竜人の異形と蛮族と疾走
今回とても短いです。
ハインは視界の通らない森をやっとのこと抜けだしいつもの道へ戻ってきた。
けれどもディザの街とは逆の道へと駆け出した。
「まだ今なら村に避難を呼び掛けられるかもしれない。」
口ではそう言い聞かせたが、平穏へ逃げ出したい彼が村へ向かうのはもっと別の意思だった。
正直いますぐに帰路につき街の冒険者の店へ戦力を求めるのが彼にとって最善かつ安全な道だろう。
だが、彼はそれをしない。
それをしてしまえば一生彼女に会うことはできない。
マントの内には彼女の魔剣が携えられていた。
ハインは死を覚悟した彼がまだ生き残っているのは結局は彼女の優しさだと確信していた。
最後にはやはり彼女にも心があるのだと、彼女に生まれた心を知らない誰かが摘み取るかもしれないという可能性が彼を怖がらせた。
次第に道の作りが簡素になって行く。
夜目の利かない彼には足元ははっきりとは見えていない。
道中二、三度転びながらもただ無心に走った。
彼女に会えたとしても何をするのかはわからない。
それでも彼は止まらなかった。
そろそろ折り返し地点です。
彼の心から逃げるという感情が失踪しました。
間に合えハイン!
次回:村襲撃