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転生!? 悪役令嬢エリーゼの優雅な日々  作者: 桜庭恵斗
第七章 ワクワク!? 波乱の校外学習!?
19/21

17

楽しかった昼食も、やがて終わりを迎える。

彼女らはゴールへと向かうべく、片づけてから歩き始めた。

太陽は既に真上を過ぎ若干傾いていく。


「ちょっとゆっくりし過ぎちゃいましたかね」


「大丈夫ですわ。この分ならちゃんと間に合いますもの」


聖マリアンヌ学園は個々の身体能力にバラつきがある事を認めているため、

運動が苦手の生徒のためにタイムリミットを余分に取っている。

反対に到着が早い生徒はバスが一台ずつ埋まるごとに発車する形となっている。

以上をふまえて、

エリーゼ達の進むペースはかなり遅い方だが時間には十分間に合うペースである。


「あれ? 分かれ道ですね」


進んでいくと道が二つに分かれ、だいぶ劣化の進んだ看板がそこにあった。

片方の道は今まで通り整理されている。

もう一方の道は雑草が生い茂り、地面は肩幅ぐらいしか見えない。


「矢印がありますね。どうやらこっちに進むみたいですね!」


「ええ、そうですわね」


二人は看板で指し示された道へと歩き出す。

整理された道ではなく、雑草が生い茂る方へ。

内心ホッとしつつも、いつのまにかエリーゼの顔には汗が流れていた。

心臓の脈打つ音がやけに大きい。

彼女は春香に聞こえないかと心配してしまう。


「今までと違って、青々としていて一段と空気が美味しいですね! 動物っぽい声も聞こえてきて、何だかパワーを貰えるような気がしますね!」


「ええ」


春香は今の状況を疑いもなく受け入れている様子。


「エリーゼ、どうしたんですか? 何やら顔色が悪いみたいですが」


「え!? なんでもありませんわよ?」


「ははーん、私分かっちゃいましたよ! さてはお昼を食べ過ぎて気持ち悪くなったんですね!」


「い、いえ。そういう事ではありませんわ。断じて春香のお弁当で気持ち悪くなったなんて事はありませんわ!」


「そうなんですか? 無理は禁物ですよ? もし耐えられないと思ったらいつでも言ってくださいね」


「ありがとう、春香」


思いとは裏腹に春香は屈託のない笑みを浮かべる。

エリーゼはそれに罪の意識を覚えながら、出発前――赤城との会話を振り返る。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「え、神のお告げ?」


「そうですわ」


赤城が運転手にキャリーケースの中身をエリーゼ宅に送り届ける事を命令し終えた時だった。


「実は昨晩、お告げが聞こえましたの。内容は春香の身に危険が迫るというものですわ」


「春香ちゃんに危険? なにが起こるって言うんだい?」


「それは分かりませんわ。ただ危ないとしか」


「じゃあ僕にそれを話すっていう事は何か対策があるっていう事なんだよね?」


「もちろんですわ」


「じゃあ教えて欲しい。出来るだけ春香ちゃんには危ない目にはあってほしくないからね」


「それはわたくしも同感ですの」


赤城はエリーゼのただならぬ雰囲気を察して、

近くにいる春香達から車を跨ぐようにして移動する。

車にはフロント以外にプライバシーガラスが使われているので春香達には見えない。


「では伝えますわ。春香が助かるための対策を」


エリーゼの発言を機に赤城は喉を鳴らす。

彼女は決心したように間を開けると、今までにない真剣な声音で語った。


彷徨さまよえる子羊よ、最愛の者を助けたくば、進むべき道を今一度改めよ。さすればそなたらの望む結末へまた一歩近づくだろう。ですわ」


「道を改める? どういう事だい?」


「わたくしもお告げを聞いた後、わたくしなりに調べましたの」


「それで、何か分かったのかい?」


「ええ、恐らく今日行われる山登りのルートで矢印が書かれている看板があるとの情報を得ましたわ。建てられた年代も古く、少々脆くなっているとう事も分かっています」


「その看板とお告げに何の関係が?」


「そんなに焦らないで欲しいですわ。実はその建てられた場所が問題なんですの」


「場所? もしかして幽霊が棲みついてるとかいわくつきのところなのかい?」


「当たらずとも遠からずってところですわね」


エリーゼは意味ありげな表情で答える。

赤城は食いついているようですわね。

あの決闘イベントの日以来わたくしを疑うような素振りはなく、

逆に崇め称えるような言動ばかり。


「実はその看板の立つ所は道が二又に分かれていて、片方はちゃんとゴールにたどり着く正規ルート。そしてもう片方はろくに陽が届かない樹海に繋がっている獣道なんですの。しかもその樹海では年に数名ほど行方不明者が出るとか」


ここまでほとんど本当ですわ。

しかし行方不明者のくだりは今思いついた嘘ですわ。

真実の中に嘘をほんの少し混ぜると本当のように聞こえるらしい。

まあ、赤城を不安がらせるぐらいしか意味が無いのですが。

しかしそれぐらいの気持ちで接して欲しいのは確かですの。


「これはわたくしなりの解釈なのですが。つまり、その看板に書かれている矢印の向きを変えて、獣道に春香を向かわせる。というのが彼女の助かるすべなのですわ」


「君は本当にそれが答えだって言うのかい? お告げが正しいとしよう。だが、もしその解釈が間違っていたとしたら春香ちゃんは無事でいられるのかい? それこそが彼女にとっての危機なんじゃないのかい?」


赤城は初めてエリーゼの前で感情をあらわにする。

言葉遣いはいつも通りのだが、音声やアクセントから苛立ちを隠しきれない。

しかし怒りを表に出しても何も変わらない。

エリーゼは頑としてこれを譲らない。


「ええ、その考えはわたくしにもありましたわ。しかし、それ以外にも当てはまりそうな場所は検討しましたわ。ですがこのタイミングでのお告げ。さらには道を改める。わたくしが先ほど挙げた案しか考えられませんわ」


「だけど……」


「赤城さん。貴方もこのお告げは紛い物ではないと分かっているはずですわ。それにわたくしは春香を愛していますの。貴方も同じ思いを胸に秘めた仲間ではなくって?」


あえて“仲間”という単語を強調する。

彼は眉間にシワを寄せてしきりに悩む様子を見せる。

ここはなんとしてでも首を縦に振らせなければいけませんわ。

でなければ作戦は失敗し、わたくしは散々な目に遭ってしまいますもの。


「わたくしは赤城さんを信じています。だからわたくしも信じて欲しいんですの」


「分かったよ……僕は君を信じる。だが、だからといって僕はどうすればいい? なにか出来る事はあるのかい?」


「ええ、赤城さんには矢印の向きを変えて欲しいんですの。もちろん水谷様や他の方達には気づかれないように」


「それぐらいならお安い御用さ。エリーゼちゃん、君はどうするんだい?」


エリーゼが思ったよりすんなりと彼は同意した。

いい調子ですわね。

後はあれを認めさせるだけ。


「わたくしは春香のそばに。なにがあっても、なにが起こってもこの身を盾にして守り抜きますわ。と言っても獣道を進んでしまえばほぼ遭難は確実ですので、赤城さんには時を見計らってわたくし達を探しに来て欲しいですわ」


「なるほど。それで目印を付けながら進んでいけば、例え遭難しても確実に見つけられるね」


彼は納得したように頷く。

確かに助かる可能性は高いに越した事はない。

しかし、エリーゼの考えは違った。


「いえ、目印はつけませんわ」


「なっ!? 何を言ってるんだい? 君は正気か?」


「ええ、いたって正気ですわ」


「じゃあなんでそんなバカげた事が言えるんだい!?」


あんまりな発言に赤城は声を荒げる。

ハッとしてエリーゼは周りを見渡すが、反応している生徒は見当たらない。

どうやら杞憂に終わったらしい。春香達がこちらを気にしていることもない。

恐らく今から行われる山登りが脳内を大きく占めているのだろう。

気づけばエリーゼ達と同じようにして喋っている者も多い。


「お告げには“道を改めよ”としか言われていませんの。すなわちそれ以外は不要という意味ですわ。もしお告げ以外の事をしてしまえばより事態を悪化させてしまう。わたくしはそれが怖いんですの」


「だからって目印を残さない事にはならないんじゃないのかい? これが安全で確実に助けられる方法じゃないか!」


絶えず吠え続ける赤城にエリーゼは心底うんざりしながら答える。


「いいえ、仮に目印を付けながら進んだとしましょう。樹海は人を惑わしますわ。いずれ方向感覚を失い、円を作るように一度歩いた道をまた歩いてしまうかもしれませんわ。そうするとどうでしょうか。目印を頼りに来ていた赤城さんは当然のように後を辿り、わたくし達が作った円で延々とループしてしまう可能性がありますわ」


もっともらしい理由を付けて説得してみる。

エリーゼが言っている事は正しいように聞こえるが実は間違っている。

万が一遭難した場合、

ほんの少しばかりの痕跡であっても最終的には発見に繋がり易い。

今回、エリーゼはその目印によって捜査の手をかく乱する恐れがある事を訴えるが、逆を言えば辿るべき目印を間違えなければ確実に救出できることを意味する。

しかし、エリーゼはこれを理解している。

この状況において誰であっても彼女を疑う者はいないだろう。


「人の手が及んでいない所は何があってもおかしくありませんわ。赤城さん達が同じ場所をループしている時間がもったいないんですの。だから重ねて言います、どうかわたくしを信じてください」


エリーゼは大きく髪を揺らしながら九十度。

直角に腰を折り、頭を下げた。

それはまさしく、彼女にとって出来る限り精一杯の行為であった。




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