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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
193/205

第193話 『一夜明けて』



「さてユヅル。ゆうべはお楽しみのようでしたね」


学園の昼下がり、結弦ゆづるの私室。そこに二人の男女の訪問者があった。


「私としては未婚のウチの娘と一夜を過ごされたのですもの、責任を取ってもらいたいものですわ」


「うっ…あの、ええと…」


言葉に詰まり、悶える結弦ゆづる。来訪者はスタンとミラだ。そんな結弦ゆづるの様子にミラは笑い出す。


「うふふっ、冗談よ。わかってます何もなかったことくらい」


娘たちの顔を見ればわかるわよ、とミラは笑うのだが、スタンは真剣な面持ちのまま


「ですがユヅル、家内も言ったとおり『未婚の娘が自宅に泊まった』というだけでもあらぬうわさの元になります。気をつけて下さいね」


『はい…すみません…』と意気消沈な結弦ゆづる。だが今回の訪問の主題はそれではないようだ。


「ねえあなた、ちがいますよ。今日はそんな話をしに来たのではないでしょ?」


『えっ、ええ、ううん、』と今度はスタンが言葉に詰まる。


「ごめんねユヅルさん。この人は娘のことになると本当にダメなの」


「ダメとはなんですか、ダメとは」


とスタンは少し反論する。が


「うふふっ、ダメはダメですよ」


とミラはコロコロと笑い、その視線でスタンを刺し殺す。


「失礼。ユヅル、今日はあなたにお願いがあって寄らせてもらいました。実は…」


スタンの話を要約すると、今やっている仕事が忙しくなり、これからはミラと共に出かけて不在になる日が多くなる。なのでニースとロジーを結弦ゆづるの家に下宿させてもらえないか、というものだ。


「え、いやさっき変なうわさがたったらと話をしていたばかりじゃないですか」


「それは無許可な場合ですよ。キチンと学園に二人の下宿先と届け出て、あなたが保護責任者として登録してあればなんの問題はありません。ですが…」


そう言うとスタンは真剣な瞳になり


「し、信じていますよあなたのことを!ありえない事だとは思うのですが、もし、万が一、ウチの娘に手を出したら、ち、ちゃんと責任を取ってくださいね!」


結弦ゆづるの手を両手で強く握るスタン。その瞳はもはや真剣を通り越して涙目だった。


「あら、私はユヅルさんが責任を取るカタチになってくれたほうが嬉しいんだけどね〜」


そんなミラの言葉にガックリとうなだれるスタンと結弦ゆづる


「ですが…いやわかりました、下宿の話は受けさせていただきます。ですがそこまでしてする仕事って何なんですか?」


するとスタンは一冊の本を取り出した。


『スタン・スペンサーのグルメ紀行』


「ありがたい事に売れ行き好調なのです。そしてその影響、という訳でもないのでしょうがちまたではグルメ旅が密かなブームになりつつあるようなのです」


そうなるとおのずと本の続編を願う声も多く聞かれるようになる。


「私としても紹介したい店が沢山あります。そして風のうわさに聞く各地の料理にも興味があるのです」


なのでミラと共に各地を巡って食の見聞を広め、それを本にしたためたい、との事だ。


ニースだってもうとっくに成人したじゃない。私たちだってまだ隠居するような歳でもないし」


私またあなたと二人で旅をしてみたいわ、そう言ってミラはスタンの腕に抱きつく。


「ミシェルのほうにもすでに許可は得ています。ユヅル、お願いしてもいいですか?」


すでにロジーの実家の方に根回しが済んでいる、という事は昨夜の件があろうがなかろうがこの話をする事はおよそ決定事項だったのだろう。

そう考えると、昨夜の二人の外泊はスタンにとってタイミングの悪い、胃の痛む出来事だったに違いない。


「…わかりました。スタンさんの信頼に答えられるよう努力します」


「…ど、どの信頼に応えるつもりなのかは聞きませんが信じてますよ、ユヅル」


なかば諦めのような表情のスタン。それに対し満面の笑みのミラは


「うふふっ。ユヅルさん、やっぱりあなたは面白いわね。ねえあなた、私たち案外早く孫の顔が見られるかもしれないわよ」


---


「ユヅ兄お待たー」


いつも通り結弦ゆづるの私室を訪れたニースとロジー。


「そういやさっき父さんと母さんとすれ違ったよ。ここに来たんだよね?なんか母さんご機嫌だったけど」


とニースは結弦ゆづるを見るのだが、その結弦ゆづるはなにやら激しく脱力し、机に突っ伏してくたばっている。


「…いや、なんでもないよ。ただ君たちの引っ越しが決まった、て事かな」


ニースとロジーは顔を見合わせ


「ユヅ兄のトコに?」


「え、なんで知ってるの?」


どうやら前々からニースとロジーには打診してあったらしい。


「なら話は早いね。僕の家の二階に使ってない部屋あっただろ、ニースもロジーも好きな部屋使ってくれていいよ」


と、そんな結弦ゆづるの受け答えに二人は違和感を覚える。学園ここでは自分たちの事を『スペンサーさん』と『ヨシイさん』と呼んでいたし、言葉遣いだって変に丁寧語だったはずだ。


「ああそれね。もうなんか普通でいいか、って思っちゃってさ。てか外面そとづらだけつくろったところで結局は僕は僕なんだし」


変に教員らしくするのも逆にアレだしさ、と笑って見せるが


「そだね。どっちかっていうとユヅ兄は外面そとづらより外見がいけんを変える方が先決かもね」


とニースは結弦ゆづるの着ている服を指差す。


「なんだよ。これ似合ってるだろ?」


普通にグレーのスラックスに普通の開襟シャツ。その上に学園の教員らしくグレーのマントを羽織っている。


「だめ。それじゃ歩く墓石だよ」


「…もはや君の感想の方が意味不明だよ」


この格好の方が教員らしいじゃん、と結弦ゆづるはそのマントを摘んで開く。


「だからその『らしくある』ってのがなんだかなぁ、ってさっきユヅ兄が自分で言ったじゃん?」


「ん、そっか。でもまあそんなすぐには変えられないよ。けどここはあえて教員らしく…」


そういうと結弦ゆづるは、昨夜に自身で書いたであろう数式と図式の書き込まれた紙を机上に広げる。



「さあ、君のあの魔法の検証をしよう」







いいですよね、グルメ旅。

四季折々の料理を各地を転々としながら楽しむ旅。憧れます。が、現実は中々に厳しく、生活でいっぱいいっぱい。


まあでもそんな日々も悪くないと思っています。








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