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ダメ男、アメリカに行く(後編)  作者: 江川崎たろ
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第十三話 「ダメ男、vsキング」

リナと別れた平良は、徐々に、徐々に、緊張が高まっている事に気付いていた。何を隠そう、今日がキングの最終レッスン。いや、最終決戦だ。


ここまで、二回のレッスンは、言葉の壁を言い訳に、自分がサボっていただけなのではないだろうか。キングも、こちらがガツガツとしてこないから、あんなにサラッとしたレッスンにしか、出来なかったのではないだろうか。言葉の壁は、キングだって感じていたはずだ。


日本から来たお客様だ、きっと失礼のないレッスンにするだろう。ともあれば、自分が変わらなければきっとキングは変わらない。そして何よりも、ロサンゼルスという、異国の地で頑張る自分に、この過酷な状況を乗り越えた自分に、酔いしれていただけなのではないだろうか。こんなにも恥ずかしい事はない。


これは、日本で協力をしてくれた皆への侮辱だ。皆は、自分にロサンゼルスを楽しんでもらう為に、協力してくれたんじゃない。


一時間というレッスン時間は短い。昨日決断した、キングの分析を効率よく行うには、どうしたらいいのだろうか。そんな限られた時間の中で、どうすればいい。今思い付くのは……うん。これしかない。


平良は、スマートホンをいじくり倒した。質問したい事を英訳して、その画面を、スクリーンショットで保存しておくのだ。まず、最初にしたい質問は……これだ。


『キングは、日本人の声の出し方と、アメリカ人の声の出し方の違いは解りますか?』


平良がいつも考えていた事だ。何故、これを最初にやらなかったのだろう。発狂してしまいたい程に悔しいが、チャンスがなくなったわけではない。まだ遅くないのだ。


平良は、ホテルを出てロングビーチへと向かった。3回目ともなると、さすがにバスの流れも掴めてきた。この、やっと出来た余裕を使用して、平良はひたすらに、質問を英訳しいった。そして、10個の質問が画像として保存された頃、最終決戦の地、ロングビーチへと到着した。


平良は、闘志を燃やした。ロサンゼルスに到着してからというもの、確かに日々戦ってきた。しかし、あれは、英語の喋れない一日本人の戦いだった。平良一徳の戦いではなかったのだ。


今、日本から来た、たった一人のサムライが、長く真っ直ぐな道を歩いていく。赤い炎にも見える、力強いオーラを纏いながら。


そして、キングの自宅に到着。インターフォンを押した平良は、じっとドア越しにキングを睨みつけている。「Hello Taira!!」キングは、いつも通りの出迎えだが、こちらは昨日までとは違う。


これは決闘だ。さぁ、あなたのプロ魂を見せてくれ。


平良は「ハーイ!」と挨拶をすると、すかさずスマートホンをキングの目の前に差し出した。「プリーズ、ルッキン」正しいか解らないものの、口から英語が勝手に飛び出したのだ。もちろん、スマートホンの画面には、先程の質問が表示されている。


『キングは、日本人の声の出し方と、アメリカ人の声の出し方の違いは解りますか?』


キングは、どうやら戸惑っている。険しい表情で顎髭を触りながら、小声で「Oh…」と、言っている。すると、ちょっと待っててくれと言ったのだろう。身ぶり手振りからそれを汲み取った。


そして、玄関で待つ平良は、全神経を聴覚に集中させた。何やらキングが誰かと話している。電話か?それとも誰かいるのか?「OK!Taira Come on!」呼ばれた。急いでレッスン場所に向かう。


すると、こっちに来いとキングに指示をされ、平良は指示通りの場所に座った。そして、ここを見ろと指示をされ、キングの指先に視線を向けた。平良の視線の先にあるのは、パソコンのカメラだ。


平良の鼓動は、驚きと共に高鳴った。なんとパソコンの画面には、日本人と思わしき50代くらいの男性が映っていたのだ。スカイプだ。


「こんにちはー、平良くん。キングから聞きましたよー」いまいち状況が掴めない平良は、キングの顔に目を向けた。すると、応えたのはキングではなく、パソコンだった。


「私は、キングの友人で、日本人です。レコーディングエンジニアをしている杉崎と申します。キングに通訳を頼まれました」もう一度振り向くと、キングはニッコリ微笑み、そして英語で何やら話し始めた。そして、キングの言葉を聞き、杉崎が通訳を始める。


「えー、まず、仕事上、日本で流行っている音楽を聴く事もあります。日本人の男性は、蚊のように細い声を出す。私は、あの声が嫌いです。しかし、平良は、非常にパワフルな声を出すので驚いた。いい声だよ。しかし、やはり、日本人らしい声でもある。


それで、平良からの質問は、アメリカ人と日本人の声の出し方の違いについてだったよね。申し訳ないが、違いを検証したことはない。だが、日本人の声の印象は、響きがなく、喉で声を出している印象だ。この様に」キングは「あーあーあー」と、いかにも喉が痛くなりそうな、こもった声を出した。


平良は質問をした。「それは、話している時もそうですか?実は、自分が思っているのは、日本人は喋り声が、もう既に、喉へ大きな負担を掛かけているのです」キングは答えた。「えー、日本人の喋り声というのは、とても重たく、聞き取りづらい。ボソボソと、何を話しているのか解らない事があるんだよ」


「改善方法はありますか?」と、平良は質問した。「えー、今のところ、それは考えた事もない。ただやはり、あの蚊の様な声は呼吸に問題があるだろうね」「なるほど」平良は自分の仮説を証明出来るかもしれない、手掛かりをしっかりと掴んだ。


それは、「今のところ、それは考えた事もない」という部分だ。


平良はまた質問した。「日本人の歌声で、他に気になる事はありますか?」「えー、さっき蚊の様に細い声と言ったけど、小さい声ではなく、うるさい印象です。耳にまとわりつく様な」「ギーギーギーギー」と、キングは奇声を発した。


平良は、もう十分な程に、貴重な情報を手に入れた。他に何か質問はないかと考える平良だが、時間を気にするあまり、さすがに焦りが生じた。頭が正常に回らない。それもそのはず、キングのレッスンはきっちりしていて、60分後には外に出されるからだ。


インターフォンを押したのがほぼ13時丁度。となると、後10分もない。その時、平良は思い出した。「そうだ、すみません!僕は日本で歌を教えています!ブログもやってます!キングの事を紹介してもいいですか?もしよければ、カメラを持ってきているので、写真を一緒に撮ってください!」


キングは「of course」と答えた。そして、杉崎さんには待って頂くようにお願いをして、キングと2ショット写真を数枚撮影した。笑顔の写真を2枚と、牙を剥き出すような、ワイルドな顔の写真が1枚だ。二人で同じ表情を作った。


そして、一時間がもう間もなく経とうとしている時、キングが杉崎さんに話し掛けた。そしてすぐにこちらを向き、今度は平良に話し掛けてきたのだ。


「えー、私は日本にも、スクールを作ろうか本格的に考える事にする。それは、3日前のレッスンを終えた時からの考えだ。もし、日本でやる事になったら、平良は講師をやってくれますか?」平良は勢いよく「はいっ!」と答えた。


そして握手を交わし、ハグをして、そしてお別れの時間だ。杉崎さんにもお礼を言いたかったが、もう通話は終了してしまっていた。平良は最後に何を言おうか迷ったが、選んだのはこれだ。


「あいらーびゅーキング!!バイバイ!」


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