Chapter1 人間になりたがった二体の恐竜
僕の名前は角鳥 慶羅。四月一日、今日から普通の男子高校生として、僕を人間に変えてくれた古生物学者・白亜 竜山博士の御宅にホームステイさせてもらうことになったんだ。まあ学校が始まるのは六日後からなんだけど。
え? 僕は元々何の生き物か知りたいって?
なら教えてあげよう。
僕は元は誰もが知っている有名な角竜、トリケラトプスだったんだ。
一般的には僕ら恐竜は今から約6600万年前に隕石衝突やら寒冷化やらで絶滅したって言われているけど、実はこの時一部の恐竜たち(つまり僕らの先祖たち)は地下にある謎の異空間に逃げ込んでいて、以降現在に至るまで僕たち恐竜はこの地下世界でひっそりと生き延びていたんだ。風の便りによると、この約6600万年もの間に地上の世界は僕ら恐竜の時代とは比べ物にならないほど多様に変化していき、遂には人間という恐ろしい生き物が地上の支配者になったらしい。
だけどある日、そんな恐ろしい生き物である人間が一人この地下世界に迷い込んだ。僕は最初こいつがこの世界を侵略しに来たんじゃないのかと思い、突進で吹っ飛ばしてやろうかと思った。
しかしこの人間は何故か恐竜である僕の考えがわかるようで、そんなこともあってか結局、紆余曲折を経て、僕はすぐにこの白亜 竜山と名乗る人間と打ち解けた。
そして僕は遂にある悩みを彼に打ち明けた。
「僕はもう毎日ティラノサウルスに追われる生活に疲れました。このままじゃいつ食われる事やら…。お願いです。僕を人間にしてください。」と彼に相談した。
その願いを聞いた彼は、快くこれを承諾してくれた。
実は彼もこの地下世界が他の人間たちに知られることを恐れているらしく、この世界を公に隠し通せる保証はないからいっそのことこの世界の恐竜たちをみんな人間に転生させ、人間世界で新たな生活を送らせようと考えていたらしい。
ただ最初のうちは抵抗も多く、しばらくはとりあえず僕みたいに人間になりたいという恐竜のみを人間界へ送ることになった。
つまり僕が一番最初の、人間になった恐竜というわけだ。
最初は正直あっさり人間になることができるのか、博士の発明である恐竜を人間に変える機械がうまく作動するのかが不安だったけれど、その辺は特に問題なく僕は人間に生まれ変わることができ、気が付けば博士の家の玄関前に立っていた。
ちなみに人間世界で生きていくために必要らしい服という布切れは博士が僕を人間に変える装置に僕が着る服を入れてくれたらしく、気付けば僕は体に服という布切れを纏っていた。
こうして僕は人間の体と博士と連絡を取るためのスマートフォンという板のような機械、人間で言うところの義務教育卒業程度の知識、人間世界で生きていくためのマニュアル、そして『角鳥 慶羅』という名前を博士から授かった。
博士の家の玄関に到着してすぐにかかってきた電話によると、博士はまだ地下世界でやることが残っているから地下世界に残る、そして僕のホームステイ生活の面倒は博士の家に居候している助手のダイナ・ジュラリスさんが見てくれるとのことだった。
嗚呼、これで僕はやっと念願だった生活の安全と三食昼寝付きの素晴らしい住居を手に入れることができたんだ。
もうティラノサウルスに食われそうになったり追いかけられたりすることはなくなるし、アイツが怖くておちおち夜も眠れないなんてことはなくなるんだ。
そう思うと、僕はなんだか人間として新しい生活を営んでいくことに大きな期待感を持つことができた。
嗚呼、これからの生活が楽しみだ。よし、頑張っていくぞ!
そう思って僕は希望を胸に博士の家の玄関をくぐったのだった。
しかし博士の家に下宿することになった今日この日、いきなり僕の幻想はあっさりと崩れ去ることになるとは…。
「お願いだ白亜博士。オレを人間に変えてくれないか?」
慶羅が人間としての生活を始めた直後、一頭のメスのティラノサウルスが白亜博士の前に現れ、突如人間になりたいと頼んできた。
「恐竜世界の女帝ともあろう貴女が何故人間になりたいのですか?」
と博士は怪訝そうな顔で尋ねた。
「オレは今までトリケラトプスを食うために何度もアイツを追い続けたんだ。そしたら何故だろう。なんだかトリケラトプスを食べたいのと同時にアイツと仲良くなりたいという気持ちも湧いてきたんだ。それに博士の話だとトリケラトプスはもう既に人間世界へと旅立ってしまったらしいじゃねえか。だからオレも人間に転生してアイツと仲良くなりたいんだ!」
とティラノサウルスが答えると、
「はあ、そういうことなら仕方ありませんね。では貴女をお望みどおり人間にしてあげましょう。でも貴女はトリケラ…いえ慶羅君のことを餌として見ないでくださいね。彼が怖がってしまいますので。」
博士は彼女の要求を飲むことにしたのだった。
「本当か!? ありがとう博士、恩に着るぜ!」
「それでは、早速この装置に乗ってじっとしてください。気がつけば貴女は人間の姿で私の家の玄関前にいる筈ですよ、『竜帝 羅乃』さん。」
そう言って博士は自分が開発した機械で、ティラノサウルスを人間へと転生させたのであった。
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