竜人の異形と蛮族と二人
数日後
『その日はいつも通り、やっと慣れてきた道を歩いていた。
ルキスラ帝国領南部に属する城塞都市ディザ。
人々が賑わう大通りの隅を人目をはばかる様に速足で進む影があった。』
「ハイン君!」
後ろから自身を呼び止める声に一瞬ビクつく。
「あぁ…先日はどうも…すいません。」
「謝るのはこちらだ。あの日、君を疑い武器を向けてしまった。君の必死の呼び掛けがなければもっと多数の村の者が命を落としただろう。」
ぼんやりと思い出せるのは村の樽や壺を叩き割っていたことだけなので罪悪感しかない。
「い、いや…ボクは何もできてませんよ…」
「それでも君は街から冒険者の増援が来るまであの村で戦ってくれたじゃないか!」
それは気絶した彼女が冒険者たちに見つからないように隠すためで…とは言えない。
救援が村へ着いたときに彼女の持っていた魔剣を再び手元に持っていたがために自分がドレイクを迎撃し魔剣を勝ち取ったのだとすら思われている始末である。
「村の再興は難航するかもしれない。だが村のために振ってくれた君の勇気に私は感謝したい。」
「ははは…ありがとうございます…。ではちょっと先を急いでますので…また」
慣れない愛想笑いを見せる。
「ああ!呼び止めてすまなかった!仕事頑張ってくれ!」
「…失礼しますね」
あれからあの村の襲撃のことを知る人から声をかけてもらえるようになった。
それは多くはないけれど、それでも前よりこの街に来てよかったと思わせてくれた。
だが、今はそんな喜びに胸を撃たれてる場合じゃない。
また彼女の機嫌を損ねてしまうのは避けたい。
自分の後をつけるものがいないかを確認し歩みを再開する。
いつもの薬草籠の他にお気に入りの本を一冊抱えて南門を抜けいつもの森の参道へ。
あの日と同じ場所で彼女は待っていた。
「遅いぞハイン!今日は何だ?歌か?本か?」
大きな赤黒い双角と皮膜の翼を持つ彼女は明らかに人族ではない。
だが、人と同じ心を持った女の子だ。
「つまらなかったら怒るからな!」
『静かな森の少し奥で、今日もルシハと世界を共有する。』
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ハインとルシハの物語は今後も続く予定ですがひとまずここで一章を〆させていただきたいと思います。
次回は一章に登場したキャラの紹介をしたいと思いますので本編とは関係ありません。
二章に関してはすぐに書き始めるか、少し間を置くか。
一章各話に挿絵を描けたらと思ってますので、それが終わり次第かもしれません。
とにもかくにも再開の具体的な日程は未定なので続きは気長に待ってもらえたら幸いです。
再度、ここまで読んでくださった方々へ。
ありがとうございました!