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らせんのきおく  作者: よへち
静編
73/205

第073話 『101回目の…』



迷宮を作り始めてから3度の月陰を挟んだ月出の日、遂に迷宮は完成した。


「ご苦労様、ゲオ。迷路とギミックは粗方覚えたわね?迷宮挑戦の制限時間は…そうね、日の出から日没までにしましょうか、それまでに戻らない人がいたらあなたが迎えにいくのよ」


「ああ、大丈夫だ。任せてくれ」


一応、迷ったら上り階段のほうへ誘導されるような作りにはしてある、遭難して死亡というのはないだろう。

ゲオには管理用のバックドア通路バックヤードのカギを持たせてある。これで死人が出たらそれはもう本人の責任だ。


「今日、すべての教会で発布されたから早ければ明日にでも挑戦者が現れるかもね」


遠くの街道を眺める静。


「で、俺たちはどうするんだ?来た連中から入場料でも取るのか?」


「そんなの取らないわよ。それにあなた達がどうするかも、それは私が決める事じゃないわ」


そう言うと静は廃墟だった集落に目を移す。

扉も窓もない家がほとんどだが、ゴミや廃材が無くなっただけで随分とスッキリした。


「これからこの集落には多勢の人が訪れる事になると思うの。そしてそれを目当てに商売をしに来る商人も。迷宮挑戦者の滞在場所としての宿屋を営む人も現れるかもね。人が動けば物が動く、物が動けば物流が発生する。そうなればその流れに乗って食料も入って来るだろうし、産業も生まれるかもしれない」


そこまで言って静は手元の『迷宮踏破者の証』である木の板をゲオに渡す。


「コレ、そのままあなたが教会に持って行ってもキチンと計1000万d貰えるわよ。そう決断しても私は責めない。それも含めてこれからどうするかあなた達で考えなさい」


渡された木の板を眺めるゲオ。1000万dといえばこの集団が当面遊んで暮らせる金額だ。


「…なあ、シズの姐さん。なんで俺を信用できるんだ?」


ゲオのその言葉に静は笑う。


「あははっ!『信用』ね。はっきり言ってあなた個人の事は信用してないわよ。でもね、あなたの仲間を思う気持ちと、その聡い考え方を信用するの。あなたはいつだって仲間のことを考えてたんでしょ?」


ゲオは手を上げて降参のポーズを取る。


「あっはっはっ、俺は最初から姐さんのてのひらの上だったんだな。まいったな、降参だ」


「うふふ。私ね、こう見えて人を見る目があるって自覚してるのよ」


静そう言うと、遠くイミグラの方角を眺め


「なんせ最高の旦那おとこを捕まえたんだからね」


と、優しく微笑んだ。


---


その夜、迷宮完成の祝い的な酒宴を開くことになった。


結月は連日の滞在で仲良くなった同世代の獣人の女の子達と何やら楽しそうに話している。

やはり初日の乱戦での結月の無双っぷりが凄かったようで、彼女らに頼まれて時間を見つけては剣を合わせていた。

そんな彼女らも剣を置けば『ただの女の子』だ。キョロキョロ誰かを探しながら喋っているところを見ると、恋バナでもしているのだろう。


そんな景色を遠巻きに眺めながら強い酒をチビチビ舐める静。と、彼女に近づく1人の人影。


「シズの姐さん、こんなところにいたのか」


ゲオだ。盃を出し、静と乾杯を交わす。


「いいわね。みんないい子ね。あの時だれも死ななくて良かったわ」


そして静はまたチビっと酒を舐める。


「ははっ、『いい子』な。姐さんにかかりゃ『獣人の野盗団』も形無しだな」


と笑い、ゲオも酒を呑む。


「みんないい『子』よ。母親から産まれてない人なんて…いないんだから」


静は伏し目がちに自分の言葉を反芻はんすうする。クローンとして蘇ることを、祐樹と再会することを願ったのは他ならぬ自分だ。後悔なんてあるはずもない。


「…姐さん、どうしたんだ?」


「いや、何でもないわ。考え事よ」


そう言うと静は酒宴の輪にいる結月に目を移す。


「それよりゲオ、あなた気づいてるんでしょ?結月の視線。あの、父親と生き別れたせいかちょっとファザコン気味なの。あなたにその気がないのはわかってるから、あの娘が深入りする前にハッキリさせてあげてね」


静は酔いのない目でゲオを見る。


「そうか、そうだよなぁ。その通りだな」


そう言うとゲオは頭をかきながら酒宴の輪に戻っていった。


---


「なんだいゲオ。呑んでないのかい?えらく真剣な顔してさ」


アリエルの元へ来たゲオ。そして辺りを見回すと大声で宣言する。


「皆、聞けっ!俺は今からもう一度ユヅキに挑戦する!そして勝ってボスの座を取り戻したら」


そこで息を吸い、アリエルを見て言う。


「アリエル、俺と結婚してくれ」


「「「おおお〜!!」」」


周囲から寄せられる拍手と喝采。


「げ、ゲオ、こんなトコで何言ってんだよぉ。それにあたいにゃ子供たちが…」


とゲオはかがみ、アリエルの子供たちに視線を合わせる。


「なあ、俺がパパじゃ嫌か?」


「えっ!?ゲオおっちゃんパパになってくれんの!?」


子供たちは大歓迎の様子だ。


「子供たちはいいってよ。お前はどうなんだ、アリエル」


まだアリエルは迷っている様子だ。


「ゲオ、あんた自分で『俺は流れ者だ』っていってたじゃないか…」


アリエルはゲオがいつかフラリと消えてしまうのではないかと不安なのだ。それもあってアリエルからはゲオに一歩踏め込めないでいたのだ。


「そうだ。俺は流れ者だ。何もない俺は何かを探して旅してたんだよ。それをここで見つけたんだ。もう旅立つ必要もない」


そう言い、辺りを見回す。ゲオの見つけた大切なモノ。流れ者の自分を受け入れてくれた仲間達、自分の居場所、新たな生きがい、そしてアリエルとその子供たち。


「バカだよあんた…なんでこんな子持ちの年増を選んじまうんだよぉ…」


「アリエルがアリエルである以上の理由が必要か?」


もはやアリエルには否定する言葉は見つからなかった。泣き崩れるアリエル。だが大事なことを忘れてることに気づく。


「…でもさ、ゲオ。あんたユヅキの姐さんに勝てんのかい?」


考える様子を見せるゲオ。


「う〜ん、五分五分だな。もし負けたら…そうだなアリエル、お前と養子縁組するからお前の息子にしてくれ」


酒宴の輪は笑いに包まれた。



ただ1人、結月を除いて。






私個人としてはゲオがアリエルの養子になる未来も見てたいのですが。さあどうしましょう。

その場合、結月は当分ここでボスとして暮らしてもらう事になります。それも悪くないですね。友達もいるみたいだし。




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