竜人の異形と蛮族と宴会
蛮族回です。登場人物が増えます。
いつの間にか森の頭上を夕焼けが染め上げ、時間を思い出させる。
ハインは仕事のために摘んだ薬草を磨り潰し身体の痛む場所に塗り込んでいた。
あらかたそれを終えると木に背中を預けその効能が利くのを待ちながら考え事を始めた。
「どうしたものか…」
視線の先には彼女が罠にかかっていた場所に魔剣が忘れられていた。
◇◇◇
蛮族達の拠点は今宵の襲撃を前に騒がしかった。
雑に切り開かれた森の中で武器や食料の入った樽を忙しく運搬するしわがれた小人『ゴブリン(小妖魔)』が数十匹と戦いの前に自慢の武器を手入れする無毛の大男『ボガード(大妖魔)』が十数匹。
それらを尻目に比較的綺麗に切り開かれた切り株に腰を掛け、縦に割って寝かせただけの樹木の机に並ぶ様々な生物の肉を男のドレイクが二名と目元を隠した人型の蛮族『バジリスク(邪眼蛇)』が三名で囲い食していた。
その中で最も華奢な白桃色の長髪を持ち黒い目隠しをした女が口を開く。
「長の娘はまあだ遊んでるのかしらぁ?いつまでも子供ねえぇ?」
食事に酒が入っているのか汚れの無い純白のドレスローブから覗く更に白い肌が薄っすらと火照っている。
「現在ゴブリン数名をルシハ様のお迎えに向かわせてますので間も無くこちらへお目見えになるかと。」
真っ直ぐ平行に聳える双角を持ち剣を携える男の真面目ドレイクが表情も変えず丁寧に答える。
「ちっ。別に来なくとも私は困らんのに…もしあのガキが遅れたとしても定刻通りに私は進軍させていただくまでよぉ。」
冗談の通じなさに不機嫌になりながら、白桃髪の女は赤子の頭ほどまで太らせたネズミの丸焼きを丸呑みする。
「そもそもあんなガキが次期族長なんて100年早いのよぉ…」
「ですがリヴィア様も同い年だったかと…」
リヴィアと呼ばれた女の左脇にいた汚れた包帯を目元に巻いた女がそう漏らすとリヴィアは目元を隠した布越しにその女を睨みつけた。
「ひィ…!」
目隠しの奥の実際には見えていない”邪眼”に恐怖の声を上げる。
「よかったわねぇヴィヴ?同族でぇ?」
見えない目に睨まれた先で声を上げた従者『ヴィヴ・ルー』のさらに脇には、先程までなかった『料理を抓み食いをしようとするゴブリンの石像』が立っていた。
「下等な妖魔が、我々の食事を盗もうなどとしなければバジリスクのつまらん『邪視』なんぞ受けずに済んだろうに」
片方が折れた太い角を持ち、大斧を担ぐドレイクの大男は石像を鷲掴みにし適当に放り投げると、その辺の木にぶつかった石像は無残に砕けた。
「つまらない…?」
リヴィアの隠そうともしない殺気が宴会場を覆う。
それを意に介さぬような態度でドレイクは食事を続ける。
「リヴィア様、せっかく晴れ舞台前のお食事。おいしく食べませんと損ですぞ」
三角の頭巾のような布をかぶり、皺を蓄えた口元だけを見せる老人が慣れた口調でリヴィアをなだめる。
「そうねぇ爺」
リヴィアはあからさまな殺意を収めると手元のネズミを千切り口の中へ放り込んだ。
リヴィア初登場。
その他のドレイク、バジリスクにも設定はありますが今後そんなに重要にならないかなぁ…?
必要になる際には追って描写入れます。
次回:ルシハ蛮族と合流