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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第035話 『祐樹の激昂』



「初めまして。スタンと申します。ユーキさん達に護衛してもらっている行商人です」


連れ立って孤児院へ来た祐樹達。初見のスタンと互いに自己紹介するウィルとミカ。そこでマールがスタンへ目配せをする。


「ああ、例の件、彼らには話してあるのですね。院の資金の件は解決しましたよ。安心して下さい。ただし私達が関わったことは他言無用にお願いしますね」


その言葉にウィルとミカの表情がパッと明るくなる。そしてもう1つの懸念材料は


「あと魔獣の件じゃがな、あれは儂が初日に来た時に気になったので刈っておいたぞ」


サラッと言うエイに、今度は安堵と驚愕の混ざり合った表情のウィルとミカ。百面相だ。なかなか忙しいな。

ともあれ院の抱えていた問題は一通り解決を見た。


「だったらあの簗は要らなかったかなぁ」


頭をポリポリとかく祐樹。


「いえ、資金があって困ることはありません。運営資金に余裕が出来れば院の子供たちを街の学校へ通わせる事も出来ます」


「それに見て下さいよ、これ」


とミカが持って来たのは、先日祐樹が織り方を教えた葛の繊維の帯、だったのだが器用なことにそれを応用してカバンのような物の原形まで織っていた。


「皆、色々と作るのが楽しくて。また葛の蔓を採ってきて茹でて、前庭に寝かせてあるんですよ」


とミカの指差す先には藁の山が。


「昨夜アリアさんがいらしたのですが、これと竹のカゴを見て『良い物が出来たら買い取るわよ』と言ってくれました。簗も見て行かれたんですが、あの人もユーキさん達には感謝しなきゃねって言ってましたよ」


昨夜?彼女が?

たった今さっき彼女に会った祐樹だったが、なかなかに強い毒を吐かれたばかりだ。


まぁともあれ、皆で簗を見に行くことに。


---


「これは…ユーキのアイデアなのですか?」


簗を眺めるスタンの顔は真剣そのものだ。そこに何かの商機を見出したのだろうか。


「いや、これは俺の…昔に見た物からヒントを得て作ったんだ」


さすがに故郷の漁法だとは言えない。故郷はカブールという事になっている。スタンはカブールにも居たのだ。

そう言ってる間にも簗には魚が打ち上げられている。それをカゴを背負った男の子が拾い上げていく。


「…そうですか。では深くは聞かない事にします」


「ああ、別にここじゃなかったら、スタンもどこか別の所で同じもの作ってもいいよ」


商機を見出したであろうスタンにそう進言する祐樹だが


「いいえ、やめておきましょう。これは私達の技術ではおそらく作れないでしょう」


そう言うと少し笑い、黙ってしまった。


「あの竹のカゴも、部屋にあった織物もユーキが教えたのですか?」


「教えたと言っても基本的な組み方だけだよ。あとは彼らが応用して色々やってるみたいだけど」


「そうですか。ユーキ、あなたは…」


そう言うとまた黙ってしまったスタン。


「ま、いいでしょう。先ほども言いましたが深くは聞きません。あなたの知識で子供たちに明るい未来が拓けたのです。感謝しますよ、ユーキ」


うって変わって明るい表情で祐樹の手をにぎるスタン。

だが、そのスタンの表情は祐樹の心に小さな、とても小さな違和感を生んだのだった。


---


その夜。

スタンの用事も祐樹の用事も済んだ事もあり、また皆で夕食を、との運びになった。


今度は祐樹もルークも街装だ。

ルークは流石は若者というところか、なかなかにカッコいい。

対して祐樹は、マール曰く


「なんだか休みの日のお父さんみたいですね」


そりゃ仕方がない。中身は45歳のサラリーマン、原色溢れる服はもう着れない精神年齢なのだ。

だがそう言うマールも大して祐樹とは変わらない格好だ。とは祐樹も口に出しては言わなかったが。


皆で連れ立って行った店は先日と同じ魔獣肉料理店。


前回と違って魔獣肉が問題なく食べられる事がわかっている為、祐樹は美味しくいただいた。

隣のテーブルでは、甘え盛りのニースとそれを甲斐甲斐しく面倒を見るミラ、そして優しい表情で見守るスタン。

その姿は懐かしく、祐樹に静と結月を思い出させた。


静、そして結月…今ごろ何をしているだろう?

1人落ち込む祐樹。


「ユーキさん、どうかしましたか?」


そんな祐樹を心配して声をかけるマール。


「いや、なんでもないよ。ちょっと家族を思い出してさ。そういや君達の両親はどうしているんだ、って聞いてもいいのか?」


祐樹のとっさに出てしまったデリカシーの欠けた質問だったが、思わぬ所からフォローが入る。


「ちなみに俺んトコぁ両方ともおっ死んじまってもういねぇぜ」


ルークだ。

その言葉で一瞬テーブルに沈黙が走る。


「おいおい何だよ。んなこと言ったってよ俺が生まれる前に親父は行方不明だし、母親の記憶も殆ど無ぇんだ」


「だから猿に育てられて猿になったのね、あなた…」


マキが憐れみを込めた眼で毒を吐く。


「てめーこそゴリラか何かに育てられたんじゃねぇのか、このメスゴリラ」


睨み合う2人を他所に、マールが話す。


「えーと、母は健在です。これは前に一度言いましたね。一年以上会ってませんがあの人の事です、健勝だと思います。で、父なんですが…」


「死んでなきゃ生きてんじゃないの。あの人の事だから元気にやってるわよ、きっと」


と吐き捨てるように言うマキ。

察するに母親と父親は一緒には居ないようだった。離婚?なのだろうか。だがさすがにそこまでは踏み込めない話だ。


「ユーキさんの御家族はどうされたのですか?」


マールの問いに、少し逡巡しながら祐樹は答える。


「家族とは…遠く離れてしまったんだ。でも再会する方法を探す為に旅をしてるんだよ」


「そうですか…では僕もユーキさんが家族と再会できるよう祈ってます」


そこへマキの横槍が入る。


「ふん。どうせ奥さんも娘ももう死んでんじゃないの?もう諦めてまた新しく家族を作ればいいじゃない」


あまりにも軽く吐いたマキのその言葉は、普段は滅多に怒ったりしない祐樹を激昂させた。


「…俺は…絶対に諦めない…!」


怒りの感情を露わにマキを睨みつける祐樹。


「ひっ…ご、ごめんなさい、言いすぎたわ」


見かねたエイが仲裁に入る。


「のうユーキよ。食事の席じゃぞ、控えぬか。マキ、ぬしも言い過ぎじゃ。言って良い事と悪い事もあろう。この事は後にぬしらの御母堂に会うた時に報告する、存分に叱ってもらうがいい」


さすがにしゅんとなるマキ。

だが祐樹はこの事でより強く家族の事を思い出してしまい、すぐ横で団欒しているスタン一家が自分の過去と重なり、もうその場にいることができなかった。


「ごめん、少し頭を冷やす。先に出てるよ」


そう言って祐樹は席を立った。





祐樹は『家族と再会したい』とは言いましたが、その家族が妻と娘だとは言ってません。

普通に考えれば、祐樹くらいの年齢で『家族と再会したい』と言えば親や兄弟になるのですけどね。




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