暫しの休息
「海だ~~」
港に出て思わず声を上げる私たち。
今まで鬱蒼とした森の山道を歩いていたから、見なれた海も久しぶりに見ると感動する。
やっと着いた『港町ルドルフ』
ここでは王都ゼリアが私達につけてくれた護衛の兵士と合流して、次の大陸に船で渡るために来たのだ。
頬を撫でる潮風がやけに懐かしい。
こちらの世界の港はどんなものか、観察してみると、そこまで変わったことはないように見える。
大きな港ということもあり、巨大な旅客船や貨物船などが停泊している。
「ミサ、ルナ、私は村長さんと子供たちを、この町の役所に連れて行くわ」
隣に立っていたアスナが言うと、ノームの村の村長さんと子供達二人がお辞儀をした。
「シスターにはなんて申し上げたら良いか、この度はありがとうございました」
村長さんの感謝の言葉を、わたしはどう受け入れれば良いのだろうか。
『お前を待っていたんだ。こいつ等はお前の犠牲者さ』
蘇るアゴンの言葉、わたしが村に立ち寄らなければ、あんな悲劇が起こってないんじゃないのだろうか。
『あんたさえいなければ、あんたさえ来なければ』
エルゼの激昂。ホルストの変わり果てた姿……。
わたしは………ゆっくりと村長さんに頭を下げた。
「それじゃ、二人は明日出向でしょ。
夕方宿屋で会いましょう」
そう言い残して、アスナは二人を乗せて魔道馬車で去っていった。
早く、すこしでも早く、王都ゼリアに行かないと。
沈んだ表情のわたしを見て、ルナはわたしの肩をポンポンと叩きつつ。
「さてミサ。
今日は一日暇なんだし、憂さ晴らしに街に繰り出そう」
わたしの手を引っ張って、街の方へと歩みだす。
元気づけてくれてる。
「ありがと」
「なに言ってんの、ショッピングよ!!
こういう時は買いまくるの!
こっちにはお金がたくさんあるんだから」
「おじちゃん換金よろしく」
ルドルフのお店が点在するメインストリートから一本外れた小さな路地に、ボロい………いや年季が入った建物があった。看板には『マジックショップ』と書かれている。
そこの店主に、村長さんからもらった光鉱石を二十個ほどカウンターに置いて、ルナが自慢げな表情をしている。
「ほほ~これは光鉱石じゃないか、こんなに沢山どうしたんだい」と、おじちゃんは目を光らせて、老眼鏡をかけながら鉱石を鑑定し始めた。
「すごいでしょ、手にするの大変だったんだから」
やはり自慢げに、光鉱石を手に入れた話を始めるルナだが、横で黙って聞いていると、だいぶ話を盛っているな……。
気持ちよく話しているし、それで少しでも値段が吊り上がれば良いが。
そっちはルナにまかせて、せっかくだから店内の品物をみてみよう。
店内はアジアン雑貨店のような雰囲気があり、指輪やブレスレット、ネックレス、カラフルな石、洋服や武器もなんでも飾られていて面白い。
これ全て魔法が込められた商品なのだろうか。
指輪を一つ見てみると、見覚えのある文字の羅列が内側に刻まれている。
これって、ルナが魔法を使う時に描く文字だ。
ノームの村の鉱山でルナが言っていた言葉を思い出す。
『魔法は聖樹の魔力をお借りして使う力だから。
大昔に使われた聖古字を読み書きできて、魔力を魔法に練り上げることさえできれば誰でも使えるのよ。』
何て書いてあるかは分からないけど、物に書けばマジックアイテムになるんだ。
あっ、そうえば。
持っている布袋から一つの光鉱石を取り出す、ノームの村に向かう時に、アスナが渡してくれた石だ。
見てみると聖古字が、細かくびっしりと刻まれていた。
やっぱり。
マジックアイテム持っていれば、わたしも何かの魔法を使えるのかな?
「よっしゃ、おっちゃん売った!」
突然叫ぶルナの声に、びっくりするわたし。
振り返ってみると、ルナがペシペシカウンターを叩きながら大笑い、方やおっちゃんの方は頭を抱えて、
「ちくしょう、ずいぶん値段を釣り上げてくれたな」
「良いじゃない、おっちゃんいい買い物したよ。
こんなに質が良い光鉱石は中々手に入らないよ」
「それはそうだが。
こいつでとびっきりのマジックアイテムを作って、高値で売って儲けるしかねぇな。ちょっと待ってな」
おっちゃんが席を外して、バックヤードに姿を消すと、ルナがわたしにピースサインを向ける。
ってことは、だいぶ高値で売れたようだ。
「旅の資金はこれで心配しなくても良いわよ」
「そんなに高値で売れたの?」
「まぁね、値切るのも得意だけど、高く買ってもらうのも得意なの。
コツはいかに良い商品か、情熱をもって訴える事よ」
こういう時には、何とも頼りになる特技である。
「ホレ、持って行きなさい」
バックヤードから帰ってきたおっちゃんは、カウンターの上に麻の布袋を二つ置いた。
麻袋の中を見てみると、紙幣の束と金貨がたくさん入っている。
「二人分ね。
一人分で光鉱石十個、十万リラ。二人合わせて二十万リラだよ。
大金だから気を付けてね」
ルナは麻袋の中身を取り出してお札を数えつつ、目を輝かせながら、
「おっちゃんありがとね」
「はは、たいしたシスターだね、あんた達。
これで神の御加護が少しでもあってくれたら良いけど」
えっ、ちょっとあんた達って、わたしも入ってるの?
「あるある、きっとあるよ」
ルナのウキウキの言葉に、おっちゃんは溜息をつくのだった。
これで旅の資金も安心だし、贅沢も少しはできる。
となると、やっぱりマジックアイテムが欲しい、これからもデーモンやアゴンと戦わなければならないはず、そうなるとサポートアイテムがあれば便利だろう。
「ルナどうせならマジックアイテム買っていこうよ」
ニコニコ顔のルナが一瞬で真顔に変わった、店内を見渡して、
「ここで?」
『え?』
わたしの声とおっちゃんの声が同時に漏れる。
「いや、だってもっと可愛いマジックショップあるよ。
ここじゃなくてもいいんじゃない?」
「ちょっとまてぇぇぇい!」
声を張り上げるおっちゃん。
「聞き捨てならねぇ事言ってくれるじゃねーか。
確かにウチはボロいかもしれねぇ。だけどよ、こちとらマジックショップをこの街で四半世紀やってんだ。
その辺のポップで可愛い若者向けのマジックショップと一緒にしねぇでもらいたい。
こっちは実用的な便利グッズを揃えてるんでぃ!」
おっちゃんの勢いを見て、ニヤリと笑うルナ。
「ほうほう、それじゃ実用的なマジックアイテム見せてちょうだい」
瞬間おっちゃんの顔が「しまった」といった顔をしたのが分かった。
恐らくルナは分かっていたのだろう。
おっちゃんの性格も、老舗がこの街で生き残れている理由も。
素人のわたしが見ただけでも、このお店は品ぞろえが良い。
品物も誇りも被ってなく、見ただけで新しいと分かる。
つまりそれだけ利用者も多く信頼されていると言うことは、店頭に並んでいない掘り出し物もきっとあると。
さすがルナだわ、わたしじゃとても適わないな。
「ホレホレ、早く見せなさーーーーーい」
「いやじあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
響き渡るルナの声とおっちゃんの悲鳴を聞きつつ、わたしは目の前にある商品のネックレスを見るのであった。




