叩き折るわよ!!〈挿絵〉
なに? 何が何だか……
幾つもの疑問にパニックになりかけているが、不思議なことに心の底では落ちついている部分もあった。
大きく息を吐いて混乱を押し消し、冷静を無理やり保つ努力をして、
わたしは四つん這いの姿勢から立ち上がり、膝を払って刀を見下ろした。
「あんたが話しているんでしょ?
自己紹介じゃないわよ、まず先に説明してちょうだい」
多少動揺で声が震えているが、言葉を吐いた事によりさらに落ち着く、事態は一切飲み込めてはいないが、刀が何かを知っているのは間違いないだろう。
わたしの怒りが滲んだ視線に、刀は少したじろぎつつ。
「目が恐ろしいな……。
わかった、ワシから説明しよう。
ワシの名は荒神の剣、先ほどは突然声をかけて失礼した」
⁉
突然声をかけたぁぁ‼
って事はまさか、
「あなたもしかして、さっきの戦国武将⁉」
「せんごくぶしょう?
それは分からぬが、街中で声をかけた男前はワシじゃ」
「おまえかあぁぁ、ってことは、アンタがわたしをここに連れてきた。違う⁉」
「そうじゃ、最近の若者は声が大きくてたまらん。
もう少し小さい声で話はくれぬか、なおかつお淑やかにしてくれぬか」
言葉に、わたしは刀の柄を握りぶんぶん振り回しながら、
「うるさぃ、なんでわたしをこんなところに連れてきたの!
ここは何処なの!?
全部説明したうえでわたしを元の場所に帰しなさい、じゃなければ叩き折るわよ!」
刀を振り回しながら、大きな岩の前で足を止める。
そして大きく振りかぶった。
「わかった、わかったから勘弁してくれえぇぇ」
慌てふためき涙声になりながら、荒神の剣は話を始めた。
「まず、ワシがなぜあの街にいたのか説明しよう、それは探しておったのじゃワシが見える者を、つまりはお主を探しておった」
「へ?」
「目があったじゃろう、あの時ワシが見えると確信したのじゃ。
他の者は見えていなかった。誰もワシに視線をむけてはくれなかった」
確かにわたしには彼が見えた。目も合ったが……。
いや、みんな無視していただけだと思うぞ。
変な恰好したオッサンに関わりたくないだろうし……わたしも関わりたくなかったし……はぁぁぁぁ。
大きく溜息を漏らし、振り上げた荒神の剣を大地に突き刺す。
「見えぬ者は、ワシを扱えない。
だが見える者は扱える、証拠にお主はワシを振り回した。
選ばれたお主にしかできないことじゃ」
「わたしにしか振り回せない?
嘘くさいけど、でもいいわ聞かせて、何で扱える人を探していたの」
「それは――――」
荒神の剣が言葉を紡いだ、まさにその時。
後方から唸り声が聞こえた。
今まで聞いたことのない、禍々しい不気味な何かの唸り声。
ズン ズン ズン
足音が地響きになって響き。
草木を薙ぎ払いながら、それは近づいてくる。
「ワシを掴め‼」
叫ぶ荒神の剣をあわてて柄を握り、音がするそちらに視線を注目した。
逃げたいが足がすくんで動かない。