第071話 『いつまでたっても子供は子供』
翌、『月陰』の日。
静は何やら書き物に没頭している。
「退屈ねぇ…。永遠、散歩でもしよっか?」
結月は永遠と連れだって廃墟の街をうろつく。
獣人達の気配も感じない、まさに廃墟そのものだ。
だだっ広い平野にポツンとある廃墟の集落・カブール。
いろんな人がここに住み、十人十色の夢を見た、その夢の残滓。
母がここで何を企画しているのかは結月も知らされてはいない。だがあの人のことだ、おそらく上手く行くのだろう。
小広い広場まできた結月と永遠。アリエルに騙されてゲオ達の待ち伏せを受け、そして決闘をしたその場所だ。
結月はその真ん中に立つと目を瞑り、先日のゲオとの一戦を反芻する。
ギリギリで躱す曲刀。背後からの攻撃を勘だけを頼りに避ける。
ゲオが達人であるが故に引っかかった結月の罠だ。
それはある意味ひとつのゲオに対する『信頼』なのかもしれない、武人としての。
「楽しかったなぁ…」
と結月は永遠を見る。
「永遠、あなた外見は好きに変えられるのよね?動きとかもコピー出来たりするの?」
「はい。一度目視でスキャンした人物に模することは可能です。動きも一度見たものであればコピー可能です」
「じゃあゲオになれる?」
「かしこまりました」
永遠はそう言うとその姿をゲオに変える。
狼の頭に隻眼の目、眼光鋭く結月を見るとニヤリと笑う
「こんなもんでどうだ?ユヅキの姐さん」
口調までもがガラッと変わり、驚く結月。
「あ、あんた永遠よね?」
「ああそうだ。一応、内面までコピーしてんだよ。けどな、持ってる記憶やデータは『永遠』のまんまだぜ」
これは…言われなければ彼が『永遠』だとは気づかないレベルだ。
そして完全にコピーされたその姿には、腰の曲刀も付いている。動きもコピーできると永遠は言っていた。結月は思わず生唾をのむ。
「永遠、少し手合わせしない?」
そう言い、結月は永遠と距離を取って抜剣する。
「ああ。今度は負けないぜ」
そう言って舌なめずりをし、曲刀を抜くと背中を丸めて空いた手を前に出し、低い姿勢で構える永遠。いや、もはやその姿はゲオそのものだ。
今度は結月が先手を取る。暗示を解いた全力疾走で距離を詰め
「はぁっ!」
気合いの一閃!横薙ぎになぐ。遠慮のカケラもない。
結月は静に聞いていたのだ、『永遠は死なない』と。
体内にあるコアが破壊されたらその限りではないらしいのだが、この地球上にそれを可能とする物質はほぼ存在しないらしい。
現状、今の結月が何をしたところで永遠はどうにもならない。遠慮は不要なのだ。
だが全力で薙いだ結月の剣は空を切る。永遠が消えた!?
と頭部天頂あたりにイヤな気配を感じ、とっさに手をクロスさせガードする。
と全身に響く衝撃!跳んで剣を躱した永遠にそのまま踵落としを見舞われたのだ。
ガードしたとはいえ視界に星が散る。すかさず距離を取り、仕切り直そうと試みる結月だがそれを永遠は許さない。地を這うようなダッシュで距離を詰めてくる。
来る!あの斬り上げる剣撃!
結月はそれに備える。が、永遠は結月の目の前まで来ると、また消えた!?
上だっ!
永遠は結月の上を逆立ち姿勢で飛び越していく。ご丁寧に曲刀で一撃を加えながら。
「うぐっ!?」
肩口に走る鈍い痛み。だがまだだ!
着地する永遠めがけて突きの連撃を浴びせる。が、永遠は3連続バック転とバックステップで距離を取る。
「…あんた、本当に『永遠』?」
結月がそう言ってしまうくらい、永遠の動きは見事なものだった。
「ああ、本物の『ゲオ』には遠く及ばないけどな」
永遠はそう言うと曲刀をベロンと舐める。なかなかに芸が細かい。
結月は斬られた肩口に気をやる。流血はしていない。どうやら永遠は曲刀に刃は付けなかったらしい。
だからと言ってあんなモノを叩きつけられたら無傷では済まない。現に一撃を受けた左肩はけっこうな痛さだ。
…ヤバい、楽しい。
剣道の試合では感じられなかった、この肌のひりつくような緊張感。曲刀に刃がないことを知って少々緊張感は欠けたものの、それでもこの感覚はたまらない。
再び構え、睨み合う結月と永遠。
と、そこに水を差される。
「あんた達、なにやってんのよ」
静だ。手には何枚かの紙を持っている。
「永遠もなんて格好してんの、ちょっと元に戻ってくれない?」
そう言われた永遠は、結月に一礼すると元の姿に戻る。
「永遠、ちょっとコレ見てくれない?『立体迷路』の構成図なんだけど」
永遠は静から図面を受け取ると、次々と目を通していく。
「静様、この構成図ですと、この通路とこの通路は繋げません、この階段に交差します。ですのでこのギミックをこちらへ移動して…」
図面を覗き込み、話し込む2人。
「永遠、あなたやっぱり賢い!ちょっと小屋へ戻りましょう。一緒に考えてよ」
静は永遠を引っ張って小屋へ戻って行く。
と、思い出したかのように静は振り返り
「結月〜!暗くなる前に帰って来なさ〜い!」
遠くから手を振り大声で叫ぶ。
「言われなくったって帰るわよ。もう子供じゃないんだから…」
そんな結月のボヤきは、夕暮れ時の廃墟の街にとけて消えていった。
ゲオ。結月とは先に一度、後でもう一度戦う事になるのですが、本気を出しているようでまだ本気ではありません。
と言いますかゲオが本当の本気を出すと結月は負ける、を通り越して死んじゃいます。
獣人の武器は剣だけではないですもんね。




