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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
189/205

第189話 『形跡なき世界の改変』



「はあ?なにいってんのユヅ兄。またヘンなモノでも食べちゃった?」


ニースは心底呆れ顔で肩をすくめる。


「真面目な話だよ。カレンがカノンの転生体だったらさ、それは素晴らしい世界なると僕は思うんだ」


そんな事を微笑みの顔で言ってしまう結弦ゆづるに顔を見合わせる三人。その場に嫌な空気が漂う。


「…ねえユヅ兄。それってばカレンさんの気持ちとか考えた事あんの?」


ニースはそう言って不穏な空気もあらわに結弦ゆづるを睨みつけた。


「カレンはカノンになるんだ。それは君にとっても悪い話じゃないだろ?」


だが結弦ゆづるには何も伝わらなかったようだ。結弦ゆづるは穏やかな笑顔でカレンを見ている。


「では…わたくしは一体どうなってしまうの?」


「さっき言った通りだよ。君はカノンとして生まれてきた事になるんだ」


満足気に微笑む結弦ゆづるに対し、ニースとカレンは顔を見合わせると


「違うよユヅ兄!今いるカレンさんはどうなるのかって聞いてんだよ!」


結弦ゆづるは少し考える仕草を見せると


「そうだね、何も変わらないよ。カレンはカノンになる、ただそれだけさ」


一瞬、拳を握りしめたニースだったが、『はぁ』とため息を吐き出すと


「てかバカじゃないの?んな事できるワケないじゃん」


仮定の話だとしても失礼にも程があるよ、と言ってニースは結弦ゆづるをさらに睨みつける。が当の結弦ゆづるは何も捉えていないその瞳でいきなり笑い出した。


「あはははははっ!そっか、やっぱわかんないよね。ニース、君は知ってた?この世界には四日に一度の『月陰の日』っていうシステムがあったんだよ」


突然の話題転換にニースはポカンとするものの


「寝ぼけてんの?一昨日が月陰だったじゃん」


「ああそうだったね。じゃあニース、その月陰の日って何してた?」


ニースは呆れ顔でこう答える


「家でロジーと一緒に魔法の勉強してたわよ。そもそも月陰なんだよ、外出なんかしたら父さんと母さんに怒られるわよ」


なに言ってんのよ、とニースはロジーと顔を見合わせる。


「そうさ。『月陰』は月が大地の裏側に隠れて消えてしまうから魔獣の活動が活発になる。なので外出を控えるってのが君の知る常識だ。でもね、その常識っていつからだと思う?」


「はあ?なに言ってんの、そんなの昔からに決まって…」


ニースは結弦ゆづるの言っている言葉の意味を考え、ふと言葉が止まる。その常識は昔から常識だったはずだ。そう記憶している。そう言われて育ってきた…はずだ。

なのにその事を考えると不気味な違和感を感じ、思考が止まる。一昨日の月陰だってロジーと共に自宅で勉強をしていた、と記憶している。

考え込む表情で止まってしまったニース。そんな彼女を見透かしたかのように結弦ゆづるは語る。


「もしかして違和感を感じてる?普通は絶対にわからないはずなんだけど」


いい勘してるね、と結弦ゆづるは笑いのない笑顔で語り、話を続ける


「本来の月陰は誰も活動できない魔の一日だったんだよ、ついさっきまで。君の知るその常識はたった今僕が創り出したモノさ」


そう言って左手に持つ本『史記』を見せる。


「君たちもよく知ってるだろ、この本。けどこれは世界を記録する本なんかじゃないんだ。これが世界そのものなんだよ」


そこに書かれている事が真実であり、これが世界である。


「本来は製作者にすら書き換えの出来ない『世界のアーカイブ』だったんだよ、この本は。けど偶然に偶然が重なって僕にそれを編集する権限が生まれたんだ」


それは本当に偶然だった。

結弦ゆづるが手にした『史記』。元々は三百年前に大教皇ミーツォこと吉井教授が、自分以外の最高権限者アドミニストレータ・真島家の四人が休眠状態に入った事により自身に最高権限が一極集中した機会を利用して制作した『世界の構成を客観的に見る本』。いわば世界の設定情報プロパティ


それだけではただの世界を見る本でしかなかったのだが、結月ゆづきが自身の刀に付けた銘により偶然に発生してしまった『樹ノ静弦月』という名の『世界に対するアクセス・キー』。これと合わさる事により、それが編集可能な本となってしまったのだ。


そしてそのアクセス・キーを最後に使った結弦ゆづる設定情報プロパティにログインしたままそのアクセス・キーはエイによって二つに分解され消滅。


結果、その権限が結弦ゆづるに残った。


「だからといって僕は世界を手にしたいとは思わない。ただね、この本があれば僕はまたカノンに会うことが出来るんだよ」


と微笑んだ結弦ゆづるの手元をかすめる一陣の風。そしてその手元にはすでにその本はない。一瞬あっけにとられて振り返った結弦ゆづるの目に入ったのは


「ユ、ユヅルさん、それはダメだと私は思います…」


本を胸元に抱えて涙目で結弦ゆづるを振り返っているロジーの姿が。結弦ゆづるの言動のおかしさに気づいたロジーはとっさに神速で駆け出し、すれ違いざまに結弦ゆづるから本を奪い取ったのだ。


「ははっ!そっか、君は吉井さんの子孫だったね。ちょっと失念してたよ」


そう言ってロジーから本を取り返そうとする結弦ゆづるだったのだが、嫌な予感を感じ瞬時に横へと飛び退く。するとさっきまでいた場所に落ちる『雷撃』


「…どういうつもりだい、ニース?」


ニースは指先に電撃をまとわせながらこう言った



「ユヅ兄、それ間違ってるよ。私が止めてあげる」







目的だけを見据えてしまい、周囲が目に入らずに暴走してしまうのは母親ゆずりかもしれませんね。


この時の結弦は十九歳、そしてニースは十七歳。

まあどの世代でも言えることなのですが、だいたい女性の方が早く大人になりますよね、精神的に。

逆に男性はいつまでも子供っぽいところが抜けなかったり。


結弦も大人になろうとがんばってはいるのですが、実は歳下のニースの方が大人な視点を持っています。




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