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らせんのきおく  作者: よへち
静編
71/205

第071話 『いつまでたっても子供は子供』



翌、『月陰』の日。

静は何やら書き物に没頭している。


「退屈ねぇ…。永遠トワ、散歩でもしよっか?」


結月は永遠と連れだって廃墟の街をうろつく。

獣人達の気配も感じない、まさに廃墟そのものだ。

だだっ広い平野へいやにポツンとある廃墟の集落・カブール。

いろんな人がここに住み、十人十色の夢を見た、その夢の残滓。

母がここで何を企画しているのかは結月も知らされてはいない。だがあの人のことだ、おそらく上手く行くのだろう。


小広い広場まできた結月と永遠。アリエルに騙されてゲオ達の待ち伏せを受け、そして決闘をしたその場所だ。

結月はその真ん中に立つと目をつむり、先日のゲオとの一戦を反芻はんすうする。

ギリギリでかわす曲刀。背後からの攻撃を勘だけを頼りに避ける。

ゲオが達人であるがゆえに引っかかった結月の罠だ。

それはある意味ひとつのゲオに対する『信頼』なのかもしれない、武人としての。


「楽しかったなぁ…」


と結月は永遠を見る。


「永遠、あなた外見は好きに変えられるのよね?動きとかもコピー出来たりするの?」


「はい。一度目視でスキャンした人物に模することは可能です。動きも一度見たものであればコピー可能です」


「じゃあゲオになれる?」


「かしこまりました」


永遠はそう言うとその姿をゲオに変える。

狼の頭に隻眼の目、眼光鋭く結月を見るとニヤリと笑う


「こんなもんでどうだ?ユヅキの姐さん」


口調までもがガラッと変わり、驚く結月。


「あ、あんた永遠よね?」


「ああそうだ。一応、内面までコピーしてんだよ。けどな、持ってる記憶やデータは『永遠』のまんまだぜ」


これは…言われなければ彼が『永遠』だとは気づかないレベルだ。

そして完全にコピーされたその姿には、腰の曲刀も付いている。動きもコピーできると永遠は言っていた。結月は思わず生唾をのむ。


「永遠、少し手合わせしない?」


そう言い、結月は永遠と距離を取って抜剣する。


「ああ。今度は負けないぜ」


そう言って舌なめずりをし、曲刀を抜くと背中を丸めて空いた手を前に出し、低い姿勢で構える永遠。いや、もはやその姿はゲオそのものだ。


今度は結月が先手を取る。暗示を解いた全力疾走で距離を詰め


「はぁっ!」


気合いの一閃!横薙ぎになぐ。遠慮のカケラもない。


結月は静に聞いていたのだ、『永遠は死なない』と。

体内にあるコアが破壊されたらその限りではないらしいのだが、この地球上にそれを可能とする物質はほぼ存在しないらしい。

現状、今の結月が何をしたところで永遠はどうにもならない。遠慮は不要なのだ。


だが全力で薙いだ結月の剣は空を切る。永遠が消えた!?

と頭部天頂あたりにイヤな気配を感じ、とっさに手をクロスさせガードする。

と全身に響く衝撃!跳んで剣をかわした永遠にそのまま踵落かかとおとしを見舞われたのだ。

ガードしたとはいえ視界に星が散る。すかさず距離を取り、仕切り直そうと試みる結月だがそれを永遠は許さない。地を這うようなダッシュで距離を詰めてくる。


来る!あの斬り上げる剣撃!


結月はそれに備える。が、永遠は結月の目の前まで来ると、また消えた!?


上だっ!

永遠は結月の上を逆立ち姿勢で飛び越していく。ご丁寧に曲刀で一撃を加えながら。


「うぐっ!?」


肩口に走る鈍い痛み。だがまだだ!

着地する永遠めがけて突きの連撃を浴びせる。が、永遠は3連続バック転とバックステップで距離を取る。


「…あんた、本当に『永遠』?」


結月がそう言ってしまうくらい、永遠の動きは見事なものだった。


「ああ、本物の『ゲオ』には遠く及ばないけどな」


永遠はそう言うと曲刀をベロンと舐める。なかなかに芸が細かい。

結月は斬られた肩口に気をやる。流血はしていない。どうやら永遠は曲刀に刃は付けなかったらしい。

だからと言ってあんなモノを叩きつけられたら無傷では済まない。現に一撃を受けた左肩はけっこうな痛さだ。


…ヤバい、楽しい。


剣道の試合では感じられなかった、この肌のひりつくような緊張感。曲刀に刃がないことを知って少々緊張感は欠けたものの、それでもこの感覚はたまらない。


再び構え、睨み合う結月と永遠。

と、そこに水を差される。


「あんた達、なにやってんのよ」


静だ。手には何枚かの紙を持っている。


「永遠もなんて格好してんの、ちょっと元に戻ってくれない?」


そう言われた永遠は、結月に一礼すると元の姿に戻る。


「永遠、ちょっとコレ見てくれない?『立体迷路』の構成図なんだけど」


永遠は静から図面を受け取ると、次々と目を通していく。


「静様、この構成図ですと、この通路とこの通路は繋げません、この階段に交差します。ですのでこのギミックをこちらへ移動して…」


図面を覗き込み、話し込む2人。


「永遠、あなたやっぱり賢い!ちょっと小屋へ戻りましょう。一緒に考えてよ」


静は永遠を引っ張って小屋へ戻って行く。

と、思い出したかのように静は振り返り


「結月〜!暗くなる前に帰って来なさ〜い!」


遠くから手を振り大声で叫ぶ。



「言われなくったって帰るわよ。もう子供じゃないんだから…」



そんな結月のボヤきは、夕暮れ時の廃墟の街にとけて消えていった。






ゲオ。結月とは先に一度、後でもう一度戦う事になるのですが、本気を出しているようでまだ本気ではありません。

と言いますかゲオが本当の本気を出すと結月は負ける、を通り越して死んじゃいます。

獣人の武器は剣だけではないですもんね。

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