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「おはようございます。エリーゼ」

「ごきげんよう。春香」


今日も今日とてジャスト登校を決めた。

現在更に試行回数が増えることによって、

春香の予想到着時刻は誤差五分に収めることに成功している。

彼女は湧き上がる喜びに、笑みをぎょしえない。

しかし、自称天才のエリーゼにもミスはあった。


「最近エリーゼと一緒に登校するのが増えましたね!」

「え、ええ。増えましたわね。お、おほほ~」

「もしかして、私にストーカーみたいなことしてます?」


ギクリ。


「エェ!?」

「うーん。雨の日は一緒になることは少ないけれど、

晴れの日は一緒になる事が多いいし……。」


ギクギクリ。


「お、オーホホホホホ!

 わたくしはステュアート家の令嬢ですのよ?

 そんなことしませんわ」


太陽が真上に昇っていないにもかかわらず、エリーゼの額に汗が流れる。


「そうですよね! きっと運が良いんだと思います!」

「ええそうですわ。わたくしならストーカーなどせずに普通に……あ」

「どうしたんですか?」


……あ。

今気づいてしまいましたわ。

交通状況や天候などを加味した到着予想時刻を計算しなくても、

春香たんと一緒に登校できる方法。

なぜわたくしはこの方法を取らなかったのでしょうか。

普通に誘えば良かったのですわ……。


「いえ、普通に誘いますわ」

「でも、こうも頻繁になると不思議ですよね。

もしかして守護霊やハイヤーセルフ、

因果律などによって無意識で私たちが一緒に登校している……?」


名探偵よろしく春香は人差し指と親指でアゴを置き、「むむむ」と呟く。

エへへぇ、スピリチュアルかわいいですわ。

今すぐ改造したハイエースで春香たんを連れ去って、

自分に正直になりたいですわ。

そして二人の思い出を油性マジックペンで車内に書き込みますの。

ああ、正直になれないこの身体が憎い。

彼女らは下駄箱で靴を履き替え、自らの教室へと向かう。





「わぁ」


校舎内にて展示された一枚の絵画。

豪華な額縁がくぶちで装飾されている。

作品名は海辺。

その名にふさわしく穏やかで、荒々しい海。

沈んでしまうその時まで輝こうとする夕日。

昼から夜へ移り変わる瞬間。

青とオレンジを基調とし、それぞれが違い、互いに高め合う。

それは素人目から見ても見事と言わせるほどの作品だった。


なんて綺麗なのでしょう。

ただの絵ですのに夕日の眩しさに目を細めてしまいそう。

わたくしは芸術に関してあまり詳しくはないのですが、

この絵には世界が描かれている。

意識が奪われそうな感覚。

トクン、と心臓が跳ねる。

この胸の奥から湧き上がってくるものは何かしら。

これは恋? 

いいえ、絵に恋する方なんて聞いた事がありませんわ。

恐らく感性を揺さぶられる、とはこの事ですの。

それほどこの絵は素晴らしいのでしょう。


エリーゼは作者名に目をやる。

――水谷修。


いや、全っ然素晴らしくないですわ。

ハッキリ言って駄作。

このゴミに使った材料がもったいないですわ。

しかし一瞬でも良い作品だと思ったのは事実。

心の中とは言え、

宿敵に賛辞を送るなどステュアート家の恥ですわ。


眉をしかめながら唇を噛んだ。


「やあ、春香ちゃんとエリーゼちゃん。何をそんな夢中になっているのかな?」

「あ、赤城さん。見てください! これ水谷さんが描いた絵らしいです」

「ほー。あの水谷がこんな絵を描くなんてね。まあ悪くないね」

「そうですよね! 私は特にここの色使いと……」


春香は余程水谷の作品が気に入ったのか、興奮して解説を始める。

彼女の解説は全て的を得ており、専門的な領域にまで触れていた。


「は、春香ちゃん結構詳しいね」


対して赤城は、マシンガンのように発射される専門的な言葉に四苦八苦していた。

恐らく出てくる一つ一つの言葉を理解できないのだろう。


やはり赤城は馬鹿ですわ。


かくいうエリーゼもついていけないのであった。


「おっと、そろそろ予鈴が鳴るね」

「あ、本当ですね早く行きましょう」


三人はそれぞれの教室へと向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「お! 春香ちゃん洋食にしたんだ」

「はい! 赤城さんはどれにしたんですか?」

「僕は和食かな。まあ、水谷と同じっていうのはしゃくだけどね」

「俺が先に注文した」

「いーや、僕が和食にしようかな~って言ってたじゃないか!」

「それでも注文は俺の方が先だ。赤城は注文した後に変える事が出来ただろ」

「ぐ……。そういえばエリーゼちゃんはどれにしたんだい?」

「和食ですわ」


当然のことですわ。

春香と料理が被ってしまったらオカズ(唾液)チェンジが出来ませんわ。


現在、食堂にて水谷、赤城、

春香、エリーゼの四人が同じテーブルを囲んでいる。

水谷と赤城はあの決闘イベント以来、

二人の仲が深まっている。

あれからというものの、

諦めの悪い赤城は幾度か勝負を挑んでいる。

途中まではほぼ互角の状況だが、

最終的には水谷が勝つ。

というのが今までの内訳である。

流石に赤城は折れ、

彼の弱点を探るという建前で春香に近づく。

こうしてお決まりの四人組が完成した。

知的生命体の名は伊達ではない。

無い知恵を振り絞った結果がこれである。


「エリーゼ、なんで私を見つめるんですか? 

主に私が使っているスプーンを」

「いえ、何でもありませんわ。それよりも腕疲れていませんの? 

良かったらわたくしが口元へはこびましょうか?」

「もうエリーゼ! 

お二人が見てる前でそんな恥ずかしい事はもうしません」

「そんな殺生な!? あの方々はどうせ見ておりませんわ! 

さぁ、ほらあーん!」

「あ、エリーゼちゃんずるいぞ! ほら僕のも、あーん」

「しーまーせん!」


エリーゼ達は何度か隙を伺って自分のハシ(唾液付着済み)を突入させるが、

押し返されてしまう。


くッ!

最近春香のガードが固くなっているのを感じますわ。


恐らく原因は水谷と赤城。

なかでも赤城の影響が大きい。

彼は水谷と張り合う裏で、春香へのアプローチは事欠かなかった。

必然的に春香と接する場面が増え、水谷は半場強制的に連れられる。

彼らとの距離が近くなった結果、春香のおどおどとした態度は緩和されていった。

つまり、二人のせいで春香はガードが固くなったのである。


「あ、そういえばもうそろそろ校外学習が始まりますね!」

「校外学習? なにやるんだっけ?」

「赤城、お前そんな事も知らないのか」

「水谷様、この方は本当の馬鹿ですので言うだけ無駄ですわ」

「そうだったな」

「うぇ! エリーゼちゃんそれ酷くない!?」

「本当の事だからな」

「ですわ」


あら、珍しく水谷と意見が一致しましたわ。

赤城が馬鹿だというのはあのイベントで痛いほど理解していますわ。

このわたくしが懇切丁寧にサポートしたというのに……。

あわよくば何も話さず、何もしないでほしいですわ。


「はあ、それで校外学習ってなにするの?」

「はい! 山登りです!」

「ええ~、山登りぃ~!?」

「なんで“え~”なんですか! 山登りいいじゃないですか! 

人工物に埋もれたこの都会で青々とした自然なんて滅多にありませんよ? 

赤城さんも一回行けば自然のありがたみが理解できると思いますよ?」

「ええ……この季節だから虫多そう」

「虫も生きているんです。

そんな嫌いになっちゃ可哀そうですよ。

それに空気が綺麗ですし、大自然のパワーが……」


その後も春香のうんちくやスピリチュアルなトークが続く。

津波のような情報量に赤城の眉が下がっていく。


「へ、へ~。ということは山登りってすごいものなんだね~」

「そういうことです!」


彼女はエッヘンと胸を張り、満足げに笑う。

赤城は春香の扱い方が分かってきた様子。

はあ、このまま春香に対する思いが減滅して欲しいのですが。


「でも当日の天気予報が心配なんですよね……」

「もしかして雨なのかしら?」

「まだ先なんですが、今のところ雨らしいです」

「あらら」

「一応てるてる坊主は作ってるんですけどね……」


分かりやすいようにテンションを下げる春香。

尻尾が付いていれば真下に抜け落ちているだろう。


「ところで春香。校外学習の前に一つ大事なものを忘れてないかしら?」

「大事なもの?」

「て・す・と♡ ですわ」


二人は頭を抱えた。

 

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