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竜人の異形と蛮族と  作者: 天樹 吾芽
一章:薬草摘みと襲撃者
2/21

竜人の異形と蛮族と遭遇

ここから本編が始まります。

 枯れ葉の落ちた土を踏みしめるのは幼き頃の『ハイン=コリント』は好きではなかった。

炎天下で泥や汗にまみれるよりも、涼しげな小風の入る屋内で詩を読むことを好むのが少年時代の彼だった。

当時の彼なら今のこの状態を望まないことは明白である。


「大人になるってこういうことなのかな、」


 そう大したことでもないか、と思う。よくよく考えれば子供でもその気になればこれくらい出来るのだから。


 森に入ったことで薬草集めは順調である。

数刻経たない内に先の収穫量に匹敵する薬草の群生地を見つけた。

仕事が捗りその空間に慣れてくると森の中も楽しく思える。

この調子なら陽が沈む前には森を出られるだろう。


 そんな余裕が彼の今まで日陰にいた少しばかり冒険心が寄り道を促す。

ふと視線を上げた少し先の木々の間から開けた場所を見つけた。


「せっかくだしもう少しだけ道から外れちゃおうかな…」


 籠をその場に置いたまま立ち上がり、日の光の降りる空間へふらふらと歩きだす。

あそこで木に寄り添いながら本を読んで休憩するのも一興じゃないか。

森の中に自分だけの空間があるのも悪くなさそうだ。

楽しくなるのと並び、段々と足並みが早くなる。


 そして…


 彼女は目の前で逆さ吊りになっていた。


 重力に逆らわない紫がかった黒くやや短めな髪。

パッチリと見開いた黄金色の瞳に、柔らかそうな唇から八重歯をチラつかせた童顔。

細く見える身体に、しなやかな筋肉の付いた手足を生やしたボーイッシュな美少女。


 だが大きな赤黒い双角と皮膜の翼を持つ彼女は明らかに人族ではない。

人族に害なす者-蛮族-その長たる種族、ドレイク(竜蛮族)だ。


 彼女は右足首を縄に捕らわれ、万歳の体勢でぶら下がっている。


 二人は目が合い、そのまま硬直した。


 (やばい)


 ハインの中に戦慄が走る。


 (ドレイクなんて、それなりの経験を積んだ冒険者でさえ単独で戦えばまず勝てる相手じゃない…!

なによりも体内に半身である『魔剣』を取り込まれてしまえば『竜化』されて本来の力を使われたら戦い以前に逃げるのだって無理だ…!)


 目の前の彼女は片足を取られ即座には動けない状況に思えるが、巨大な竜への変身は縄の一本など容易く千切り、次の瞬間には餌になってしまうだろう。


(まずは魔剣の所在を確認して最悪は避けなきゃ…!)


 目をそらせば死ぬという心持で彼女の一挙一動を見逃さずに何が最善かを考えなければ。


「お前、見てないで手を貸せ」


 こちらの緊張状態をよそに目の前の蛮族はごく自然に命令をしてくる。


(…?)


 まるで敵意はなく同胞の部下を相手に言葉を投げかけるような落ち着きを見せている。


(もしかしてボクの角を見て蛮族だと思ってる?)


 まだ確信は持てないがそうだとすれば光明はある。


「人族のつまらん罠で遊んでたら動けなくなった。武器も落として竜化できない、なんとかしろ!」


 振り子のように揺れながら彼女は頭上-ハインから見れば足元-の魔剣を指差し命令してくる。


「遊んで、た…?」

「あ、いや悪戯でゴブリンでも捕まえてやろうかと嗾けたのに間違って自分がかかったとかじゃないからな!

取り乱して暴れてその場にいたゴブリンどもが皆逃げたのわけでもない!」


 彼女がバタバタと大袈裟に手足を動かすと振り子はより大きく動く。


(天然だ。全然隠せてない。)


 うまく立ち回れば無事にこの場から逃げられるだろう。

しかし一歩間違え彼女の怒りを買えば、戦闘能力ほぼ皆無の自分に命はない。

下手な態度を取らないように慎重な駆け引きが必須だ。


「え、と…」


 先に足元の武器を取り上げておきたいと考えたが行動に時間を掛ければ危険なのは自分である。

これまで読んできた本から女性の主人に仕える従者をイメージする。


「大丈夫ですか可愛いお嬢様」


 令嬢に仕える執事を演じるかの様に手を差し出す。


「か、可愛い?!」


 両者が顔を赤く染め煙を上げる。

とりあえず相手の機嫌を取ることが狙いだったが、本の世界を真似たのは流石にわざとらしかった上に一瞬でも真剣に演じたのが恥ずかしい。


「あ、いえ!ご心配なく!すぐにお助けしますから!」


 先の恥ずかしさを紛らわすように左手をぶんぶんと顔の前で振りながら右手で腰を探り、レイピアを抜いて縄を切ろうとした。


 しかし、ふとそのまま縄を切れば落下し地面に衝突させるかもしれないと思いつく。

蛮族は感情のままに暴れると本で読んだので、このまま縄を切って怒らせるかもしれないことは得策ではないと感じた。


(危ない危ない)


 左腕を逆様の彼女の首の背後から抱え上げるように持ち上げる。

熱が引いたばかりの二人の顔が急に近付く。


「えっ?」


 彼女は一瞬何をされてるかわからず再び顔を赤く染まらせ困惑の声を上げていたが、そのまま吊るされた右足首の縄を切った。

それにより彼女は見事に足から着地し、左腕で彼女の体重を支えたままゆっくりと腰を下ろさせた。 


「あ、え、ああ」


 彼女は口をパクパクさせ何かを言いたげだが何を言っていいのかわからない様子だ。


(よし!恩は売ったからあとは自然な流れでこの場から逃げよう…)


「お前、名前を覚えてやろう」

「えっ?」


 礼が言われると思っていた口から予想外の言葉。


「褒美だ。今後、私の傍で働くことを許すぞ」

「えっ?」

上から目線のwhat_your_name

ヒロインの名前知りたい人は続きも読もう!


次回:自己紹介

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