荒神の剣に導かれ〈挿絵〉
大都市『東京』その中でも流行の発信地『渋谷』
昼夜問わず人がひっきりなしに溢れているこの街がわたしは苦手だ。
見渡す限り人、人、人、地方出身の私からすれば、人酔いしそうだ。
しかも最高気温35度越えの殺人的猛暑!
愚痴を言い出したら止まりそうも無い。とはいえ、苦手だけど好きな部分は多い、なんと言ってもショップには目新しいアイテムが置いてあり、ついつい足を運んでしまう。
わたしの名前は須藤美咲。
18才の女子大生になったばかり、身長は160センチ。
肩まで伸ばした髪は、程よくブラウンに染めている。
今着ている夏用ワンピースは夏空のような綺麗なブルーでお気に入りだ。
スニーカーもブルーと合わせている。
と、まぁ、ストレス解消の一環ではあるのだが、
「買いすぎた」
ぽつりと漏れる後悔の言葉。
両手に持った紙袋に視線をむける。
バイト代が入ると、嬉しくなって買いすぎてしまう悪い癖……
……いや、でも、好きで買ったわけだし……暑いのが悪いのだ。
スタバにでも入って休憩しよう。
立ち止まり辺りを見渡すと、自分の目を疑った。
『戦国武将か己は!』 と突っ込みたくなる姿。
兜と甲冑を身に纏い、眼帯を右目にしたオッサンが、一人キョロキョロ辺りを見渡していたのだ。
たまにいるのだ、目立つ格好をして注目されたい輩が。
嫌な物を発見してしまった時は、目線を反らして見て見ぬふりをすればいい、反らそうとしたまさにその瞬間――
うわっ、目が合った!
満面の笑みを浮かべた左目は、わたしを捉えて離そうとしない。
うぅぅ気持ちが悪い。
ダッシュでこの場所から立ち去ろうと、踵を返して駆け出した。
逃げ足だけは早いはずだが、猛暑に体力を奪われていたのと、この荷物。さすがにこれでは本領発揮できない。
買い物は程々にしておけばよかった……。だが後悔してもいまさら遅い。
「待たれよ!」後方からの叫び声。
わたしに向けられた言葉だろうが、そんなもんに構う義理は無い。
―――無視、無視。
「待たれよと、言っとるじゃろーが‼」
瞬間。
突然、戦国武将のオッサンがわたしの視界に現れた。
まるで瞬間移動したように。
後ろに居たはずなのに、なんで……
「ちょっ……」
避けられない、ぶつかる!
途端。
視界からオッサンが消えた。
ブレーキをかけた足は止まることなく、コントロールできないままアスファルトの小さい凹凸に躓いて勢いよく転んだ。
本能だろう、転ぶ瞬間には必ず目をつむる。
次に開けるのは、衝撃と痛さに悶絶した後だ。
しかし今回は違った。
衝撃も痛みも感じない、さらには街の騒音も聞こえない。
どうして?
恐る恐る目を開けると――――
パ―――ン
破裂音のような大きな音と共に世界が突然広がった。
状況が理解できず呆然と見渡す。
見た物をそのまま説明すると、どこかの山奥。
虫の音が辺りに響き、肌寒い風がそよぐ、数々の大木と茂みに囲まれていた。
恐怖を抱く薄暗さ、夜だろうその場所は、月明かりがおぼろげに辺りを照らしている。
「なに、これ……」
呆然が過ぎ去り、混乱がわたしを蝕み始めた、まさにその時。
「お主、名前はなんという?」
どこからか響く言葉と共に、目の前に一本の日本刀が地面に突き刺さっている。
一方的に問いかけてきたのは、おそらく刀だとは思うが…
わたしは完全に混乱した。