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 関心と無関心~三、ユキ


 教室に入る。「おはよう」と、まばらに飛んでくる挨拶に笑顔で返す。挨拶も笑顔も、面倒で疲れる。好きでもない他人に気を遣うのは得意じゃない。


特に男子の相手はつらい。一応は笑顔で対応するけど、あまり話したくはない。反応がいちいち馬鹿みたいで、幼くて呆れてしまう。


教室にはソウタも先に来ていた。お腹の調子はどうなったのだろう? 一瞬疑問に浮かびすぐに消える。そんなに興味がなかった。


自分の席に座り、カバンを開けていると女子が一人近付いてきた。ポニーテールの髪を揺らして、丸い大きな瞳で「おはよう」と笑顔を溢れさせている。あたしと違ってちゃんと笑える可愛い子。


いつもしているポニーテールが犬の尻尾みたいに揺れている事からワンコというあだ名を付けられている。


「おはよう」とワンコに返す。ワンコの濃い笑顔が何だかおかしくて、自然とあたしも笑ってしまう。


「アヤ、今日も朝から可愛いね」


ワンコが鼻歌でも混じりそうな口調で言う。


「ワンコの方が可愛いよ」


「そう? アヤに言われたら何か興奮しちゃう」


「ワンコは朝から元気だね」


「アヤに会えたら、元気にしかならないよ」


ワンコの頭が左右に揺れる。その度に髪も揺れ動いている。犬と同じように、振り幅でワンコの機嫌が分かるようになっているのかも知れない。


「アヤ、そういえば昨日面白いテレビあってね。アヤは見た? あ、もしかしてバイトだった?」


バイト? の部分を小声で言ってくる。最近レンタルビデオ店でバイトを始めた。別に内緒にしているつもりはないが、学校ではワンコにしか言っていないから気を遣ってくれたのかも知れない。カバンからノートやペンを机の上に出しながら「昨日?」と聞き返す。


「昨日は歌番組を観てたよ」


「昨日さ、ドキュメンタリーって言うのかな。とにかく、そういうのがあってね。精神病の患者で多重人格の番組をやってたんだよ」


「……そうなんだ」


顔がひきつりそうになる。ワンコを見る。瞳にあたしが映っていた。


「でね。それ観て思ったんだけど――」


「――うん」


唾を飲み込む。ワンコの指が一本伸びた。


「私、多重人格かも」


 ワンコの指がワンコ自身をしっかり指さしていた。


「はい?」


「だってね、私も怒る時いつもと口調変わっちゃうし、独り言多いし」


「あぁ、そっか」


脱力した声で言葉を返す。


余計な心配をした自分自身に呆れてしまう。


「私、病院行った方がいいかな?」


「いや、大丈夫じゃないかな」


「そうかな?」


「うん。それくらい誰にでもある事だと思うよ」


苦笑いで答える。


だいたい多重人格は、そんな症状じゃ済まない。


多重人格は、自分の中に何人もの人がいる状態だ。


そう、例えば――。


「そっか。でも怖いよね、多重人格って。気付けば知らない男の人と寝てたり、万引きしてたりするんでしょ? 大変だよね。私だったら部屋に閉じこもっちゃう」


そうだね。と適当に相槌を打つ。


あたしが、その怖くて大変な多重人格だと言ったら、ワンコは一体どうなるんだろう。


「あ、でも一人だと寂しいから、アヤ遊びに来てね」


割と変わらないような気がして、笑顔で「はいはい」とあたしは答えた。


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