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らせんのきおく  作者: よへち
結弦編
185/205

第185話   『青天の霹靂』



「ですからこの場合、ジュールの数値に変動は…」


結弦ゆづるの受け持つ物理の講義。生徒はニースとロジーを除くとほぼ年上の男性ばかりだ。

受講生たちはそれぞれが自身の魔法威力向上であったり、さらなる強さを身につけたい教会騎士であったり、はたまたものことわりを紐解く学問に好奇心を抑え切れない者などなにかしらのこころざしを持って受講に来ている。その勢いは講師である結弦ゆづるが少し引いてしまうほどだ。


なのでそれを感じ取った結弦ゆづるは猛烈に張り切った。自身の高校三年間と大学二年分の経験を生かしつつ、吉井教授の遺してくれた『物理・上巻』を参考に難易度の高い講義を組み立てた。


『こんなの本当に理解されるのか?』と思いながら作成したテキスト、それも受講生たちはみな結弦ゆづるの想定以上の吸収力で取り込んでいく。


「でもほんと凄いよね!物理って」


学園の結弦ゆづるの私室で手の上に光の礫を発現させるニース。


「でもねスペンサーさん、それはとても強い力を持つモノなんだ。そんな気軽に発現させちゃダメだよ」


『はーい』と軽く答え、その光の礫を消失させるニース。過去にルークが発現させたあの『光の礫』。その原理を物理で紐解いた結弦ゆづるはそれをテキストにまとめ、講義した。

だがそれを教える大前提として『それを消す技術の習得』を条件に設けた。

ルークはそれを丘に投げつけるか放電させるか、もしくは自身が気絶することかでしか消すことの出来なかった『光の礫』。それも構成を知れば打ち消すことも可能なのだ。


その条件をクリア出来た数少ない受講生の一人がニースだった。ロジーはそもそも多属性同時発動ができないし無詠唱もできない。むしろそれが普通であり、ルークやニースのように若くしてハイスペックな者のほうがまれなのだ。

ロジーはその光景をうらやましそうに眺めている。


「ま、キミもルークも仕込まれ方が違うもんね。ヨシイさん、これは努力さえすれば誰にだって出来る技術です、貴女あなたにも出来る日が必ず来ますよ」


今、ロジーはニースから個人的に多属性魔法とそれらの同時発現を習っているところだ。それに関して結弦ゆづるは完全に門外漢、なにせ魔法なんてモノは使えないのだ。


「やっぱナワ…じゃなかった、今はグリムリッドか、あそこ出身の人は凄いんだね」


そういやあそこにとついだヅキ姉は今ごろどうしてんだろ、などと考えていた結弦ゆづるの思考を読んだ、というワケでもないのだが


結弦ゆづる様、少しよろしいですか?』


声だけが部屋に響く。いや、これはこの部屋にいる者の頭に直接響く『言葉』だ。


「いいよ」


結弦ゆづるがそう答えると、そこに一人の女性が姿を表す。透き通るような水色の髪を持つ美しい女性。


「やあハルカ。どうしたんだい?」


ニースとロジーは壁際に控え黙礼している。今でこそこうやって落ち着いているが、二人が初めてこの私室でハルカに会った時は腰を抜かさんばかりに驚き、そのまま倒れ込むように平伏ひれふして顔も上げられなかったのだ。


「朗報です。グリムリッドにおられますユヅキ様ですが、このほどご懐妊されました」


そのハルカの言葉に結弦ゆづるも思わずイスを蹴り倒して立ち上がり、満面の笑みをうかべる。


「そっか…!そうか、じゃあ早くそれを父さんと母さんにも伝えてあげて。それとヅキ姉におめでとうって」


「ええ、わかりました。それでは失礼します」


そう言ってハルカは瞳を閉じ、姿を消す。


「おめでとう!ユヅ叔父さん!」


いじわるそうな笑みを浮かべて祝福するニース。


「あははっ。そっか、僕も『叔父おじ』になるんだ」


しかし喜んでばかりではいられない、油断は禁物だ。妊娠が判明したとはいえ懐妊から出産まで危険は多い。安定期というのはそれなりの目安ではあるものの、その時期であっても胎児の突然死が無いというワケでもないし出産にだって危険はつきまとう。悪夢はいつだって見え隠れしているのだ。


「母子ともに健康に、それを祈るしかないよね」


こうしてこの世界の神にも等しい存在は、いずこの神に祈りを捧ぐのだった。



---



あのハルカの報告から幾月幾日、ユヅキは無事に出産を終えた。玉のように輝く可愛らしい女の子だという話だ。

その朗報を受けて少々浮かれていたその日の夜、それは起きた。独りで暮らす結弦ゆづるの自宅に駆け込んでくるスタン。


「ユヅル、うちの娘たちは来ていませんか?」


ニースとロジーの事だ。今日もいつもどおり講義に来てきた。ユヅキの無事出産の報告も一緒に受けて喜んでくれたし特に変わった様子もなかった。それにその後も他の講義を受けていたはずだ。


「こちらには来ていませんが…こんな時間まで連絡も無しに帰宅していないというのはおかしいですね」


『もしかするとスタンと入れ違いで帰宅しているのでは?』そう考えた二人は共にスタンの自宅へ。

だがそこで待ち受けていたのは数名の教会騎士だった。


「何事ですか?」


スタンの問いかけに対し、教会騎士の一人はその手に持つ書状を掲げて読み上げる。



「ニース・スペンサー、ならびにロジー・ヨシイ。この両名は異端の疑いあり。天人の御名みなにおいて大司教ギリアム・グラシエが審問にかける」



「なっ!?そんな…バカな!?」



スタンと結弦ゆづる、顔を見合わせて思わずそう呟いた。







この世界に一つしかない宗教(?)『天人教会』。それによる異端審問はおよそ極刑に近いものです。

それを取り仕切るのは教会保守派の最高位である大司教『ギリアム・グラシエ』。彼もまたカノンの子孫であり、カレンの父でもあります。




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