ノーム村の決戦
村の様子を一言でいえば、不気味なほど静かだった。
茂みに隠れながらこっそり村を覗くが、人の声や物音すらも聞こえない。
ただ草木のそよぐ音がその場を制している。
中はどうなっているのだろうか、魔族が向かったと聞いて想像したのは廃墟となった村の姿。だが建物は無傷のままそこに存在している。
存在しているが、人の気配は全く感じない。
中に入ってみなければわからないか、
「気を付けろ、魔族の気配がする」
「わたし達を襲った魔族ね」
「きっとそうじゃろうな」
嫌な相手だ、あの魔族と戦っても万に一つも勝ち目はない。
「魔族に気づかれないように、慎重にな」
「わかってる」
荒神の剣の忠告に相槌を打ち、手前にある建物の窓から中の様子を覗く。
小さい木造平屋の建物。窓から覗くだけで部屋を見渡せるが人はいない。
村人はどこに行っちゃったの?
!!
背筋に感じるヒヤリとした殺気。
振り返るより早く、地を蹴って右に飛ぶ。
瞬間。
わたしが居たその場所が爆発した。
爆風と衝撃に吹き飛ばされて、向かいの建物の壁面にぶつかった。
倒れながらも顔を起こして、そちらを確認すると女の魔族立っていた。
なんでこんなに早く見つかるのよ!
心の中で悪態を付きながら魔族を睨む、
ブロンドの長い髪の隙間から、赤い瞳がこちらを捉える。
最初に会った時は無表情に感じたその顔は驚いた表情をしていた。
魔族側からしたら、胸を貫いた人間が傷一つ無く表れたのだから驚くのは当然だろう。しかしだ、こちら側からしたら、細い刀身をした長いレイピアをただ振り下ろしただけで建物の壁面を粉砕し、爆発クラスの衝撃を起こすって、とんでもないんですけど……。
これでこっそりホルストとエルゼを連れ戻そう作戦は失敗だ。
となると、戦うか?
いや……さすがに勝ち目なんて無い。
どうする、どうする。
ゆっくりと立ちながら焦りつつ考える。
逃げようにも、逃がしてくれないだろうな。
思考をフル回転させるが、答えが見つからない。
察してか、荒神の剣が意を決して叫ぶ。
「やるしかないか」
わたしは息を吐きながら、荒神の剣を抜刀しつつ、
「それしかない、みたいね」
ブロンド髪の魔族はわたしの方に体を向けて歩みだす。
ゆっくりと歩む相手に、わたしはジリジリと間合いが縮まらないように後退する。
魔族は立ち止まり、地を蹴ろうとした。
来る!!
瞬間。
「待て!!」
響き渡る男の声。
ブロンドの魔族は動きを止めてそちらに視線を移した。
わたしはこの声は聞き覚えがある。
先ほどの爆発と、ジリジリと後退していたのとで、いつの間にか大広間に出ていた事に今更気が付いた。
これでは奴から丸見えだ。
魔族につられて、わたしも視線をそちらに移す。
「なっ!!!」
その光景を見て言葉を失った。
体の力が抜けて、荒神の剣を落としそうになったが、慌てて刀を握る。
わたしが会いたくなかった人物は、あざ笑うような気持ち悪い笑みをこちらに向けて、
「よう、また会ったな」
逆立った銀色の髪が印象的な、黒いアーマーを身に纏った半魔族アゴン。
そいつは、村人の……死体の山の上に座っていた。
無残な光景に視線を逸らしたくなるが、奥歯を噛みしめてアゴンを睨みつける。
「な……なんて事を………」
ふり絞って出した言葉に、捻じれた笑みをこちらに向け、
「お前を待っていたんだ。
こいつ等はお前の犠牲者さ」