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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
200/205

第200話 『フォロー』



「これはどういう事だよ、母さんっ!」


結弦ゆづるははを睨みつける。


「どうって?ニースは助かり、あなたは結婚する。よかったじゃない」


表情を変えずにそう話すしずに、結弦ゆづるは拳を握りしめる。


結弦ゆづる、あのな…」


そんな二人を祐樹は仲裁しようとするのだが


「父さんは黙ってて!どうせこんなの母さんの考えた事だろっ!」


それは取り付く島もなく結弦ゆづるにはじき返された。


「何がご不満でも?」


手を腰にやり、見下すように嘲笑するしず結弦ゆづるは握りしめた拳を振り上げようとするが、その震える拳をニースに抱き止められる。


「ユヅ兄…」


そう言ってニースはただ首を横に振る。結弦ゆづるは誰にも聞こえないような小さな舌打ちを漏らすと


「…こんなやり方、僕は到底みとめられない」


そういうとニースの手を引き、その場を後にしてしまった。

その様子に一瞬、目の泳いだしず。それを見るやミラはしずへと目配せをし、彼らの後を追ってその場を去っていった。


「いやぁ、本当に心臓に悪いですよ」 


やや凍りついたその場の空気をほぐすように、スタンはそう言って大きく息を吐き脱力した。


「そうだぞ。せめて私にくらい一言ひとこと告げておいてくれてもよかったのではないのか?」


とギリアムも安堵のため息を吐く。


「悪いな。こっちにもちょっと思うところがあったんだよ」


そう言って祐樹は少々落ち込んでいるしずの肩をそっと優しく抱く。


「…これで、良かったわよね?」


みずから嫌われ役を買って出たしず。だがそれは想像していたよりもかなり重かったようで、その瞳には涙も滲む。


「そうだな、それはこれからの彼ら次第なんじゃないかな。俺たちはスタートの合図を出した。この先どこへと進むかはわからないけどさ、彼らなら必ず良い方向へと向かってくれるよ」


そう言い、祐樹はしずの頭を優しく撫でた。


---


自宅へと戻り、言葉を発しない結弦ゆづるとニース。途中で追いついて一緒に来たミラは大きなため息をつくと


「あ〜あ、ほんっとあなた達ってよく似てるわよねぇ」


そう言われ、互いに目を合わす結弦ゆづるとニース。だが


「違うわよユヅル君、あなたとシズの事よ。あなた、ほんとお母さんにそっくりよね」


そう言われ『ギッ』と奥歯を噛み締めると


「…僕は、あんな事しないっ!」


とミラを睨みつける。だがミラはそれを一笑に伏すと


「うふふっ。あらそうかしら、まるでそのまま同じ事をしたじゃないユヅル君。覚えてないの?」


そう言われ、みずからの記憶を辿る


「え…あっ、もしかしてあの時の村の若者たちの事ですか?」


過去にスタン達の護衛として彼らの行商に同行した時の帰り道、結弦ゆづるは村の若者四人を救う為にみずから『嫌われ役』を買って出た。


「でも、あれは彼らを村に戻す為に仕方なかったんですよ」


その為に結弦ゆづるは彼らに怪我を負わせ、村には脅迫とも思える金額の請求を行った。

結果、スタン達は『悪魔めっ!』と石を投げられて村を追い出される事となったのだ。


「そうね。今回の件もウチの娘を救う為にシズは仕方なく嫌われ役を買って出てくれたんじゃないかしら?」


ミラにそう返され、結弦ゆづるは黙り込んでしまう。


「ねえユヅル君。君が救ったあの村の四人の若者、彼らは貴方に『感謝』してると思う?」


結弦ゆづるは首を横に振り


「いえ、僕は彼らに感謝されたくてあんな事をしたわけじゃありません。ただ彼らがあの村で平穏に暮らしてゆければ…」


「そうね。シズもあなたに感謝されたくてやったんじゃないと思うわよ」


ただ二人が共に生きる決意を持つよう願い、しずは行動に移した。


「まあでもそれだけじゃないとも思うけどね」


そう言ってミラは指を立てると


「ユヅル君、あなたは自分の両親の事を神様か何かだと思っていない?」


さすがに結弦ゆづるも両親を神だとは思っていない。だが結弦ゆづるの中で『母』とは天才的で凶気的で、とても逆らう気も起きない絶対的な『母』。

そして父・祐樹は憧れの存在。自分の目指す、あんなふうに生きて行きたいと思う象徴のような存在だ。


「ユヅル君にはどう写っているかは知らないけどね、私から見たらシズもユーキさんも普通に『人』よ。それこそどこにでもいる普通のね」


納得のいかない顔をする結弦ゆづるにミラは優しく微笑みかけると


「そう、普通。普通に幸せを享受するごく普通の夫婦よ」


そして今度はニースを見て話し出す


「ねえニース。私もスタンもね、とんでもなく強いってことは知ってるわよね?」


ニースは黙って頷く


「でも私たちは普通に幸せよ。ごく普通に夫婦として愛し合っているもの」


そんなこと言われずともニースはよく知っている。この夫婦、ほんとうにいまだにラブラブなのだ。


「ユヅル君。キミが強くて天人だってのはもちろん知ってる。けどね、それ以前にキミが優しくて弱くて泣いちゃう人だってことも私は知ってるわよ」


覚えのある結弦ゆづるは黙って俯いてしまう。


「ニース。あなたはいつも要領が良くて頭の回転が速い。でもね、だからって経験を積む事をおろそかにしちゃダメ。物事はその身で覚えなさい。じゃなきゃいつまで経っても自分に自信が持てないままよ」


図星を突かれ、ニースも黙ってしまった。


「もうね、二人とも弱いところだらけ!いくら強い相手を倒せようが、いくら強力な魔法を扱えようが、ほんっと二人ともダメダメ!」


そう言って立ち上がると、ミラは二人の肩に手を置き


「でもね、そういう所が愛おしいと思えたから一緒になろうと思ったんでしょ?」


と微笑む。


「ユヅル君。あなたシズに感謝する気持ちあるわよね?なら二人で幸せになりなさい。結果的にそれが親に対する最高の恩返しになるんだから」


ニースもわかってるわよね、と自身の娘にも念を押すと



「じゃあ私は皆のところに戻るね。ロジーは私の家の方に泊めるから、後は二人でごゆっくりね」



そう言ってミラはしずのように後ろ手に手をヒラヒラと振りながら、結弦ゆづるの家を去っていった。






なんだかんだで200話目

トントン拍子で結婚が決まった結弦とニースですが、彼らには幸せになってもらいたいものです。


てか幸せにしますよ、私の権限で。





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