竜人の異形と蛮族と門前
村の入り口にて
静かな月に見守られながら慌ただしくハインは村の前門に辿り着いた。
門前には駆けて来るハインを見て異様と感じたのか武器を構えた門番が待ち構えた。
「そこの君、止まれ!」
警戒の姿勢を見せる人間の男の前にハインは息を切らせながら立ち止まった。
「あ、あの、、ば、、族、が、、む、村に、しゅ、、撃を、」
ゼェゼェ言いながら息を整える間も待たず、ハインはここに来た目的を伝えようとした。
「…?落ち着いて喋ってくれ」
「ばん、、蛮族が、、」
門番の声は耳には聞こえているが頭には入らず、意思の伝達を焦る。
「蛮族がどうしたんだ?近くで見かけたのか?」
「村を、、襲い、に、来ます!」
なんとか言い切ると門番は驚きの表情を見せてる。
「本当か!?群れでも見かけたのか?!」
「い、いや…えと、ある人から聞き、ました」
呼吸は整ったが歯切れ悪くそう答える。嘘は言っていない。
「?…誰から聞いたんだ?」
「そ、それは…」
正直に蛮族から聞いたなどとは言えない。
「怪しいな、見たところナイトメアのようだし…」
「そっ…!」
そんなことを言ってる場合じゃない。と言いかけてやめる。
強く言ったところで世間の常識を覆すことはできない。
こんな時に偏見の目で見られたことに悔しさを感じ押し黙る。
「とにかく、君の言うことが本当か確認が必要だ。村長に掛け合って先遣隊を出すように掛け合って来る、君はひとまずここで待ってくれないか?」
それじゃ遅い。
「今夜中に蛮族達は来ます!至急!村の人達を街へ避難させてください!」
「…確信があるようだけど、私の判断だけでこんな夜中に村人を誘導するわけにはいかない。ここで待ってくれ。」
自分が喋るにつれ男の顔から猜疑心の色が濃くなるのを感じた。
門番はハインに背を向けると村の奥へと歩み出す。
(こうして待っている間にでも蛮族の襲撃は始まるかもしれないというのに…!)
ハインは自分がナイトメアであることを悔いたことはあっても恨んだのは産まれて初めてだった。
(憎い憎い憎い憎い!)
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
村中に耳を劈く高音が響き渡る。
村長の家へ向かっていた門番が慌てて音の鳴る方へ振り向くと、村の入り口で『異貌』によって青白い肌と肥大化した角を持ったナイトメアが「ノイズ(不快音)」をかき鳴らしていた。
村中の人々が脳に痺れを感じる中で、ハインの頭の中だけは妙にすっきりしていた。
彼は村人を避難させる方法に結論を出していた。
「蛮族が来る前にボクがこの村を襲う」
ハイン覚醒
次回:襲撃