第057話 閑話2『静の手記』
祐樹が死んだ。
結月と絵里ちゃんを庇ってトラックに轢かれたんだって。
結月曰く、やりきった顔をしていた、そうだ。
違う。私はそんなの認めない。まだ約束は果たしていない。
落ち込む結月に『ごめん、独りにして』と言って私は自室にこもった。
祐樹は生命活動を停止した。けど、その肉体のDNAにはその瞬間までの情報が刻まれているんじゃないの?
それは奇しくも私の大学時代と大学院での研究テーマ『ゲノム解析』の概論の1つだ。
肉体は常に記憶をし続け、そのゲノムにバックアップを残す。
9割以上の使途不明なDNAは例えるなら自宅にあるフロッピーディスクのようなもの、使えるけど使わない。
でもいざ中を見ると色々入っているのよね。古い写真とか過去の記録とか、悶えるような黒歴史とかもね。
遺伝子に秘められた1割以下の身体の設計図と9割以上を占める心と記憶の構成図。
このデータを完壁にサルベージし、解析してクローンを作成すると、あの事故の瞬間までの記憶と心をもった『真島祐樹』本人にもう一度会えるんじゃないの?
私の辿り着いた結論は
『ゲノム完全解析による記憶転写型クローニング技術の開発』だった。
ありがたいことに以前から出身の大学に客員教授として来て欲しいとのオファーを何度かいただいている。
大学に連絡を入れ研究員として学内に出入り出来ようお願いしてみたところ、週に何マスか教鞭をとる事を条件に快諾してもらえた。
現時点で人間のクローニングは、技術面や人権やモラルといった面でも実行不可能よね。
『神をも冒涜する行為』ですって。笑っちゃうわ。
神様、あんたいないんでしょ?いたとしても祐樹を死なせちゃうような神なんて無視よ、無視。
もしくは虫以下よ。
今は無理でも何千年か何万年か後、当たり前にそういった技術を使う時代が来るかもしれない。
その為の準備は出来るわ。
さっそく明日から祐樹のDNAのゲノム解析に取りかかるわよ。
私が祐樹に会いたいんだから、私のDNAも解析しなきゃ。
もうついでに結月も、今お腹にいる子もみんな解析して残しちゃおうか。
そして今度は四人で家族団らんよ。うふふ、楽しみね。
ああ、明日から忙しいなあ!祐樹も今はいないけどまた会える。だから頑張るわよ、私。
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これが後の世に『ゲノム解析の母』またの名を『MAD Scientist SIZZ』と呼ばれる女性の誕生した瞬間だった。
祐樹の妻・静の手記です。
この時点で彼女は38歳。お腹の中には4ヶ月になる胎児がいます。高齢出産ですね。
人は祐樹の死に『死んだ人は帰ってこない、だから命は尊いものだ』と言ったのですが、彼女は
『それは力のない者の言い逃れよ。私には力がある、だから取り返すのよ』
と言って、取り合わなかったそうです。
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言わずもがなとは思いますが、この話はフィクションです。静の語る概論もウソッパチです。信じないで下さいね。




