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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
201/205

第201話 『成人』



「え、じゃあスタンさんは最初から気づいていたのですか!?」


翌日の午後。結弦ゆづるとニースは帰宅していたスタン夫婦の元を、もといニースの『実家』を訪問していた。幸か不幸か祐樹としずの二人は外出中だったのだが。


「いやいや、私も最初は愕然としましたよ。ですが…」


ニースの『死刑宣告』。それを祐樹としずから告げられたあの時、スタンは二人にニースの救命を嘆願しようとした。

だがそれをスタンはミラに縋り付かれ、止められたのだ。


「その時の家内の表情で察したのです」


と視線をミラに送るスタン。


「だってあまりに可笑おかしかったのですもの!ユーキさん演技力がなさすぎて」


あの時、ミラが首を横に振って歯を食いしばりながらこらえていたのは、『絶望感』ではなく『笑い』だったのだ。

そしてそれを悟った瞬間、そのあまりにも大根役者な祐樹の演技にスタンにも笑いが込み上げてきた。


「だから私もそれを悟られぬよう、必死に堪えていたのですよ」


地に伏して堪えていたスタン。彼も笑いを堪えてプルプルと震えていたのだ。


「まあユーキとシズさんの事です、何か考えがあるのだろうとは察しましたが…」


とそこまで話すと、その時のことを思い出したのか思い出し笑いを漏らすスタン。

が、一転して真剣な面持ちへと戻り


「ともあれ貴方たち二人の気持ちは聞かせてもらいました。ですがあんな状況での話です、もし考えを改め直すというのならば話を聞かないわけでもありま…」


「スタンさん!娘さんを、ニースを僕に下さい」


スタンが話し終わるのを待たずにして結弦ゆづるは立ち上がり、そう言って深々と頭を下げた。

その様子を見たスタンは、軽くため息をつくと


「…大事に育てた大切な娘です。私たち夫婦がこの子の事を考えなかった日などありません」


と苦渋の表情を見せるスタン。だが席から立つと一転して安堵の表情を浮かべ


「ですがいつかは誰かの元へ行く事も覚悟してました」


そう言って結弦ゆづるおもてをあげる事を促する。


「娘の幸せは私たち夫婦の幸せでもあるのです。それはあなたのご両親も同じです」


そしてスタンは結弦ゆづるの手を取る。


「ユヅル、ニース、二人で幸せになるのですよ」


スタンは涙目でそう微笑んだ。結弦ゆづるとニースは視線を交わし、強く頷く。

と、そのタイミングで


「あら、お客さん?」


玄関の方から声が。外出してい祐樹と静とロジー、そしてハルカの元へ行っていたエンも交流して戻った来たようだ。

しずだってわかっている。このタイミングでの来客など結弦ゆづるとニース以外にいまいと。一瞬、しずの方から不穏な空気が流れそうになるが


「やあ母さん」


そんなしずに、まるで昨日のことが無かったかのように優しげに声をかける結弦ゆづる


「…なに?怒ってたんじゃなかったのあなた」


対してしずは腕を組み、いぶかしむような視線で息子ゆづるを見る。


「よくよく考えりゃさ、母さんがそういうやり方しか出来ないって事は前々からわかってたんだ」


『ホント不器用だよね』と言って肩をすくめ、結弦ゆづるは苦笑い。


結弦ゆづる、あのな…」


いつかのように祐樹はしずをフォローしようとする。

だがわかっている、たぶん父よりも自分のほうが。

母とは結婚前は他人同士だった父よりも、その身に流れている血の半分が母のものである自分のほうが、その行動原理をより深く理解したという確信がある。


僕には、間違いなくははと同じ血が流れているのだ。


「大丈夫だよ、父さん」


そう微笑んで結弦ゆづるは席を立つと、キョトンとした表情で立つしずのその手を取る。


「ありがとう母さん。僕はこんなに『人』に恵まれて…」


そこまで言って結弦ゆづるは少し困ったような表情を見せると


「僕はさ、『幸せになる』って言葉の意味がいまいちよくわからないんだ」


そう言い、苦笑をこぼす。


「人に恵まれ、環境に恵まれて、そして人生に最高のパートナーを得た」


結弦ゆづるは視線をニースに送ると、ニースははにかむように微笑む。


「そんな僕にみんな『幸せになれ』って言ってくれる。でもさ、僕はずっと前から今も『幸せ』なんだ。そしてこの先も…」


そう言って周囲の人々を見渡す。スタン、ミラ、祐樹、ロジー、ニース、そしてしず

結弦ゆづるの微笑みを受け、しずは少し照れくさそうに視線を外すと


「ふ、ふんっ、そんなのわからないじゃない。人生はまだまだ長いんだから。これからいろんな事もあるだろうし、いい事ばかりじゃないかもしれないわよ?」


そう悪態をつく。だが結弦ゆづるはそんな母を見てふと気づく。そうか、結月あねは母のこういう部分を見事に受け継いだんだなぁ、と。


「大丈夫だよ母さん。僕は…」


そこで結弦ゆづるは一旦言葉を止めた。そして



「俺、強く生きるよ」



そう言ってしずに微笑む結弦ゆづる

そこにあった顔はもうしずのよく知る『息子』ではなく、『大人の男性』として生きる事への決意に満ちた表情、しずの杞憂など消し飛ばしてしまうくらい力強く自信に満ちた微笑みだった。






『僕』に始まり『俺』へと変化し、『私』へと落ち着く、のが男性の一人称でしょうか。皆がそうだというわけでもないですが。

私はひととき『自分』というのを一人称に使っていた事がありました。ですが年配の方から『それは軍隊用語なんだよ』との指摘を受け、使うのを控えるようになりました。今は『私』です。


ちなみに関西では『自分』というのを二人称にも使ったりします。ああややこしや。





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