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らせんのきおく  作者: よへち
静編
84/205

第084話 『物好きなお人好し』



「じゃあ上の部屋、どれも使ってないので好きな部屋使ってください」


カノンを上の部屋へ案内した結弦は夕食の準備をする。今夜の献立は…謎の肉だ。

結弦が食材とにらめっこをしていると小綺麗な格好に着替えたカノンが降りてきた。


「夕食ね。じゃあボクは外で食べてこようかな」


結弦は手元の食材を見る。自分の分しか買ってないが、調理法によっては2人分にも出来そうだ。


「カノンさん、料理は出来ますか?これを調理して2人分に出来ればと思うのですが」


と謎の肉を見せる。


「あ、それは『モールボア』の肉だね。筋が硬いから煮込み料理がいいと思うんだけど…」


カノンは他の食材と保存庫の中を見て


「ユヅル、キミは1人で暮らしているんだよね?じゃあこの香草や香辛料はキミが揃えたんだ。すごいね!」


と褒められたものの、なんて事はない。最初に適当に買ってきた肉を適当に焼いたら、凄く臭かったのだ。その後の試行錯誤の結果がその調味料類だ。香草にしても香辛料にしても名前も知らないし見た事ない物ばかりだ。


「そうだ!部屋貸してもらうんだしボクに作らせてよ。この辺の食材はある程度使っちゃってもいいんだよね?」


そう言うとカノンは結弦に代わってキッチンに立ち、テキパキと下ごしらえから始める。

手の空いた結弦だが、かと言って別にする事もない。なので


「カノンさん、『楽器』持ってましたよね。触ってもいいですか?」


見たことあるような無いような、『C』の形の中に弦を何本も張った小さな楽器をカノンはバックパックに結わいつけてあった。


「いいよー。ボク二階に上がってすぐの部屋借りたから勝手に持ってってー」


カノンの楽器を手に取る結弦。見た目より軽い。中空構造になっていてそれが音響部になっているようだ。

手で持つ部分にレバーがあり、これを握るとブリッヂが半回転し、半音くらい上がる仕組みのようだ。

結弦は試しに端から一本ずつ音を鳴らしてみる。


「…え?」


音がバラバラだ。順番にもなっていないし音階などもない。それをあまり気にしないカリンバのような楽器…とも思えないのだが。

弦それぞれの音を覚えて順番に鳴らせば旋律も作れなくもない、だがこれはなかなかに大変だ。

結弦がその楽器に四苦八苦していると


「できたよー!」


キッチンで鍋を掲げるカノン。

カノンが自信作だと言ったその料理は『モールボアの根菜煮込み』だった。


「あんまり長く煮込むとモールボアの肉は硬くなっちゃうからね。この根っこは肉と一緒に煮込むと臭みを消してくれるんだ」


思いの外、キチンとした料理が出てきた。結弦の作った料理といえばハーブ塩焼きか野菜炒めくらいだ。さすがは旅から旅に暮らす吟遊詩人、食材のクセも良く知っている。


「どう、ボクの楽器。『ハープ』っていうんだ。面白そうでしょ?父さんから受け継いだんだ。後で披露するからとりあえず晩ご飯食べようよ」


食事を摂りながら互いにもう少し自己紹介をする。

彼女は、カノンは物心ついた頃から吟遊詩人の父と2人で旅の生活をしていたそうだ。

だがその父ももう若くなく旅の生活も辛くなり、辿り着いた村で定住を決めたという。

カノンも一時期は父と共に暮らしていたのだが、歌と物語を集める旅への想いが抑えきれず、父から『歌』と『ハープ』を受け継ぎ、旅に出ることにした。


「あの人の歌、女の人を魅了する何かがあったみたいなんだ。だから娘のボクがそばにいるのはある意味『お邪魔虫』だったのかもね」


少し寂しげに笑うカノン。


「そんな事ないですよ。我が子を邪魔に思う父親なんて絶対にいないと思います」


と、結弦は自分に言い聞かせるように言う。


「ありがと。そうだといいね。じゃあ一曲歌おうかな」


と言い、ハープを手に取るカノン。そしてかなで歌い出す。それは物悲しい旋律に乗せられた1人の男の物語。

かつて『英雄』と呼ばれ、誰からも愛された男。

しかし彼の本当の姿を知り、それを愛した者はいない。臆病で弱かった『英雄』の孤独に果てた物語。


…凄い!結弦は素直に感動した。あんな調律も取れていない楽器で奏でられたとは思えない美しい旋律もさることながら、歌唱力と表現力に鳥肌が立つ、しびれる歌声とはこの事だ。歌を生業としているというのも伊達ではないようだ。


「どう?これがボクの一番得意な『歌』だよ。でもね、これは父さんから習った『歌』なんだ。吟遊詩人を名乗るんだったら『ボクの歌』を持たなきゃダメなんだよね」


と溜め息をつくカノン。曰く、作曲は得意ではないらしい。だから旅をしながら旋律や物語を集めているのだという。


「そうですか…じゃあさっき僕が歌った歌よりこんな歌の方がヒントになりますか」


参考になればですけどね、と結弦が歌い出した歌は、彼なりに物語サーガを乗せて歌ったら合うんじゃないかと思った歌、『帰れソレントへ』


「なにそれ!凄い凄い!それ誰の歌?ユヅルの歌じゃないんだよね!?誰のでもないのだったらそれボクにくれない?」


ちょっと前までの結弦だったら『はい、どうぞ』と言っていただろうが、さっき話を聞いてしまった身としては


「ダメですよ。それじゃあ『カノンの歌』になりません。お父さんも認めてくれませんよ」


「え〜。そんなの言わなきゃバレないよ」


とカノンは言っているが、笑っているところを見ると本人もわかっているようだ。

『歌』とは感情だ。少しでもやましいことがあるならばそれは必ず歌に出る。結弦や普通の人のような素人が相手ならば誤魔化せようとも、吟遊詩人である父には通用しまい。


「これも何かの縁です。あなたがこの街にいる間は『カノンの歌』探し、微力ながらお手伝いしますよ 」


---


翌朝。いつも通り目を覚ました結弦は、いつも通り教会へとおもむく。

家を出る時、カノンはまだ二階で寝ているようだった。戸締りやら考えなくもなかったが、はっきり言って盗られて困るものは何もない。

夕方に帰宅したらカノンと共に家財道具一式が消えていたら、とも考えた結弦だったが、そこはいつも母に言われていた言葉を思い出す。


『結弦。人を信じるのならその人に騙された時のことを考えて、それでもいい思いなさい』


若い結弦には理解できない言葉だった。反論しようとする結弦に母の言葉はまだ続いた。


『私は人が善だなんて思わないわよ。平気で嘘をつくし裏切るし、心変わりもすれば陰口も叩く生き物なの。でもね、そんなのも含めて人を受け入れられる『器の大きな人』でありなさい。少なくとも祐樹は、あなたの父親は器の大きな人だったわよ。こんな編み棒より竹刀が似合う男女おとこおんなと結婚するくらいだからね』


そう笑っていた。



「父さん、それは器が大きいんじゃなくて『物好きなお人好し』って言うんじゃないかなぁ…」



結弦は、眠り続ける父にそう語りかけた。






まあ祐樹が起きていたら『おまえもな』って言ってたでしょうね。似た者親子なんですよ、彼ら。








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