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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
187/205

第187話   『雨降って…』



「カレン。これは一体どういう事だ?」


少しの怒気を孕む大司教ギリアムの言葉。


「お、お父様…一体なぜ…?」


「そんな事はどうでもよい!カレンよ、お前は一体何をしているのかと聞いているのだ!」


父の叱りに一瞬怯んだカレンだったが、すぐさま気を持ち直し


「お父様、いえ、大司教様!この者は死霊術に魅入られし邪悪な存在です!このまま聖都イミグラに捨て置けません!」


巷に流れる結弦(ゆづる)に関する良からぬ噂、無論ギリアムとて知らぬわけでもない。だが知人であるとはいえ結弦ゆづる個人に関するの事でもあり、大司教が口を出すのははばかられる事である上にそもそもが全く有り得ない笑い話だ、とギリアムは一笑に付していたのだが


「…カレン。お前までもがあの下らぬ噂を信じて鵜呑みにしているとでもいうのか」


ギリアムは落胆し、静かに首を横に振る。


「噂などではありません!私はこの眼で見ました!この者はあろう事か我らが高祖カノン様の墓をあばき、死霊術を用いて我らが一族の財産を、『歌』を盗み取っているのです!」


ギリアムはカレンのその言葉で事の真相を悟った。その良からぬ噂の出所と彼女の勘違いに気がついたのだ。


「…教会騎士たちよ、聞け。ここにいるユヅル・マジマは私、大司教ギリアムの大切な友人である。無論、墓をあばいたり死霊術など使ったりは絶対にせぬ男だ。それを知った上でここで起きた事は内密とし、立ち去りなさい」


教会騎士たちは皆一礼し、立ち去る。が


「ああ、お前たち二人はそのまま残っていなさい」


猟犬の二人はその場に残る事を命じられる。


「お父様!」


「カレン、彼は…」


だがそういう話は本人が直接すべきだろう、とギリアムは結弦ゆづるを振り返る。カレンも結弦ゆづるを睨みつけ


「…あなた、あなたが死霊術士ネクロマンサーでないのならば何故あの歌を歌えるのよ!」


歌とは口伝であり財産。ギリアムが親から受け継いだ歌、それを受け継いだカレン。その歌を聞く機会もなかったはずの結弦ゆづるが街の広場でそれらを歌っているのをカレンは聞いたのだ。


「一曲だけじゃない、何曲も何曲も!そんな風に歌詞を替えてごまかしてもその旋律フレーズは我らがグラシエ家のもの、高祖カノン様のものよ!」


結弦ゆづるもようやく気付いた、カレンの勘違いに。


「あのねカレン、その歌は誰のものでもないんだよ。誰かの心を弾ませるモノ、それが歌なんだと僕は思うんだ」


「答えになってないわ!歌を盗んだ言い訳のつもり!?」


結弦ゆづるはギリアムに視線を送る。彼はうなずいた。


「カレン。その歌たちは僕がカノンに教えたモノなんだ」


元々僕が覚えていた誰かの歌だったんだよ、そう言って結弦ゆづるは苦笑する。


「嘘おっしゃい!カノン様の時代って何百年前だと思っているのよ!?」


カレンは父のほうを見る。ギリアムは一考すると猟犬の二人を指差し


「カレン、その二人の話は聞いただろう。天人に神罰を下されたという二人だ」


ギリアムは猟犬の二人にフェイスマスクを取るように指示する。そこにあった顔に今度は結弦ゆづるが驚愕する。


「なっ!?お前たちは…グレンとデイル!?」


あの小さな村の小さな惨劇。その大元となった悪党二人組。あの一件で結弦(ゆづる)に罰を下された彼らは今なお『隻眼』だ。


「お久しぶりにございます、『天人マール』様」


だがあの時の下品な口調、残忍な笑みの気配すら感じさせないその表情。この二人に何があったのかは知らないが、今は心の底から天人教会に帰属しているようだった。しかし


「…僕は君たちに罰を与えた。けどそれで赦したつもりはないしこの先に赦すつもりもない」


結弦ゆづるは冷たく言い放つ。


「我らは赦しを乞うものではありません。我らは人々の心を救いし教義の為の剣、ただそこにあるだけのものです」


「そうか、わかった。じゃあこの場を立ち去れ」


二人は一礼すると再びフルフェイスのマスクをかぶり、立ち去る。

ここまで来てカレンはようやく状況を理解した。カレンはペタンと座り込み、口に手を当てて震えて涙を流しはじめる。


「わ、わた、わたくしは…」


「ねえカレン。僕の話を聞いてくれるかい?」


そんなカレンに結弦ゆづるは優しく声をかける。のだがそんな空気を全く読まないあの男が大声を上げる。


「っと待ったぁっ!おいユヅル!話は落ち着いたな?じゃあギリアムのおっさんはもういいよな?カブールに戻すぜ?」


俺、今日娘が生まれたばっかで早く帰らなきゃいけねぇんだよ、とかすルーク。


「ああカレン!私が帰ったらせ…」


ギリアムの言葉の途中で二人は転移、いなくなってしまった。


「…たぶん『説教があるから待つように』、かな?」


なんだか締まりがないなぁ、と結弦ゆづるは苦笑。ある意味それに一番救われたのはカレンだった。


「天人ユヅル様。わたくしの今までの無礼の数々、なにとぞわたくしめに断罪を…」


結弦ゆづるはゆっくりと周りを見渡し


「ねえカレン。ここにいるニースやロジー、スタンさん、それにさっきまでいた君のお父さんやあの金髪のルークも、みんな僕が『天人』だって事を知ってるんだ」


だがその誰からも結弦ゆづるを天人として崇めたり敬ったり、そして恐れたりしている様子は見受けられない。


「僕はね、確かに生まれは君たちとは少し違うかもしれない、けど今の僕はこの時代に生きる『普通の人』なんだ」


横でニースが『ファッションセンスは普通以下だけどね〜』と笑い、舌を出す。


「ま、まあそれは置いておいて…だからさ、君にも普通に接してもらいたいんだ」


「わたくしは…大きな過ちを…」


結弦ゆづるは首を横に振り


「人はね、思い込みで行動をおこして過ちをおかすものなんじゃないかな?だってそれは僕にも経験があるし、僕の母もそうだったんだよ」


結弦ゆづるはひれ伏しているカレン前にひざまずき、その手を取る。


「だからさカレン、君には今からできる事を考えて欲しいな」


カレンは涙目で結弦ゆづるを見上げる。


「今から…できること…?」


「うん。カレン、僕と友達になってくれないかな?」


茫然自失に結弦ゆづるを見上げるカレン。


わたくしが…あなたの、お友達に…」


するとカレンは涙を拭いてスクッと立ち上がり、しばらく胸に手を当てて天を仰いでいたかと思うと結弦ゆづるを見据えて宣言する。



「わかりました。いえ、わかったわ!今日からわたくしカレン・グラシエはあなたのお友達です!よろしくお願いするわねっ!」



そう言ってニカッと笑ったカレン。それは結弦ゆづるの思っていた以上にカノンにそっくりで、遠き日のカノンを思い出してしまった結弦ゆづるは人知れず涙ぐんだのだった。







スランプです(笑)

いえ、話の流れはできているのですが良い表現が思いつかず書いては消しての繰り返しです。


元より自身の思いつきを書き控えるように始めたこの小説、読者数を気にするつもりはなかったのですが、ここに来て無人の野に独り言を呟いているようでモチベーションが低迷中です。


そんなわけで、もし気に入って読まれている方がおられましたら応援や感想などいただけるとありがたいです。




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