絶望の村
村人達の無残な光景とアゴンに対しての怒りと恐怖から、足の震えと過呼吸がわたしを襲う。
必死に平静を装おうとはしているが、目に入ってくる景色が胸を締め付ける。
「どういう事よ」
必死に出した言葉を、しかしアゴンは捻じれた笑みを崩さず。
「お前がこの村に来るのは予想していた。
お前と会った村とデカイ街は山道の一本道しかない、相当距離が離れている中心にこの小さい村があるから、待ち伏せしていれば来るだろうとは簡単に予想できた」
つまり、私がこの村に立ち寄らなければ、こんなことにはならなかったのか……。
っ………とに、
「なんなのよ、わたしに何の用があるっていうのよ!」
「俺と戦え」
「はぁ??」
アゴンが右腕を振り上げ――――振り下ろす。
瞬間、荒神の剣が焦って叫ぶ。
「引けっ」
咄嗟に地を蹴って後方にジャンプした途端。
があぁぁぁぁぁぁぁぁん!
「ひっ……」
私がさっきまで立っていた、数歩前の地面が突如爆発した。
強烈な爆風に吹き飛ばされ、数メートル後ろにあった家の外壁に衝突する。激痛に悲鳴を上げ、呼吸を忘れ私はその場に崩れ落ちた。
「美咲、大丈夫か!?」
激痛が全身を駆け巡り悶絶する。
いままでの人生で経験したことがないくらい痛い。
体を四つん這いにしながら、視線の元にある荒神の剣に無言で頷く。
簡単に終われない。
柄を握りつめてゆっくりと立ち上がり、よろめきながらも刀を構え。
「力を貸して」
私の頼みに「当たり前だ」と力強く答えてくれる、柄を握る両手に力を込めて、わたしはアゴンに向かって地を蹴った。
「そこから、どけえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
叫びながらアゴンに迫る。
アゴンは死体の山から立ち上がり、死体の一つを蹴った。
こちらに飛んでくる一つの死体、それはスローモーションのようにゆっくりと見えた。
子供。少年の……
こちらに迫ってくるソレは顔が確認できなかった。が、ふと体制が変わり、顔が確認できてしまった。
「ホル………スト」
見覚えのある顔が確認できた瞬間、ホルストを受け止めてその場に倒れる。
「ホルスト!」
彼の体を抱き寄せて叫ぶが、その体はヒンヤリと冷たかった。
死んでいる………。
開かれた目は恐怖を目撃したのだろう、瞳孔が開いていた。
怖かったよね………
ホルストの血がついた右手を、彼の瞼の上にかぶせて目を瞑らせた。
地面にそっと横にさせて、立ち上がる。
涙で視界が滲む。
人の死を………身内の祖母や祖父以外の死を、こんなに近くで見たのは初めてだ。
しかもこんな惨い………
勝てなくても、傷の一つでも付けなけなきゃ収まらない。
ズン!!
えっ?
なびく栗色の髪。わたしの左わき腹に突き刺さるナイフ。
「な……」
虚をつかれて、こぼれる声。
突如現れたエルゼが、わたしのわき腹にナイフを突きさしたのだ。
「あんたさえいなければ、あんたさえ来なければ」
鬼の形相でわたしを睨みつけ叫ぶエルゼ。
しかし彼女の瞳は本来黒目のはずだが赤い。
様子がどこかおかしい。
体を震わせ、血の涙を流しながら息を荒げ、
「フーフー。
あんたが来なければ、こんな事にはならなかった」
両手をわたしに掲げ、呪文を詠唱するエルゼ。
大気が歪み、掲げた両手に風が集まって球状の塊が現れる。
わたしは生み出された強風のせいもあり、刺されたわき腹を抑えながら、立つ力もなくなりその場に崩れる。
「死んで」
わたしに向けられた凶器な一言は、術を発動させる引き金となる。
ずざざざざざざざざざざざざざざざさ!!!
解き放たれた魔法は無数の風の刃となり、わたしの体を切り刻んだ。




