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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第008話 『森の定休日』


朝。

顔にあたる陽の光で祐樹は目を覚ます。

草と土の匂いがここが非日常の続きであることを思い知らせた。寝入り前に家族のことを思い出したこともあり朝から祐樹のテンションは低めだ。


「早いな。ユーキ」


「ああ、おはよう。エイ」


「なんじゃ、気分が優れぬのか」


「ああ、いや大丈夫だ。気にしないでくれ」


祐樹はわきまえている。エイは頼まれて護衛してくれているがこぼしていい相手じゃない。手早く準備して立ち上がる。


「よし。行こうか」


今日も森を歩き出す二人。

と、祐樹は昨日と森の様子が違う事に気が付く。

鳥の鳴き声が全く聞こえない。

虫の声すらしない。

時折、風に揺られた木々が葉を擦らす音が聞こえるだけだ。

祐樹はエイの言っていた『月陰』という言葉の意味を知った。なるほど、森からは全く生き物の気配はしない。

『死の森』という言葉が一番相応しそうだが死亡フラグの匂いがするので祐樹は『森の定休日』と呼ぶことにした。


「どうじゃ。身体に何か不調はあるか?」


祐樹は軽くピョンピョンと跳んでみる。


「いや、全く」


ただひたすら歩くエイ、そして祐樹。

何も出ない森というのは安全で良いのだが祐樹にはその退屈が苦痛だった。

前を行くエイは黙々と歩いているが、営業職だった祐樹にとって誰かといる時の沈黙ほど息苦しいものはない。むしろ獣の出る緊張感のほうが居心地がいいくらいだ。


「なあエイ。もし昨日俺があの石室に残るって言ったらどうするつもりだったんだ?」


沈黙に負けて出た言葉は昨夜の疑問だった。


「無論、拉致じゃ。儂は護衛して連れて来るよう頼まれておったからな」


「なんだよそりゃ。じゃあ俺には最初から選択肢はなかったのか」


「失敬な。ちゃんと『ハイ』と『YES』の二つを用意しておったぞ」


「どっちも一緒じゃねーか!」


はははは、と笑いながら歩くエイ。

そして祐樹は気になっていたもう一つの事をエイに聞く。『あのお方』とやらの事だ。これから行く街にいるのだろうか。


「いや、今から行く街は『ナワ』というんじゃが、そこではない。あのお方が今おられるのは『カブール』という街じゃ」


「それはそのナワの街から近いのか?」


「遠いな。とりあえず船で海を渡るぞ」


「マジかよ…」


ちょっと楽観視していた事を後悔する祐樹だが、まあ前に進むほかに道はない。

だがもし途中の街で前に進む事を諦め『もういい、ここに住む』とか言い出したらエイはどうするのだろう。家族がいない以上、祐樹にはそのつもりもないのだが。


「うむ。その場合はユーキの自由にさせてやってくれ、との約束なんじゃが儂個人としても『あのお方』に会わせたいのじゃ。やはり拉致じゃな」


「なんだよ、結局選択肢はないんじゃないか」


と笑う祐樹。


---


そして訪れる月陰の夜。

墨を流したような漆黒の夜、とはこの事か。

目覚めた夜と昨夜はあの巨大な月があったから不自由ない明るさがあった。

しかし今夜、月のない夜。まさに真っ暗闇だ。

目が慣れると前を行くエイの影が見えなくもないのだが、暗くて歩きにくい祐樹はここらで野営することを提案する。

エイが火をつけて祐樹が焚き火を起こし、昨日作った干し肉を炙ってかじる。

相変わらずの野趣溢れる匂いの肉だったが、昨夜より美味しく感じるのは祐樹が生きる事に少し前向きになったからだろうか。



もしくは干されてアミノ酸が増えたか。



こうして『森の定休日』は終了した。







一度は『再びの死』を求め覚悟した祐樹。

ですが何だかんだで前へと進む事となり、生きる意欲も湧いてきたようです。


そもそもあなたは生きる為にすでにイノシシを一頭殺しています。その責を全うする為にも生き続けなければならないんですよ、祐樹。





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