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転生!? 悪役令嬢エリーゼの優雅な日々  作者: 桜庭恵斗
第二章 ハラハラ!? ピンチに駆けつけたのは王子様!?
3/21

学園生活も慣れそれぞれグループが出来上がった頃、

エリーゼとその取り巻き達は移動教室のため廊下を進んでいた。


「エリーゼ様、お荷物お持ちいたします」

「私もお持ちいたします」

「そう」


前田と峰岸が我先にとエリーゼの荷物を奪い合う。

前田は峰岸より、峰岸は前田よりエリーゼに気に入れられようとしている。

ステュアート家の令嬢であるエリーゼ。

そしてその取り巻き、という地位はとても重要らしい。

ましてや中学時代からコツコツと積み上げていたそれが無くなるというのは、

彼女らにとってとても痛い物なのだろう。


エリーゼの前世は男である。

小学校、中学校、高校、大学。

どれも平凡の学校に通っていたが、

彼女らのような存在に遭遇した事が無かった。

何故他人に気に入られるように振る舞い、その者の威を借りようとするのか。

まるでサラリーマンをやっていた自分のようではないか。

何故自ら過ごしにくい環境にしていくのか。

人間関係など気の合うやつらだけでいいのではないのか。


エリーゼは疑問だけが頭に浮かんでいたが、それらは自らの誤りだと気づく。

彼女らは普通の生徒ではない。

各々はどこかの令嬢や跡取りであり、

その一挙手一投足は自らの将来を決めかねない物なのだ。

彼女らは地位や名誉などの他人からの評価を狂ったように気にする。

ならば前田達の行動には納得がいく。

強大なステュアート家とエリーゼを通して関係を持ち、協力関係を得る。

そうすれば他人からの見る目は変わっていく。


エリーゼは前田達に同情さえもしながら、

目の前で繰り広げられる醜い争いに辟易していた。

しかし、エリーゼは心を鬼にして言う。


「二人とも、しばらくの間わたくしに付きまとうのやめて頂けるかしら?」


突然の発言に二人は固まる。

エリーゼはこの発言が二人にとって、いかに残酷かは理解している。

しかしエリーゼにはこの行動をとらざるを得ないのだ。

先に端を発したのは峰岸だ。


「え、エリーゼ様!? 何を仰っているのですか!?」

「私達中学の頃から仲良くやってきたじゃないですか!? それに私達は付きまとってるだなんて……」


事態の深刻さに気付き、二人は争っていた事も忘れて必死に訴えかける。

しかしエリーゼの心は変わらない。


「わたくし、思いましたの。貴方達と一緒に過ごしていて何かメリットがあったかしら、と」


二人はたじろぐ。

事実、エリーゼに二人と共にするメリットは無い。

あったとしても僅かな優越感や孤独感を埋める存在でしかない。

対して彼女らには先ほど述べた通り現在、将来のメリットがある。


「そ、そんな……」


今日はエリーゼの今後の立場確定させる重要なイベントが起こる日である。

本来のシナリオでは、

エリーゼは取り巻きと一緒に主人公である石浪春香を見下し、

嘲笑うという立場であった。

石浪春香はエリーゼ達の嫌がらせやいじめに普段から会い、

ついには放課後に校舎裏へと呼び出される。

しかし同じクラスの水谷修が一連の流れに嫌悪を抱いていたことや、

石浪春香の姿を見かけた事によってエリーゼ達の前に立つ。

というのが本日行われるはずのイベントである。


エリーゼは取るべき行動を決めかねていた。

何もしなければ取り巻き達は石浪春香を校舎裏に呼び出し、

エリーゼが裏で命令していたとして悪者扱いされてしまうだろう。

しかしあのイベントには選択肢という物が無かった。

選択肢とは今後の物語を変えていく重要なものだ。

果たしてエリーゼ 一個人としての行動が、

後のエンディングに作用するかは懐疑的だ。

事実、中学時代の頃に失敗をしている。

だがやってみる価値はある。

選択肢に頼らなくとも、

エリーゼの行動によってHAPPYENDが回避できるのなら大きな発見となり、

自由度が上がる。

エリーゼの腹は決まった。


エリーゼは負い目を感じながらも二人を置き去りにした。


● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●


エリーゼはある人物を探していた。

ここは学園付属の図書館。

家庭料理に関する本から小難しい哲学書まで色々な分野を網羅している。


規則正しく整列する棚は一見、本の壁と錯覚してしまう程の威圧感を放つ。

エリーゼはやっとのことで目当ての人物を見つける。


「あら、水谷家の跡取りであるあなたがここにいるなんて、珍しいですわね」

「ここは他と違って静かだからな」


水谷は兼ねてから読み進めていた本のページをめくる。


「お隣、よろしくて?」

「構わない」


エリーゼが席に着くと、水谷は席を立とうとする。


「どちらへ行きますの?」

「ここより静かな場所だ」

「まあ、それは急ですわね。この機会ですし、婚約者のわたくしとお話ししませんか?」


婚約者というキーワード出してでも水谷をこの場に引き留める。

エリーゼにはあまり時間が無い。さらに追い打ちをかける。


「もしかして……水谷様は女性と話すのは苦手かしら?」


馬鹿にしたような表情で問いかけてみる。


「フン」


水谷は不服そうに本の続きを読み始める。


オーホホホホホ!

このクソガキ、チョロ過ぎですわぁあ。

水谷がプライドが高く、曲がった事が嫌いなのは把握済みですわ。

婚約者というキーワードや、女と話すのが苦手、

なんて言われたらさすがの貴方もムキになりますわよねぇ?

効いてる効いてるですわぁあ。

オーホホホホホ!


しかしエリーゼが考えていたのはここまでで、

ここからはなるようになれのアドリブで切り抜けなければならない。

どうしたものか、とエリーゼは水谷の読んでいる本を見る。


「シェイクスピア? 水谷様は随分とロマンチストなのですね」


水谷はキッとエリーゼを睨む。

どうやらこれ以上話しかけるな、のサインらしい。

エリーゼはそんなのは気にせずに続ける。


「シェイクスピア、ロミオとジュリエットが有名ですわね。二人は愛し合うが本人達の意志に関係なく引き離され、互いに思いやったのちに死を選ぶ。退屈な作品ですわ」

「退屈? あれはなかなか素晴らしい作品だと思っているが?」


たまらず水谷は異を唱える。


「いえ、あの作品はシェイクスピアの過大評価の元となった愚作ですわ」


エリーゼは席を立ち、大げさに身振り手振りを加えて持論を展開する。


「なぜ退屈な作品なのか? まず、二人が共に死を選んだ後、両家の仲が良くなっているのが気に入りませんわ。あとはなぜ二人の死を、不変の愛を誓ったという見方をするのではなく、悲劇だと決めつけるのでしょうか? 作者の自己満足、そしてその読者の解釈を作者の意志によって捻じ曲げる愚作。以上の事からわたくしには喜劇にしか思えてなりませんわ」

「つまりは作品に対する不満だけではなく、作者によって躍らされた哀れな読者含めて愚作。ということか?」

「ええ、その通りですわ」

「なるほど」


水谷は感心したように頷く。

続けて水谷が質問する。


「ではエリーゼ、もし君ならどう書く」

「わたくし……なら?」

エリーゼは顎に手を当て、しばらく逡巡する。


「ロミオを死なせたまま、ジュリエットを生かし、最愛の思い人を失った世界で人間の醜い部分と不確定の愛を表現し、本当の悲劇を書き上げますわ」

「フン、面白い」


水谷は気分を良くしたのか、口角が上がっている。


もうひと押しですわ。

何か、何かございませんの?


「あ、そうですわ。よろしければわたくしのおすすめを持って参りますわ」


颯爽とエリーゼ本の海へと飛び込む。


あれでもないですわ。これでもないですわ。

ピカピカピカ! テッテケテッテッテー!

って、これでもないですわね。


エリーゼは本のタイトルを吟味しながらいそいそと探し回る。

本当は手当たり次第に分厚い本を取って行きたいのだが、相手はあの水谷。

当然本の質を求められる。

それを怠ってしまうとエリーゼの評価が下がってしまう。

せっかく先ほどの話で上げたのに、下がってしまっては意味が無い。

エリーゼは今までの記憶をフル動員し、読んだことがあり、

かつ質の高い本を手に取って行く。


「お、お待たせしましたわ」


ドスン、と机に振動が伝わる。

積み上げられた本の総数、なんと三十。さらにその一冊一冊は厚い。

この後はあのイベントが控えている。

水谷が出てくるのはエリーゼにとってまずい。

そこでエリーゼが思いついた案は水谷に大量の本を押し付け、

校舎裏には近づけさせない。という物だった。

水谷はなんでもできる天才に設定されている。

なので、もの凄く早く本を読めることを考慮してこの冊数となった。


いかがかしら?

いくら貴方でもこの量は読めないでしょうねぇ!

し、しかしいくらなんでも重すぎでしたわ。

オーホホホホホ!


「わたくしが選びに選び抜いた良作達ですわ」

「あ、ああ」


エリーゼはわざとらしく大げさに腕時計をみて言う。


「あ~ら、こんな時間ですわぁ」

チラッ。

「わたくし、この後用事があることを思い出しましたわ」

チラッ。


「水谷様、申し訳ございませんがわたくしはあとにさせていただきますわ」


エリーゼはスカートを軽く持ち上げ、軽い会釈をする。


「あ、水谷様。ちゃんとわたくしがすすめた本はお読みくださいませ。それでは」


思ったよりも時間がかかってしましましたわ。

あのクソガキ。このツケは必ず清算させてやりますわ。


エリーゼは早歩きで図書館をでた。

もちろん向かうのは校舎裏である。


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