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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
188/205

第188話 『潜む狂気』



不機嫌だ。


私がではない、隣にいる彼女がだ。

原因もわかっている。あの一件以降あの人がずっとカレン先生のところに入り浸っているから。

それからというもの彼女は常に不機嫌だ。今だって授業中にもかかわらず仏頂面でペンを持ち、ノートもとらずにうわの空だ。


「ねえニース。ちゃんと授業聞いてるの?」


「…聞いてるわよ」


そう答える彼女だが、彼女にとって前回の復習のような今回の授業は今さら気を入れるようなモノでもないのだろう。


本当に彼女は優秀だ。


あの人から紹介された下宿先『スペンサー家』、そこの一人娘ニース。

私より一つ歳下の彼女。最初は私が歳上ということもありお姉さん然としようとしていた事もあったのだけれど、そんな意識はあっという間に消し飛んでしまった。全てにおいて彼女は『超人』だったのだ。

頭も良くておしゃれで、田舎から出てきた私とは正反対な彼女。であるにもかかわらず年頃らしい小生意気な口調でありながらも私のことを歳上と立てて気遣うあたり、彼女は本当に尊敬できる『友』だ。


「ロジー、今日も学校終わったらまっすぐ帰ろっか」


ため息まじりにそう言葉を吐き出すニース。

わかりやすい。なぜあの人は気づかないのだ、こんなにわかりやすいのに。

先日の夕飯の時もそうだ、あのミラさんの振りにウソで答えたニース。なぜあの人は彼女のウソに気がつかない?


彼女の初恋は未だ継続中よ。見てわかんないの!?


これだけ鈍い人も問題だけど一番の曲者くせものはなんといってもスタンさんよ


『じゃあロジー、君はどうかな?』


ってスタンさんあなた自分の娘の気持ちをわかってて私にふったでしょ!?娘を焦らせて前に進ませたい気持ちはわかるけど私をダシに使わないで!


あの時あの瞬間、私に味方はいなかった。まさにあの場は『針のむしろ』だった。

あの笑顔と笑い声に溢れた恐怖の食卓。私から漏れたのは乾いた笑いだけ。そして私には『憧れの先輩』がいる事となった。


もちろんいないわよ、そんなの。


「「はぁ…」」


ニースとロジーは同時にため息をつく。


「あらロジー、あなた何か嫌な事でもあったの?」


「…もう何もかもがグダグダよ」


ロジーがガックリと肩を落とすと同時に終業のベルが鳴る。


「ゴメンなんでもないわ。ねえニース、今日も帰ったらまたあの魔法構築の続き教えてね」


ロジーはそう言って席を立った。ニースも寂しそうに微笑むと筆記用具を片付けて席を立つ。

そしてロジーと共に帰途につこうとしたその時だった


「スペンサーさん、ヨシイさん、少しよろしいかしら?」


教室を出た二人に声をかける一人の女性教員。


「…人質ごっこはもう勘弁ですよ?」


若干の皮肉を込めて答えるニース。女性教員は恥ずかしそうなバツの悪い顔で苦笑する。


「実はその事で、マジマ先生の事で相談があるの…」


どうしたらいいのか…と苦笑を浮かべる女性教員カレン・グラシエ。


「なんで私に?ユヅ兄に、本人に聞けばいいじゃないですか」


 最近ずっと一緒にいるんでしょ、と今度は強めの皮肉を込めてニースは答える。だがカレンは困り顔で声を潜め


「…ちょっとここでは話しづらいの。私の所まで来てもらってもいいかしら」


---


「で、今日はユヅ兄に教会のホールへ来るように言われたんだ?」


「ええ。でも…」


歩きながら話すニースと困り顔のカレン。


「まあ確かに最近のユヅ兄、ちょっとおかしな所あるもんね」


はぁ、とニースはため息をつく。

カレンの相談とは最近のユヅルの事だった。やけに仮定の話を問いかけてきたり、詩聖カノンの昔話だったり。それ自体はカレンとて嫌いな話ではないのだが…


「そりゃああんな眼で言われたらね」


着いたのは教会の地下のホール。ニースとロジー、そしてカレンの目の前には


「あれ?君たちも来たんだ」


そこには普段と何ら変わりの無い結弦ゆづるの姿があった。

いや、何ら変わりはないのだが…


「ユヅ兄。何かんがえてんの?」


眼だ。あきらかに眼がおかしい。



「そうだね、じゃあ仮定の話をしよう。もしカレンがカノンだったら、それは素晴らしい事だと僕は思うんだ」



左手に例の本を持ち、結弦ゆづるは優しく微笑んだ。








まあ大体『後悔はない』と公言する人ほど後悔を持っていたりするものです。そう言い聞かせていたりしますよね、自分に。

でもね、その後悔も今の自分とその世界を構成する大事な要素だったりします。


失敗と後悔と反省。どれもネガティブな単語ではありますが、人生においてとても大事な要素だと私は考えています。




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