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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
192/205

第192話 『夢想起』




「…ん。あれ、ここは?」


緩やかに意識を取り戻した結弦ゆづるは寝ぼけまなこあたりを見まわす。

そこはリゾートホテルのロビーのような場所だった。眼前に広がるのは青い空にサンゴ礁の海、察するにここは南の島のようだ。

ソファーに深く座った状態で手元にはアクティビティを紹介する冊子がある。どうやら何をして遊ぶかを考えながらうたた寝してしまっていたらしい。


隣のソファー席にも座っている客がいた。一組の新婚旅行っぽい日本人のカップルだ。だがそちらは他の観光客たちとは違い、登山靴にマウンテンパーカー、席の横に置かれているのは無骨な背嚢はいのうとヘルメット。およそ青い空とサンゴ礁の海に相応しくもない格好だった。


『すごい格好だなぁ』と心の中で呟き男性のほうを見る結弦ゆづる。が、その彼と目が合ってしまう。すると彼はこう言った。


「あれ、君はあの時の…?」


結弦ゆづるは彼に見覚えはない。

いや、あった。たしかあれも確か旅先だった。


「あ!あの時、子供の自転車を…」


そうだった。結弦ゆづるが以前に旅先の街を彷徨うろついていた時、彼はチェーンが外れて泣いていた見知らぬ子供の自転車を直してあげようと道端で四苦八苦していたのだ。


「そうだよ。あの時はホント助かったよ、ありがとう」


それを通りがかった結弦ゆづるが見かねて修理したのだった。


「また旅先で再会なんて奇遇ですね」


結弦ゆづるは笑顔で話しかけるのだが


「そうだな。けれど君は随分と暗い顔をしているな。何かあったのか…って前も暗い顔してたもんな、君はそういう顔なのか」


奇遇な再会をした相手からのあけすけな言葉に少々ムッとしながらも、結弦ゆづるは言葉を投げ返す。


「あなたこそこんな南の島にそんな格好で」


目の前に広がるオーシャンブルーを眺め、若干の皮肉を込めてそう言った。すると登山服姿の彼はキョトンとした顔でこう答える。


「この島は火山島で有名だろ?そのカルデラをいつか彼女と一緒に見に来たかったんだよ」


そう言って彼は向かいのソファーの彼女と微笑み合う。


「でもそれって危険なんじゃないんですか?」


南の島だし、キレイなサンゴ礁の海もあるし、そっちの方が魅力的じゃないですか、と結弦ゆづるは言うのだが


「あの山は活火山だもんな。いつ噴火が始まるかはわからないし危険だとは俺も思うよ。けどさ、あの美しい海にだってサメもいるし猛毒を持つ海ヘビや毒針を持つ魚や貝、クラゲだっている。危険って意味ではどっちもどっちだよな」


と彼は笑い飛ばす。


「まあ『価値観の違い』ってヤツだ。俺は見たいものを見たい、だからこっちを選んだ。後悔してもいいようにな」


後悔してもいいように?


「ああそうさ。どう決断しても後悔なんてものは多かれ少なかれ絶対にする。だから自分のより良いと思う方を選んで後悔する、そう決めているんだよ」


じゃああなたに後悔があるとでも言うのですか?

立派に生きて、良き伴侶と巡り合って、それでも後悔があるとでも?


「ああ、俺の人生は後悔だらけだよ。君もそうだよな」


「ええ。いっぱいあるわよ。それが大人だもの」


それが大人?じゃあ『後悔』って何ですか?なぜそれが大人なのですか?


「子供は本当の意味での後悔をしないんだよ。物事の結末を、その責任を自分自身に求めて、そして初めて『後悔』が心に刻まれるんだ」


じゃああなたはあの時、子供の自転車を直した時に後悔をしたとでも?


「そうさ。あの時に思ったよ『自転車を直す練習をしておけばよかった』ってね。けどそれを通りすがりの君が見かねて直してくれたじゃないか」


なぜ出来もしないのに関わる?


「俺があの時あの子の自転車に関わった結果、君がそれに気づいて修理してくれただろ?結果オーライってヤツさ。まあ俺が泣いてる子を見過ごすことが出来なかったってだけの話なんだけどな」


より良い後悔をする為に?


「『より良い人生』を送る為に、だよ」


えっ、『人生』?


「ああ『人生』だ。後悔ってのは人生と切って離せない、いわば後悔も人生の一部なんだよ」


あれが人生の一部?こんなに心を、人を狂わせるモノなのに?


「そうさ。感情と同じだよ。人の心に生まれ、人を狂わせる。けど考えてみなよ、心にフタをして自分らしくある事が正常か?感情のままに叫んで行動する事を狂っているって言うのか?」


平静も狂気も…どっちも『僕』だ


「ははっ!いい答えを持ってるじゃないか。じゃあお前は自分がどうあるべきかはもう見えて…」


「ねえあなた、迎えの車が来たみたいよ」


待って、もう少し話を…


「おっと、話し込んじゃったな。待たせちゃ悪いし俺たちはそろそろ行くよ」


「あなたもそこから先は自分で考えるのよ。その為の後悔をしたんでしょ」



ねえ…ねえ待ってよ!父さん!母さん!



---



「……ュヅ兄、ユヅ兄ってば!」


結弦ゆづるはニースに揺さぶされ、叩き起こされる。


「ユヅ兄!学園!遅れちゃうよ!」


その言葉に結弦ゆづるは慌ててソファーから飛び起きる。

が、若干の頭痛と目眩めまいによろめき、ロジーの差し出してくれた水を一気に飲む。


「そっか、昨夜…」


迷惑をかけたお詫びにと作った料理、そしてお酒。その酒にやられてしまい、朝までリビングのソファーで寝てしまったようだ。


「ってあれ?君たちは…」


「だって仕方ないじゃん、カギどこにあるのかもわかんなかったし。それにあんな夜中に帰るくらいなら危ないから泊まって帰れって父さんも言うわよ」


なのでニースとロジーは仕方なく二階の空き部屋で一夜を過ごしたという。どうやら結弦ゆづるはまた二人に迷惑をかけてしまったようだ。


「ごめん、また迷惑かけたね」


「別に迷惑だなんて…それよりユヅ兄、なんかすごくうなされてたみたいだけど大丈夫なの?」


何か夢を見ていたような気はするのだが…


「う〜ん…なんだろう。何かを忘れてるような…ま、夢だからいいけどさ」


「ねっ、それより昨日言ってた話、あれホントだよね?」


昨日の話?と結弦ゆづるは頭を捻るが、残念ながら思考の検索は何にもカスリもしない。


「ほらニースわたし言ったじゃない、お酒のんでる時の約束なんてアテになんないって」


「なにそれ信じらんないっ!」


むくれるニースに必死に頭を下げて事情を聞く結弦ゆづる

聞くと、昨日の教会のホールでニースが放った魔法の事を結弦ゆづるは酒の席で根掘り葉掘り聞き、それを紙にしたためて理解すると、もっと安全かつ効率的なエネルギー変換方法がある、と熱弁をふるいそれを教える約束をしたらしい。

言われてみればそんな話もしたような、気がする。


「そうだね、今日の午後からは僕の受け持つ講義はないから学園の自室にいる、いつでも来てくれていいよ」


と笑う結弦ゆづる



「絶対だよ!もしいなかったら部屋ごと吹き飛ばしちゃうんだからね」



そう言ってニースは指鉄砲で結弦ゆづるを撃ち抜くのだった。










『自分の形』

誰しもが持つものだとは思いますが、それに囚われすぎるのも何か違うような気がします。

結弦の場合は『父のように立派に』、『母のように強く賢く』と両親に憧れた結果、自分自身の弱い部分やネガティブな面を自分だと認めない傾向がありました。


それを見抜いていたニースは『全部ユヅ兄なんだよ』と結弦に説いたのです。


でもね、結弦はそうやって両親に憧れていますが、当の両人はそんな完全無欠ってワケでもないってのは読者の方ならわかりますよね。 


実際の人間もそんなものですよ。  








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