が入った甲冑を着ていること言うのも、どうかと思う。

 ごろつきに絡まれなくはなるだろうが……。

 ルナの何か言いたそうな視線に、グレンは気づいたようで、

「この姿は騎士の証。いわば騎士の誇り。

 他国に行くにしても、この格好を脱ぐわけにはいきません。」

 聞いたルナは重く嘆息する。

「その格好のままだと、目立って行動しづらいでしょ。

 私達が迷惑なので、付いてくるなら着替えてもらわないと困ります。

 ちょうどわたし達、着替えるところだから、あなたも付いてきて」

「え? あ、はい」

 ルナの迫力にタジタジのグレン。

「それじゃ行きましょ」

 ルナはわたしとグレンに言うと歩き出す。

「みさ、剣帰ってきてよかったね」

「うん、ありがとうね。犯人をみつけてくれて」

「この水晶便利でしょ。急いでさっきのマジックショップに戻って、おっちゃんに値切って買ってきたんだ。これも光鉱石(みっこうせき)なんだよ、追跡魔法を増幅させて犯人の居場所を突き止めたんだ」

「光鉱石って便利なんだね」

「そうなのよ、色々な使い方ができるんだ。

 この水晶、さっき買うか迷って諦めたんだけど、目をつけておいて良かったわ。

 さて、邪魔が入っちゃったけど、服を選び直そう」

「うん」

 わたし達は再び服を選びに、先ほどの店に帰るのであった。



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