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転生!? 悪役令嬢エリーゼの優雅な日々  作者: 桜庭恵斗
第三章 バチバチ!? まさかまさかの奪い合い!?
6/21

学園への入学から月日が経ち、

夏と呼ばれる時期に差し掛かろうとしていた。

少し歩いただけで汗ばんでしまいそうな温度だが、

エリーゼは空調の利いた車内で優雅に景色を眺めていた。

エリーゼはこの時間を退屈と感じていた。

片道十分程の僅かな時間ではあるが、

単純計算で一年の間に約百二十時間も消費してしまう。

エリーゼにとってこれほど腹立たしい事はない。


不意に、近くの車に目をやる。

どこかで見たことがある車。見覚えのあるナンバープレート。


「あの車の後ろにつきなさい」

「かしこまりました」


エリーゼは運転手に指示すると、例の車にピッタリと付いた。

どちらの車両も行き先は聖マリアンヌ学園である。

やがて先頭の車両が停止するとエリーゼの車両も停止し、車から降りる。


「ごきげんよう、春香」

「ごきげんよう、エリーゼ」


二人は互いに微笑み合い、校舎へと向かった。


オーホホホホホ!

完っ璧ですわ!

わたくしは兼ねてから春香たんの登校時間を調べており、

ある規則性を見つけましたの。

試行回数は三十六。

まずは春香たんが通行するルート、その周辺の交通状況、天候、

そして春香たんのコンディションを隅々まで把握しますの。

その後は統計学に習って到着予想時間を計算しますの。

最終的にこの理論を組み立てあげ、誤差五分までに縮めましたわ!

そして今日はピッタリジャストですの!

学園に着いたら即、春香たん!

ああ、なんて素晴らしいのかしら?


「あ、そういえばエリーゼ。今日は小テストがあるみたいですよ?」

「そうなんですの?」

「はい、同じクラスの方に聞いたところ、今までの復習とちょっとした応用が出るみたいです。エリーゼは大丈夫ですか?」

「オーホホホホホ! わたくしがそのような物でつまづくと思いまして? もしそうなら、それはステュアート家の恥ですわ」

「ふふ、それもそうですね」


春香はいたずらっ子のように笑う。


思えば春香も良く笑うようになりましたわ。

出会った頃はいつも何かに怯えていて、

相手の顔色を伺っているようでしたわ。

それでもひたむきに、

儚げに生きる姿を見てわたくしは心を打たれ行動を移した。

初めて彼女を抱いた感覚は今でも覚えていますわ。

とても小さく、震えていて、わたくしがこの子を守らなければ、と。

彼女の笑顔が見たい。

彼女の喜ぶ姿が見たい。

彼女が幸せになって欲しい。

わたくしがいつも大げさなスキンシップを取るのはこのためですわ。

ステュアート家の名など関係ありませんわ。

わたくしが関わる事で、

彼女が安心して暮らしていけるのならいつまでもそばにいますわ。

彼女の為に尽くしたい。

わたくしは春香が好きですわ。

わたくしはこの気持ちを一生忘れずにいると誓いますわ。


「わぁ~。あの木も一気に迫力が増しましたね!」

「ええ。少し前まで桜の花がいっぱいでしたのに、今では緑一色ですわね。さすがに時の流れを感じずにはいられませんわ」


学園の中央に設置された記念樹。

その記念樹は学園が創立された時代から存在し、

今ではその樹の下で告白すると永遠に結ばれる、

といった迷信まで囁かれている。


あれ、この後何かあったような……?


エリーゼはふと違和感を覚えるが、時すでに遅しだった。


「えっとー。君が春香ちゃん?」


後ろを振り向くと立膝をつき、うやうやしく手の平を見せる男がいた。

エリーゼは頭からすっかりこの男の存在と危険性を忘れていた。


「好きだ。僕と付き合ってくれ」

「え」


エリーゼは咄嗟に彼と春香の間に足を踏み入れる。

彼の名前は赤城蓮介。

もう一人の攻略対象。

彼は、気に入った女子には声を掛けずにはいられない性格をしている。

エリーゼにとって赤城蓮介とは、水谷と対を成す悪魔に他ならない。


「無理ですわ」

「へ?」

「貴方が春香と付き合うのはわたくしが断固として許しませんわ」

「はぁ……。君、確かエリーゼちゃんだよね? 僕は春香ちゃんに用があるんだよね」


赤城はエリーゼが邪魔だと言わんばかりに身体を傾け、春香に顔を見せる。

負けじとエリーゼも身体を動かし、

右左右へと春香の視界に赤城が入らないようにガードする。

さらにはフェイントの掛け合いまでに発展し、膠着状態に陥る。

結果、先に根を上げたのは赤城の方であった。


「はあ。この場は諦めるよ。でも! 僕は春香ちゃんを諦めたわけじゃない! 僕の名前は赤城蓮介。覚えててね春香ちゃん!」


エリーゼは最後まで春香を守り、赤城の髪の毛一本さえ見えなくなる瞬間を見送った。


「す、凄い人でしたね。いきなり告白だなんて……」

「ええ、あれはとんでもない男よ」


エリーゼは赤城蓮介に対して、並々ならぬ危機感を抱くのであった。


 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 


「春香ちゃん、好きだ! 付き合ってくれ!」

「却下ですわ」


エリーゼの後ろに隠れる春香。


赤城の告白から数日。彼は飽きもせずに春香へ告白していた。

ある日は授業終了と同時に告白。

またある日は掃除用具入れの中から告白。

またまたある日は火の中、土の中、水の中。

スカートの中からは無いが、

度重なる赤城の告白によって春香の精神状態は若干不安定な物となっていった。


「わざわざこちらのクラスまで来て……赤城さん、貴方は分かりませんの? 春香は貴方を怖がっていますのよ? 即刻おやめなさい」

「僕は春香ちゃんに怖いなんて言われてないし、ただ好きだって伝えてるだけさ。それに彼女から返事も貰ってないしね」


両者一歩も引かず。

誰もがこのまま平行線を辿ると思えたが、思わぬ人物が声を上げた。


「おいお前、それくらいにしたらどうだ?」

「ふ~ん。君がでてくるんだ」


その人物とはエリーゼの婚約者であり、エリーゼをHAPPYEND(死)へと誘う悪魔、水谷修だった。


「おやおやもの凄く有名なあの水谷くんじゃないか。もしかして~、君。春香ちゃんの事が好きなのかい?」

「いや、お前が目障りなだけだ」

「へ~。結構言うじゃん」


一触即発。

水谷と赤城は真正面から対峙し、互いを睨み合う。


「僕が付き合ってきた女の子達はさ、ほとんど君の事が大好きだったらしくてね。付き合うまでに結構苦労するんだよね。だから僕、君のこと大嫌いなんだよね。」

「安心しろ。俺もお前のようなやからは嫌いだ」

「そりゃあちょうどいい! 水谷くん、僕と勝負しないかい?」

「勝負?」

「ああそうさ! 勝負さ! 僕が勝ったら自由に春香を口説いてもいい」

「負けたらどうする」

「その時は黙って手を引くさ」

「ふん、くだらない」

「負けるのが怖いのかい?」

「誰がしないと言った?」


売り言葉に買い言葉。

水谷の欠点はプライドの高さである。

そのおかげで前回エリーゼは気を引けたが、今回はそれが裏目に出てしまった。


「決まりだね。じゃあ何で勝敗を決めようか? 何か希望はあるかい?」

「なんでもいい」

「余裕だねぇ。うーん、じゃあどうしようか?」


赤城は腕を組み、しばらく考え込む。

エリーゼは長らく眠りこんでいた“海辺に立つ君へ”のシナリオを思い出していた。

当然、この後のセリフも覚えており、

どうなるとまずいのかも理解していた。

「あ、そうだ! 今、体育の授業でテニスをやっているよね? 三日後の放課後、それでどうかな?」

「いいだろう」

「じゃあそれで。春香ちゃんバイバイ! 応援よろしくぅ!」


 赤城は元気良く教室を後にする。


「まったく、次から次へと……」


エリーゼは思わず頭を抱える。


一難去ってまた一難とはまさにこの事ですわ。

なぜ赤城登場イベントを丸々忘れていたのかしら。

わたくしの中身が男だから?

特に好きなゲームではないとは言え、

わたくしの今後を左右する“海辺に立つ君へ”のシナリオを忘れるかしら?

事実、忘れていましたわ。

わたくしは恵まれた環境に慣れ過ぎたかもしれませんわね。


「ごめんなさい、エリーゼ。私のせいでこんな大事に……」

「いいえ、春香の責任ではありません。全てわたくしが悪いのです」


時間は限られている。

エリーゼは己の失態に恥じつつも、

これから起こす行動について検討していた。

春香を幸せにするために。己の悲惨な結末を回避するために。


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