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転生!? 悪役令嬢エリーゼの優雅な日々  作者: 桜庭恵斗
第七章 ワクワク!? 波乱の校外学習!?
20/21

18

一呼吸すると重力を伴ったようで不快な空気が肺へと流れ込む。

ほとんど汗をかいてないというのに肌をべたつかせ、

湿度が極度に高いため満足に蒸発できない。


「結構歩きましたね。そろそろ着くころだと思うんですが……」


現在、エリーゼと春香の両名は獣道をさらに歩き進め、

ついにはこの樹海――大自然が作り上げた天然のサウナに足を踏み入れていた。

しかしサウナと言っても居心地は悪い。

リラックスなどはまったく出来ず、ただ不安感と不快感を煽るのみである。


「……」


春香はエリーゼの顔色を伺いながら進む。

しかし本人はそんな事をつゆ知らず、別の事を考えていた。

だいぶ進みましたわ。

原作ではここまで歩いた描写は無い。

かといって、道中で目安となる物が描写されたこともない。

本来なら途中で主人公である春香が不安になって遭難した事に気が付く。

もしかして、わたくしがいるせいでその事に気付けないでいる?


「やっぱりつらいですか? あれから一度も休憩を取っていませんし、休憩しましょう?」


「いえ、わたくしは……」


ここでエリーゼは彼女を見て気が付いた。

地面から露出していた木の根を難ともしないしっかりとした足取りも、

今では度々ぎこちなくなって頼りない。

さらには悪路による長距離歩行が災いしたのか、

彼女の姿勢は出発時よりも悪くなっている。

春香は疲れていた。

自らが春香のために考えていたとはいえ、

目の前にいる彼女の体調すら気遣えない。

エリーゼはそんな自分に強い憤りを覚えた。


「そうですわね、休憩しましょうか」


二人は歩くのを止め、手頃な所に腰を落ち着ける。

なぜわたくしは春香を見てあげられなかった?

春香に興味がない?

いえ、そんな事は絶対にありませんわ。

では何故?

わたくしが助かりたいだけ?

わたくしの身が良くなれば彼女はどうでもいい?

そんな事は絶対にありえませんわ!


春香は自らの拳を握り、身体を小さくしていた。

まるで何かに耐えるように。

まるで何かを願うように。

春香は遭難している事に気づいている?

わたくしの記憶にある春香ならこんな様子にはならない。

たとえ疲れていたとしても足を揉んだり何かについて喋っているはず。

それにここは彼女が前々から楽しみにしていた場所。

さっきまでの態度とは大違い。

やはり、気付いてるとみるべきですわ。

問題は何故ここまでそのことについて言及しないのか?

原作と今の状況との相違点。


――エリーゼという存在の有無。


わたくしのせい?

わたくしがいたから遭難したことを言い出せなかった?

それならわたくし自身が修正をかけなければいけない。


「春香。ここまで来てアレなのですが、何か悪い予感がしますわ」


「悪い予感、ですか?」


恐る恐るといった様子でエリーゼを見上げる。

彼女の顔からはトレードマークである笑顔が消えていた。

やはり、春香は状況を理解している。

彼女からは見えないように、エリーゼは手のひらに爪を食い込ませる。


「これはあくまで予感なのですが、あの看板に従って以降いままでの風景とは一変していますわ。それに他の方々の姿が見えない」


「でも私達に限ってそんなことは……それにあの看板が偽物って言いたいんですか!?」


彼女の言葉が徐々に怒りを孕み始める。

ごめんなさい、春香。


「春香。わたくし達は遭難しているのですわ」


エリーゼの発言によって春香は顔をうつむかせる。

そのため、エリーゼには彼女の表情を読み取れない。

早くても遅くてもこの事実には真正面から向き合わなくてはならない。

エリーゼは心を鬼にして臨む。


「じゃ、じゃあ今すぐ来た道を戻りましょう!」


「いえ、駄目よ」


「なんでですか! このままじゃ私達死んじゃうんですよ!? 食べ物だってお昼の分しか用意してなかったですし、飲み物だってもう残り少ないじゃないですか!」


彼女の抱えていた不満が爆発する。

多分、春香は恐れていたのですわ。

今進んでいる道は確かなのかと。

もし間違えていたら自分たちはどうなるのか。

そんな不安を取っ払ってこの道は正しい。

このまま進めばいずれゴールにたどり着くのだと。

そう思っていたに違いありませんわ。

根拠のない願いにすがるように。


「ではもし仮に、わたくしと春香が一緒に引き返したとしましょう。そこで春香、貴方は今まで進んで来た道を覚えているのかしら?」


「当たり前です! 私達はあそこから真っ直ぐ進んで来たんです! だから同じように真っ直ぐ行けば帰れます!」


彼女は正しい。

しかしある要素を見逃していることで、それは間違いとなる。


「そうですわね。ですが春香、冷静になりなさい。人間は視覚を頼って進む方向を決めていますわ。街の中なら規則正しく並べられた建物によってどちらが前か後ろかを判断できる。しかしここは深い森の中。木々は当然ながら不規則かつ大小様々に並んでいる。このような状況で来た道を戻るなど、よほど記憶の良い方ぐらいにしか出来ませんわ」


もしかしたら水谷がこの場にいたのなら全部丸く収まるのかもしれない。

しかしそれはわたくしの首を絞める行為。


「つまり、今のわたくし達は無暗に動き回るのではなく、ここで待つ事が正解ですわ」


「で、でも! ここで待ったとしても確実に助かるなんて事ないじゃないですか!」


「それでも動いて遠く離れてしまうよりはマシですわ」


目を合わせ、春香の手を握る。

瞬間、僅かながらに彼女が震えた気がした。

その手は氷のように冷たく、溶け落ちないようにしっかりと握る。


「春香、安心なさい。わたくしはステュアート家の令嬢ですわ。お父様が本気になればヘリコプターでも軍でも動かして、わたくし達を見つけ出そうとしますわ。だから大丈夫。春香は絶対に助かりますわ」


「エリーゼ……」


二人は視線を交わし、互いの身体を抱き合った。


これはギャンブル性の高い賭けだ。

なぜ赤城に協力させてまでこの状況を作ったのか。

それにはどうしようもない理由がある。

この後、予定では雨が降る。

小雨ではなく、無視できないような大粒の雨が。

実は先ほどの獣道と正規ルートへの分かれ道は、

原作で二択の選択肢となっている。


原作での主人公は、悪役令嬢であるエリーゼの策によって一人で行動する。

日々憧れていた山を歩き、能天気な彼女は独り言をつぶやきあがらむ進む。

やがて現れたのは例の矢印が描かれた看板。

この看板はエリーゼの意図によって、

間違いであるはずの獣道に指し示されていた。

例えば彼女が不審に思い、それに背いて正規ルートへ進んだとする。

ある程度進み、春香は舗装された道が続いているのに安心し、

さっきの看板が間違いである事を確信する。

しかし、突然振り出した雨のせいで地面がぬかるみ、

彼女は不幸にも足を滑らせて傾斜を転がる。

その後の彼女は転ぶ過程で全身の至る所を骨折し、

あまりの痛みに声すら出せなくなる。

やがて動けなくなった春香は、

雨による体温低下と骨折による痛みに体力を奪われ、やがて息を止める。


最後に、不気味な笑みを浮かべたエリーゼが見下ろすCGがでてGAMEOVERとなる。

つまり、エリーゼの望まないBADENDとなる。

ではこのルートでエリーゼが行動を起こした場合春香は助かるだろうか?


――可能性は低い。


人間というのは、実に不確定な生き物である。

エリーゼが彼女の足を滑らないようにいくら気を張ろうが、

何かの拍子で滑らせてしまうかもしれない。

エリーゼと春香は同性であるが僅かに体格差が存在する。

彼女が足を滑らせ、運よく腕を掴めるかもしれない。

しかし、その体格差を利用しても、

地面は濡れているので二人仲良く落ちる危険性がある。

以上から正規ルートへ進むには多大なリスクが伴う。


では間違った看板の通り、獣道に進めば助かるのだろうか。

主人公である春香は獣道へと進む。

いままでのルートとは違った雰囲気に違和感を覚えた彼女は、

ある程度進みあの看板が間違いである事に気が付く。

春香はどうするか悩むが、冷静に判断したのちに救助を待つ事を考える。

だがいくら待っても助けは現れない。

彼女は飢えと喉の渇きに苦しみながら死を迎える。


これでは春香が生存するルートが無いように見えるが、そうではない。

春香生存ルートはちゃんと残されている。

実は水谷と赤城には“LOVE♡メーター”という現時点での好感度を表したパラメーターが存在する。

それはいくつかの選択肢によって上下し、各章ごとにでるリザルト画面に表示される。

残念なことに転生したエリーゼにこれを確認するすべはない。

今回の選択肢では、この“LOVE♡メーター”が春香生存のカギとなる。

獣道へ行く選択肢を選んだ際、水谷または赤城どちらかの“LOVE♡メーター”に一定量のポイントが入ってなくてはならない。

水谷なら七十五ポイント、赤城なら五十ポイント必要である。

このポイントは何の考えもなしにプレイしたのなら、

どちらか大きい方に平均して四十ポイントほど集まる形となっている。

それほどこの選択肢は鬼門となっている。

前世のエリーゼもこの場面をプレイする時だけ攻略サイトを見る程である。

では“LOVE♡メーター”に一定量ポイントが溜まっていた場合はどうなるのか。


雨に打たれて体温を奪われた春香は身体を寄せてじっと待つ。

すると水谷と赤城、そしてエリーゼの三人が彼女の前に現われる。

春香は幸運にも彼らによって助かるが、道中でエリーゼは転んでしまい、

天罰だと言わんばかりに足を骨折させてしまう。

エリーゼはあまりの痛みに泣き叫び、無様な姿を晒す。

このシーンはプレイヤーのストレスが昇華されるので人気が高い。


この後は無事に帰宅し、

病院で診断を受けるが何も見当たらないというところで章が終わる。

問題なのはこれから。

エリーゼは原作通り、骨折したことで春香に強い恨みを持ち始める。

その結果、数多くのBADEND(死)が待ち構えることとなる。

現在、エリーゼの意思や行動によって、物語を多少改変できることが分かっている。

ではその意思や行動を何者か――例えば神のような存在に変えられることはないのだろうか?

今のところ、彼女にはそのような現象や力には遭遇していない。

だからエリーゼは春香と共に行動をした。


助ける側ではなく、助けられる側へ。

彼女は自らの意思を捻じ曲げられて春香を手にかけようとするなど考えられなかったが、念には念を入れて。


わたくし達が助かるにはあの二人に掛かっているのはとても癪ですわ。

ですがそれ以外方法が無いのも事実。

思うに、あの“LOVE♡メーター”はあくまで好感度で、

どれだけ好きかという指標ではなく好奇心や興味と言った方が正しい。

何故なら“LOVE♡メーター”を最大量貯めても、

必ずHAPPYENDに到達するということはないからだ。

すなわち、助けるための“LOVE♡メーター”はわたくしにも適用されるはずですわ。

わたくしと春香の二人を合わせた“LOVE♡メーター”なら、

水谷か赤城のどちらかなら余裕で基準値が溜まるはず。

これでわたくしと春香は助かる。


「大丈夫。大丈夫よ春香」


春香は息をしている。

指先は冷たいが、はっきりと心臓の音が聞こえる。

生きている。

エリーゼは宝物のように彼女の髪を撫でた。


もしかしたらポイントが足らなくて失敗するかもしれない。

でも大丈夫ですわ。

春香だけは助かる。

何故ならわたくしの春香に対する“LOVE♡メーター”は尋常でないほど溜まっていますもの。

それはそれは彼女が呆れてしまうほどに。




絶対に、春香はわたくしが守りますわ。

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